第1話 失踪事件

アローニ、そこはセラピストと呼ばれる調香師たちがいる世界。

ロニーは若い青年だが、国でも指折りの実力を誇るセラピストである。


「今日は楓香たちが遊びに来るって言ってたっけ」

楓香は、事故で異世界からアローニへと迷い込んでしまった女性だ。

アローニでセラピストの資格を取得したため、特別にアローニと現実世界とを行き来することができる存在である。

「ええ、そうよ。楽しみね」

微笑んで言う女性はレイチェル。

ロニーの弟子であり、助手を務めるセラピストだ。


ロニーとレイチェルは買い出しに行こうと外に出た瞬間。

奇妙な感触がした。

「ん……?」

「あれ……?」


地面がまるで大口を開けているかのように、黒い穴が開いていた。

「うわあ!」

「なにこれー!」

二人は引き込まれるように穴へと落ちて行った。


「いてっ!」

ロニーは背中を強く打ち付けた。

隣にレイチェルの姿はあるが、どうやら気を失っているようだ。


「れ、レイチェル?」

ロニーはそっと体をゆする。

「う……う……ん?」

レイチェルはゆっくりと目を開ける。

「ロニー……? ここは?」

「アローニじゃない事だけは確かだね」

「そう……、ええ、そうみたいね……」

レイチェルは上半身を起こして周りを見渡す。

ロニーはふと足元の物を見つける。

「これは……、ふむ……、ああ、マジョラムだな」

「こっちにあるのは、ハナハッカかしら?」

二人はセラピーに使う物を見つけて驚く。


どこかの畑に迷い込んでしまったのだろうか?

そう考えていた時である。


「動くな!」

武装した兵たちが、二人を囲んでいた……。



同じ頃、アローニ。

「王様、大変です!」

「うむ? いかがいたした?」

アローニで時空の研究者の一人でもあるシーナは報告へと飛び込んだ。

「どういったわけか、アローニで謎の時空門が開き、ロニーとレイチェルが姿を消しました!」

その言葉に、側近たちはざわめく。


「シーナ、至急解析を。可能であれば、二人を連れ戻せるよう手配をしてほしい」

王子が王様に代わってシーナへと命令を下した。

「はい! 大至急解析を始めます」

シーナは大急ぎで研究室へと走る。


「大変なことになった……!」

「ロニーたちが不在とは……」

側近たちのざわめきはしばらく続いた。


翌日、新聞では大々的にロニーとレイチェルの失踪が報じられた。

「うそでしょ……!」

楓香と由佳はその報道に困惑する。

二人は、ロニーとレイチェルに会うためにアローニへとやって来たのである。

「どうする、お姉ちゃん」

「かと言って、このまま帰るわけにもいかないでしょう?」

「それはそうなんだけど……」

「シーナさんのところへ行ってみよう、由佳、離れないでね」

「はーい」

二人が走り出そうとした矢先。

ぽっかりと謎の大穴が口を開ける。


「危ない!」

大声に、二人は驚いて立ち止まった。

その声の主は女であった……。

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