第6話 ソースの味

「はあ、美味しかった~」

ロニーは幸せそうに言う。

「本当、とっても美味しかったわ……。ハーブを使った料理、こっちで覚えていかないと」

レイチェルは嬉しそうに言う。

「でしたら、シェフのルーテに色々聞いてみると良いかもしれません」

パッセは笑顔で提案するのだが、ジルは困った顔をする。

「だが、ルーテは……」

「そうでした……、ルーテは気難しいのです……」


レイチェルは今日の料理の事を色々と思い出していた。

「もしかしたら……、再現とかできたりしないかな?」

「難しくないか?」

ロニーは怪訝そうに言う。

「少しコツがわかれば、多分なんとかなるわよ」

レイチェルは明るく言う。


「手始めに、今度から出てくる料理のソースについて研究していきましょう」

「ソースからですか?」

「ええ。今日のバジルとレモンのソース、とてもさっぱりとしていたし、口の中でバジルの香りが立っていたの。レモンが上手く引き立ててくれていたんだけど、他にも何か色々入って、あんな調和になっていたのよ、きっと」

「そういえば、少し酸味もあったね……」

ロニーも思い出したように言う。

「きっと、少しお酢が入っているのだと思います」

パッセは思いつくことを言った。

「なるほど」

ジルはレイチェルの思惑を理解したように言った。


「兄さん……?」

「ソースとそれに合わせる料理、組み合わせが上手くハマれば料理は格段においしくなる、そう言う事だろう」

「ええ、それも一つの手段と私は考えているわ」

「なら、協力しよう……」

ジルはにやりと笑っている。

「兄は美味しい物が大好きなんですよ」

パッセはからかうように明るい声で言う。

「く……、食いしん坊なのはお前だろ、パッセ!」

ジルの頬はほんのりと赤くなっている。

「いっぱい食べるのは良いことですよ、母だってずっとそう言ってたじゃない!」

「そ、それはそうだが……」


「ほら、ジル、パッセ。頼まれたお代わりを持ってきた」

白いエプロンと白いキャスケットを被った青年がやって来た。

そこには、パンと鰆のポワレのソースジュレがけがある。


鰆の切り身のすぐそばには、花穂紫蘇が飾られているし、鰆にはイタリアンパセリと思わしきハーブも添えられている。

「とってもキレイですね」

レイチェルは目を輝かせて言う。


「アンタも食べるなら、すぐ作ってくる」

「それじゃあ、お願いしてもいいですか?」

「ああ」

青年はすぐに奥へと下がって行った。


「レイチェル、本当に今日はよく食べるね?」

「まあ、食べられるときにしっかり食べておいた方が良いかな、って思って」

「ちゃっかりしてる……」

ロニーは笑って言う。


レイチェルは運ばれたお代わりを、一つ一つじっくり味わうように口に運んだ。

「レモンにバジル、お酢に……、はちみつかしら?」

「ほかにもいくつか秘伝の物を混ぜてある」

「そうなんですね……、秘伝の……」

「教えることはできないがな」

青年はそう言って、開いた皿を下げていく。


「あと、ローズマリーの香りが口の中に入ってくるわね……、レモンと相まって本当、爽やかな感じ……、気に入っちゃった!」

「そうか」

レイチェルの笑顔に、青年はほんのり安堵したように言う。

「ルーテ、明日の朝は?」

パッセが無邪気に言う。

「楽しみにしておけ」

ルーテはそう言って不敵な笑みを浮かべた。

「だが、ちゃんと美味い物を食わせてやる」

「楽しみにしてる」

ジルはそう言って笑顔を見せた。

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