第18話 お手伝い

「さてと、手伝ってもらいたいのは……」

ルーテはロニーの声を合図の代わりに、冷蔵庫へ手をかける。

「これだ」

ルーテはクッキーの生地をテーブルの上に広げた。


「これは……?」

ロニーはテーブルの上にある生地に困惑する。

「もしかして、型抜き?」

パッセはセルクルを見て言う。

「そうだ」

「普段、生地をザクザク切って終わり、のルーテが?」

ジルは戸惑ったように言う。

「たまには形があるのも悪くないだろう?」

「そ、それはまあ……」

「ふふ、楽しそう! 私はレイチェルとこの生地の型抜きをしましょう」

「ええ、良いわよ」

「端っこから型抜きを頼む。一面終わったら、またまとめ直して二番生地にする」

「ええ、分かったわ」


レイチェルとパッセはローズマリーとレモンのクッキー生地に取り掛かる。

「童心に帰った気分です」

「分かるわ、楽しいわね」

ポン、ポン、と花の形にくりぬいていく。

くりぬいたそばから、ローズマリーの爽快な香りと、レモンの甘酸っぱい香りが混ざり合う。

「清々しくて、良い匂い……」

「本当に。幸せな香りです」

レイチェルとパッセは嬉しそうに言う。


「さて、あんたらにもやってもらうぞ」

「ルーテは?」

「俺は生地のこね直しにオーブンの温度調整もあるから、全部はやれない」

「そりゃそうだね……。さてと、僕もやってみるかな」

ロニーは葉っぱの形のセルクルを手に取った。

そして、生地をくりぬく。

「あんまり力を入れすぎると……」

ブチ、という音がした。

「……ラップが破れる」

「くりぬく前に言って欲しかった……」

「それはすまん」


ロニーはセルクルを上げると、ラップが引っかかっている。

ロニーはラップを取り除いた。

「これは試食に回すぞ」

ルーテは苦笑いで言う。

「もはや料理が下手というレベルではないな……」

ジルは困り顔で言う。


レイチェルとパッセはわいわい楽しそうに花形のクッキーを作っていく。

「ルーテ、そろそろシートも一杯よ?」

「じゃあ、オーブンで焼くか。ついでに生地もひとまとめにしてもらえるか?」

「分かったわ」

レイチェルが率先して生地を一つにまとめ直す。

「これを伸ばせばいいかしら?」

パッセはキレイにまとめ直して丸い生地の上に伸し棒を当てる。

「ああ、頼む」

パッセは喜んで生地を伸ばした。


「パッセ、上手なのね」

「ええ、お菓子作りは前から大好きで」

「良いわね」

「レイチェルは、お菓子作りは好き?」

「ええ、好きよ。好きなんだけど……、どうも上手くいかなくて」

「そうだったのね……。でも、楽しむことが大事だから!」

「ええ、そうね。ありがとう」

パッセはにこりと明るい笑顔を向けた。


「さてと、これを焼くぞ」

「お願いね!」

ルーテはレイチェルとパッセが型抜きをしたクッキー生地を、余熱を施したオーブンに入れた。

「どんな焼き上がりになるかな?」

「さあな」

ロニーとジルは力加減に苦戦しながら、オーブンを見つめていた。

「よそ見するな」

厳しいルーテの声がする。

「まだ生地はある。たくさん型抜きをしてもらうんだからな」

「まだあるんだ……」

ロニーの困った声に、ジルも苦笑いした。

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