第5話 食文化の違い

レイチェルはパッセと共に、夕焼け空の庭園を歩いていた。

「白いバラが、オレンジ色に染まってキレイね……。素敵……!」

レイチェルは輝いた目でバラを見る。

「そうでしょう? 私もこの時間のバラの花がお気に入りなんです。青空の中のバラも素敵ですけど、夕焼けで輝く様も素敵だと思います」

パッセは嬉しそうにニコニコと言う。


「そういえば、レイチェルさんってどんなところで過ごされていたんですか?」

「ええ、私はね、アローニという国で過ごしていたんだけど……」

「アローニ……? どんなところなんでしょう?」

パッセはキョトンとした顔で言う。

「なんだか、異世界、ってことみたい」

「そうなんですね……。私も勉強不足で……」

「あ、いいえ、そんなことはないと思うけど……」


「でも、いつか見てみたいです、アローニって国も」

「いつか行くことがあれば、案内したいわね」

そもそも、パッセの認識は異国と異世界を間違えているような気もするが……。

レイチェルはそこをスルーすることにした。


「アローニでは、セラピーという香りを扱う仕事があるの。ロニーや私もその一人よ」

「それって、香水とか作れちゃうってことなんですか?」

「端的に言えば、そうなるかしら」

「じゃあ、こういうバラ園をイメージしたものとかも……?」

「そうね、材料があれば作れると思うけど……。うーん、バラ園の香り、か……」

レイチェルは少し困ったように言う。

「どんな材料を使うんですか?」

「まずはエッセンスがないと何もできないわね。それから、撹拌用のガラス棒、ビーカーかフラスコ、完成したエッセンスを入れる小瓶、あとはエッセンスを伸ばすためのアルコール、白衣、手袋かな」

「色々準備がいるんですね……。もし、準備できたら、作るところを見せて欲しいです!」

「ええ、良いわ」

レイチェルは明るい表情で答えた。


「でも、こうも素敵なバラ園、私の実力で再現できるかしら……」

レイチェルは目を輝かせているパッセの傍らで遠い目をする。


「レイチェルー!」

ロニーが大きな声でレイチェルを呼ぶ。

「ロニー、どうしたの?」

「……夕飯の時間だ」

「まあ! もうそんな時間に……」

パッセは驚いたようで、スカートのポケットから時計を引っ張り出す。

「話をしていたら、あっという間に日が暮れちゃったわね」

レイチェルはその様子に苦笑いした。


「ハーバティの食事も、お口に合えば良いんですが……」

「どんな感じなのかな、楽しみだ」

ロニーは嬉しそうに言う。

「……こっちだ」

ジルを先頭に、大広間に向かう。


「わぁ……!」

レイチェルは食事を見た瞬間に感嘆の声を上げる。

カトラリーを置くナプキンの上に、植物が置いてある。


「これ……! ローズマリーとミントだね。ここにレモンなんかもあれば、また爽快な香りになるね」

ロニーは植物を手に取ってスッとにおいを嗅ぐ。

「うん、いい香り。すっきりとした気分になるよ」

「ハーバティではこれが普通なんですよ」

「そうなの?」

レイチェルは驚いて聞く。

「はい!」

パッセは笑顔で言う。


料理にも、必ずと言って良いほどハーブが添えられていることが多い。

ポタージュにはパセリが降りかかっているのが常のようだ。

「魚料理にもハーブか……、これは……?」

「こちらは、白身魚の香草焼きです。ローズマリーを添えております」

「ハーバティではこれが普通なのよね? アローニの高級店にいるような気分だわ……」

「普段から、料理にもハーブを使うのが普通ですから」

パッセは笑って言う。

「アローニのごはん、いつか食べてみたいですね」

「家庭料理位なら、私だって作れるけど……」

レイチェルは苦笑いして言った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る