第4話 部屋へ

「ステンドグラス、めっちゃキレイだよ……」

レイチェルに向かって、ロニーは話しかける。

だが、レイチェルは本に全神経を集中してしまっている。

「これ、ハーブのレシピなのね……」

「ええ、そうですよ。これでしたら……」

兵は喜んでレイチェルにその料理の話をする。


「詳しいですね」

ロニーは横で聞いていて、思ったことを言う。

「実は自分、遠征などに出た際は料理をすることが多くて」

兵は照れたように言う。

「ここの兵士たちって、料理できるのが必須とか?」

「いえ、そうでもないですよ。我が家は親と兄が料理人で、その影響で自分も少しは料理をする、という程度です」

ロニーとレイチェルもその言葉に納得した様である。


「そろそろホールへ戻りましょう」

兵はそう言って、二人を促す。

「ああ、ここにいらしたんですね!」

図書館を出てすぐ、声をかけてきたのはパッセであった。


「パッセ、どうした?」

「お部屋の支度が済みましたので、探しに行こうと思っていたところです」

ジルも相変わらず無表情だが頷く。

「……案内する」

「お願いします。では、自分は先に失礼します」

兵はそう言って廊下を右折して行った。


「……付いて来い」

ジルはそう言って、先に歩いていく。

「ああ、もう待ってって!」

パッセはふたりとジルを追う。


左に進み、次は右に進み、真っ直ぐに歩いて……と、やはり城内だけあって造りは複雑である。

「ロニーはこっちだ」

ジルは部屋の前でロニーを待つ。

「ほ、本当城内広いね……」

「……当たり前だろう」

ジルは困ったように言った。

「レイチェルさんはこちらです」

パッセは明るく言った。

「どうぞ、入ってください」


「失礼します……」

レイチェルはパッセと部屋に入る。

「す……、凄い……!」

「城内では簡素な部屋になりますが、お寛ぎください」

「こ、これで簡素……」

ダブルサイズの大きなベッドに、ドレッサー。

さらにテーブル、豪華な造りの椅子がある。

レイチェルは目を輝かせる。

アローニのロニー宅で使わせてもらっている自室ですら、ハーバティのこの部屋の前ではただの小屋だろうな……。

そう思いながら。


「ええ、ここ広すぎない? うーん、なんか落ち着かないな……」

「これでも一番簡素な部屋だ」

隣から聞こえたのは、ロニーとジルの声。

「レイチェルさんのお部屋とロニーさんのお部屋は隣同士です。何かあったら、私か兄に言ってくださいね」

パッセは明るく言う。

「ありがとうございます」

レイチェルは笑顔で返す。


「お夕飯の時間までもう少しありますが、どうしますか?」

「……どうしましょう?」

「じゃあ、庭園でもお散歩しませんか?」

パッセは明るい声で言う。

「この時間しか見られない景色も、とっても素敵なんですよ」

「わぁ! 見てみたいです」

「喜んでご案内しますわ」

「パッセ」

「何ですか?」

「あまり遅くなると夕飯に間に合わなくなる。注意しろ」

「はい、兄さん」

パッセはそう返事し、レイチェルと共に中庭へと歩き始めた。

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