第24話 ブレンドの話

アローニの祭典の話を聞いてからというものの……。

パッセはハーブティーに気を遣うようになった。


「レイチェル、どうぞ」

「ありがとう……。今日はカモミール……に、えっと、何をブレンドしたのかしら?」

レイチェルは飲む前にすっと香りを嗅ぎつつ戸惑った顔をする。

「今日はローズヒップです」

「なるほどね……」


ローズヒップはビタミンが豊富だ。

それに、カモミールとも相性が良いとされている。

レイチェルは一口紅茶を口にする。


「それと、その……」

「ええ、ブレンドの話よね?」

「はい!」

「パッセは本当に勉強熱心なのね」

レイチェルは感心したように言う。


「実は父が、最近寝つきが悪いと母が手紙で知らせてきたんです」

「寝つきが悪い……、アローニと同じような助言でも良いの?」

「はい……」

「リラックスできる香りを使うのも良いわね。ラベンダーとオレンジが私の中ではおススメね」

「なるほど、ラベンダーとオレンジを香らせるのも良いのですね?」

「ええ、やっぱりリラックスの香りの王道と言えば、というレベルでラベンダーはよく使われるわ。オレンジも明るい気分になれるだろうし」

「オレンジは、口にするという形でも良いんですか?」

「香らせる、という意味なら食べちゃダメよ?」

「そうなんですね……」


レイチェルはポケットから小瓶を出す。

「これをその親御さんに渡してあげて」

「これは?」

「私が前に調香したの。リラックスの香りになるようにしたから、コットンに一滴垂らして枕元に置いたら少し変わるかも? と思って」

「ありがとうございます!」

「レシピの紙も一緒に添えるから、ちょっと待ってね」

「はい!」


レイチェルは紙に調香に使ったエッセンスを書き出した。

「ふむふむ……」

パッセはその紙を真剣に見つめる。


「本当は、アローニとハーバティ、もっと簡単に行き来できると良いんだけど……」

パッセは思わぬ言葉にキョトンとする。

「どうしてですか?」

「その方が、エッセンスをすぐ取ってきて調香して、もっと鮮度が良いものを渡してあげられると思って。これも少し日数が立っているものだけど、問題なく使えるから、そこは安心してね」

「ありがとう、レイチェル!」

パッセは明るい笑顔で言う。


トントン、とノックされる。

「はい、どちら様ですか?」

パッセはドアを開く前に確認する。

「俺だが」

「まあ、ルーテですね?」

パッセはドアを開ける。


「どうしたんですか?」

「ああ、ちょっとな……」

レイチェルは不思議そうに見る。


「女王陛下が呼んでいる」

ルーテはそうレイチェルに言った。

「分かりました。行きます」

レイチェルは席を立つ。


ロニーもまさに部屋を出ようとしている瞬間だった。

「そういえば、ルーテ……、君のその髪……」

「な、なんだ?」

「……ううん、思い違いだと思う」

「そうか。なら早く行け」

「ありがとう」

ロニーとレイチェルは不思議に思いながら、女王の元へと急ぐ。


「……髪、か」

ルーテは自分の髪に触れた。

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