第8話 腹ごしらえ

香ばしいカレーの香りが部屋に満ちる。

「お腹空いた……。良い匂いね」

シーナはそう言って、台所へと入ってくる。

「カレーにしちゃいました」

由佳は明るく言う。

「わぁ! 嬉しいわ」

シーナの目が明るく輝く。

「ちょうどカレーが食べたかったの!」

「それは良かった。もうちょっと煮込んだら完成です」

楓香は笑顔で言う。

その横で、シーナは皿とスプーンを用意し始めた。


「さあ、完成ですよ」

「お皿は用意しておいたわ」

「ありがとうございます、さあ、よそいましょう!」

由佳は先に炊いたご飯を軽く混ぜて盛り付け、楓香に渡す。

楓香はカレーのルーをかけて、テーブルに配膳する。


「誰かに料理を作ってもらうなんて、久しぶりだわ」

「普段、シーナさんはご飯をどうしていますか?」

「出来合い品を買ってくるか、外食ばかりね。たまに暇なときは料理するけど……、実は料理って得意じゃないのよ」

シーナは照れ笑いしながら言う。


「ところで、お姉ちゃん……、お茶パックが……」

「わぁ! ご、ごめん、ブーケガルニを取り出すの忘れてた!」

「そう言うところ、本当昔っから変わってないよね」

由佳は笑って言う。

「わざとじゃないってば!」

楓香は恥ずかしそうに言う。


「こうして、誰かとご飯を食べるっていうのもそういえば久しぶりだわ」

「たまにロニーのところにはいくんですよね?」

「ええ、主にセラピーの依頼ついでにお茶をしてくる、って感じだけれども。ほら、職業柄こんな感じだから、たまにリフレッシュしたくなっちゃって。それでよくロニーに頼んでいたのよ」

「……ロニーもレイチェルも、早く足取りがつかめれば良いんですけど」

楓香は心配そうに言う。

「大丈夫よ、きっと」

由佳は楓香を元気づけるように言った。


「そうだ! お姉ちゃんにせらぴーっていうのをやってもらおうと思ったんですけど、良いですか?」

「ええ、構わないけど……、材料とは大丈夫かしら……? 私はセラピーの資格を持っていないから、エッセンスを買うことができないのよ」

「そうなんですね……」

「明日、買いに行ってきます」

楓香は明るい声で言う。

「せっかくです、明るい香りで元気を出しましょう」

「ありがとう、楓香。お願いね」

「わあ! 楽しみ」

楓香は少し気恥ずかしくなったが、自分の力が役に立つと分かり、嬉しくなった。


ところ変わってハーバティ


ロニーは夜の庭園をぶらぶらと歩いていた。

「どうやったら、アローニに戻れるのかな……?」

「さあ……?」

レイチェルは困ったように言う。


「時間の進み方、一緒だと良いなぁ」

「そ、それもそうね……」

「もし、こっちの一日がアローニの一年だったらさ……、戻ったら」

「それ以上言わないで」

レイチェルは聞きたくない、と耳を塞ぐ。

おばあちゃんになってたら、そう思うとレイチェルの気持ちが塞ぎ込み気味になっていく。


「今日は三日月なんだね」

「ええ、そうみたいね」

レイチェルはすぐに話題を変えたロニーに冷たく返事をした。

「おや? 三日月の光かな?」

一面が青白く光っている。

「これは、ハーバティでは一般的なんです。明日、明後日には収穫時期を迎えるハーブたちですよ」

パッセが笑顔で言う。

「そんな現象が起きるのね……」

レイチェルはじっとその風景を見つめた。

風が吹いたと思ったら、様々なハーブが混ざり合い、すがすがしい香りがその場を包み込んだ。

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