第9話 彼からの贈り物
翌朝。
中庭には、城の従者たちであろう人員がいた。
「鮮度も質も良いハーブを収穫しろよ」
「はい!」
筆頭に立っているのは、ルーテである。
「どんなハーブがあるのかしら?」
レイチェルは興味津々に窓から様子を覗く。
「様々なハーブがありますよ」
パッセはコトリと木の盆を置く。
「一部ですけど……、このようなものも」
「わぁ!」
レイチェルがわかる範囲でも、パセリ、バジル、イタリアンパセリ、花穂紫蘇、タイム、セージ、ハナハッカ、ミントなどがある。
「他にもまだたくさんありますよ。もし良ければ、ルーテたちの作業が終わってからご案内しますよ」
「ええ、ぜひお願いするわ!」
レイチェルは嬉しそうに言った。
「これって、料理だけじゃなくて、水蒸気で蒸留して、エッセンスにできないかな……?」
「どうやる……?」
「うーん、色々道具が必要だよ」
隣からは、ロニーとジルの声がする。
「ハーバティの道具があるかどうか、にもよるかも」
「ハーブなら料理に使う方が多い」
「芳香剤に加工するとかは?」
「たまにあるが」
「じゃあ、僕が作っても良いかい?」
「勝手にしろ」
「じゃあ、今から畑に乗り込んで……」
「ルーテを怒らせるな。あいつは面倒だ」
ジルはロニーを止める。
「レイチェルは、芳香剤などにしないのですか?」
「作れるわよ。じゃあ、私も作っちゃおうかな?」
「私、作り方を知りたいです!」
「ええ、教えてあげる」
レイチェルは明るく上機嫌に言う。
トントン、とレイチェル達の部屋がノックされる。
「はい」
パッセがドアを開ける。
「お姉さん、この前ハーブについて熱心だったからな。少し分けてやる」
ルーテは小さなバスケットに入れたハーブをパッセに渡した。
「まあ! ルーテ自ら渡しに来るだなんて……」
「パッセ、失礼だぞ」
ルーテはパッセを小突いた。
「色々試行錯誤して、自分のオリジナルスパイスにして見るのも楽しい。やってみろ」
「ありがとう、ルーテさん」
「ルーテで良い」
ルーテはほんのりと赤い頬を隠すように、そそくさと部屋を去った。
「もしかして、ルーテったら」
「どうしたの、パッセ」
「ふふ、秘密です」
パッセは屈託のない笑顔で言う。
「まあ、意地悪ね」
「レイチェルが鈍いのですよ」
パッセはそう言って笑った。
レイチェルはその言葉にキョトンとしていた。
「それにしても、たくさんのハーブを持ってきてくれたものですね……」
「本当に……。ローズマリーにレモングラス、フェンネル……、一杯あるわね」
「それで、その……」
「じゃあ、芳香剤にはローズマリーとミント、レモングラスを使いましょう」
レイチェルは真剣な表情で言う。
芳香、調香となると、レイチェルはついスイッチが入ってしまい、真剣な顔をする。
パッセは、手際よく芳香剤の為にブーケを作っていくレイチェルを見ていた。
なんだか、かっこいいな!
パッセは胸が躍る気持ちを抑えきれず、そわそわする。
「ローズマリーは物事の集中力を高めてくれるというし、ミントはメンソールのおかげでさっぱりとする、それに二つの香りを合わせると爽やかになるから気分転換にはうってつけね」
パッセはその様子に目を輝かせて見守っていた。
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