第7話 アローニでは
ところ変わってアローニ。
シーナは仕事でずっと机に向かっている。
「何か、手掛かりになるような物事は……」
ぐぅ、と不意に腹が鳴る。
「ねえ、シーナさん、台所を借りても良いですか?」
「ええ、それはもちろん……。食材も冷蔵庫に入っているものを好きに使ってくれたらそれで良いわ」
「ありがとうございます」
楓香はそう言って、台所へと歩いていく。
「あ、待ってー!」
由佳も慌てて楓香の後を追った。
廊下から、ふとオレンジの良い香りがする。
「良い匂いがするね……」
由佳はくん、と空気のにおいを嗅ぐ。
「ええ。これはオレンジにクローブを刺したもので、オレンジポマンダーと言うのよ。お守りとして飾ることが多いそうなの」
「へえ。そうなんだね……。でも、オレンジの匂いでなんだか落ち着くわ」
「オレンジはリラックス効果がある、と言われているからね」
楓香は笑顔で言う。
「台所についたは良いけど……」
「何を作ろうか?」
「シーナさんもお腹空いてるだろうし、少しボリュームがあるのとか良いかもね」
「思い切って、カレーとかにしたらいいかも」
「ざあ、カレーにしよう」
楓香と由佳は頷いて、二人でカレーを作り始めた。
「お姉ちゃん、具材はどうする?」
「ここにある物を使ってくれればいい、ってシーナさんも言ってたね」
楓香が具材を切って、由佳が火にかけた鍋に放り込んでいく。
「あとは水を入れて……」
由佳がボウルに水を入れ、鍋に入れようとした瞬間。
「待って、ブーケガルニ入れないと」
楓香は慌てて小さなお茶パックを鍋に入れた。
「ああ、忘れてた」
「はい、お水入れて」
「うん!」
野菜が煮えるまで、二人はいろんな話をした。
楓香がアローニで生活していた時の話……。
現実では由佳がどう過ごしていたか、という話をした。
「ねえ、お姉ちゃん」
「ん、何?」
「後でさ、その……。セラピーってやってよ」
「うん、それは良いけど。でも、ここはシーナさんの研究所なんだから、お許しをもらってからね」
「やったぁ!」
由佳は思わずガッツポーズをして言う。
ぐつぐつと鍋が煮だって、野菜と一緒にブーケガルニの香りが空気に漂う。
「お腹がグーグー鳴っちゃう匂いね」
由佳の言葉に、思わず楓香は笑った。
だが、否定はしなかった。
「さあ、そろそろ良いと思うわ」
楓香はお玉で野菜をすくい、菜箸を軽く通すと野菜は簡単に崩れた。
火はしっかり通っている。
「じゃあ、私がカレー粉溶くね」
由佳はカレー粉を片手に言う。
「うん、お願い」
楓香はその様子を見守る。
カレー粉の匂いが加わり、二人のお腹は元気よくぐうー、と鳴いた。
「もう少し煮込まないといけないのにね」
「カレーの匂いはどうしてもこうなるよね」
二人はそう言って、苦笑いする。
「そういえば、隠し味は何にしようかな?」
「チョコは入れたいね」
「うん、賛成! でも、あとケチャップなんかも良いよね」
楓香は調味料とチョコレート、牛乳、インスタントコーヒーを少し入れた。
果たして、一体どんな味になるのやら……。
そんな面持ちで由佳は見守ることにした。
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