第30話 ハーブティー
ルーテはジルに事のあらましを話した。
もちろん、リサはバツの悪い顔で黙っている。
「ビネガーの調合に失敗……、珍しいな」
ジルは意外そうに言う。
「あ、そこなんだ……」
ルークは思ったこととは違う指摘に苦笑いする。
「まあ、まさかと思うぞ」
「ハハ、ずいぶんと買ってくれるじゃないか」
ルーテは恥ずかしそうにジルに言う。
「そりゃ、アンタの料理は美味いからな」
臆せずいう言葉に、ルーテはほんのりと頬が赤くなった気がした。
「確かに、それなら口の中がトゲトゲした感触と言うのも頷けるな……。さっぱりしたものが良いんじゃないのか?」
ジルはリサを気遣うように言う。
「ああ、それは俺もそう思う。ミントティー辺りが良いだろうな」
「ミントなら、すっきりとするし」
ルークは思い出したように声を出す。
ルーテとジルは頷く。
「しかし、こんな時間だ」
「取り調べは明日になるだろう……」
「そうだねぇ……」
ルークはダルそうに腕を伸ばす。
「眠いのか、ルーク」
「そりゃまあ、日中は仕事してたし。兄さんもジルもそうなのはわかるけどさ」
「牢屋まで護送が終われば、少しは休めるだろう」
ルークを励ますように、ルーテは言う。
ルークは牢屋の前で別れた。
「じゃあ、お休み」
「ああ、お疲れ」
ジルはルークが部屋に戻っていくのを見守る。
「持ってきたぞ」
ルーテは湯気の立つティーポットとティーカップを持ってくる。
温かいハーブティーがティーポットに満たされている。
「ありがとう」
リサは注いでもらったティーカップを手に取る。
「温かい……」
「淹れたばかりだからな」
リサは一口ハーブティーを口にした。
「何だろう……、良い香り……」
「アールグレイにミントの葉を入れてみた」
「ああ、だから良い香りがするのね……」
リサはハーブティーを口にしたことで安堵したようだ。
穏やかな表情をしているのである。
「ついでに、ちょっとしたものもある」
ルーテは皿の銀蓋を取る。
「こ、これって……!」
「ハーブティーを飲むなら欲しがるだろう、と思ってな」
ルーテは笑って言う。
そこには、チョコチップのスコーンがある。
皿の端には、小さな器にジャムとクロテッドクリームと思わしき白いクリームが一緒に盛られている。
「もちろん、これは食べて良いぞ」
「ありがとう」
リサはスコーンにジャムを付ける。
「このジャムって……」
リサには何となく覚えがある。
そう、リサが育てたブルーベリーの木。
そこに実ったブルーベリーをルーテに渡したことがある。
「ああ、そうだ」
ルーテは深くは言わないが、頷く。
「そう、だったんだ……」
じわりとリサの瞳が潤んだ。
「明日になれば、色々と大変だろうが休んでおけ」
ジルはぶっきらぼうに言う。
リサは何とも言えない気分になる。
徐々に冷たくなるハーブティーに、リサは自分の気持ちを重ねた。
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