第53話 証人

「違います、陛下……!」

パッセもジルも必死になって否定する。

「しかし、証人はいるのですよ?」

畳みかけるように女王は言う。

女王は椅子の隣にあるベルを鳴らす。


「御用ですか、陛下」

まだ着替えが終わっていなかったのか、私服のルーテが顔を出す。

ルーテは二人と視線を合わせない。

「ええ、証人を連れてきてください」

「かしこまりました」

ルーテはそう言って一度下がる。


「証人……」

ジルは戦慄したように後ずさる。

「まさか……!」

パッセは気付いたようだ。


少し時間が経ったが、やはり兵たちは警戒してか、槍兵は槍を下ろす気配はない。

「陛下、よろしいでしょうか?」

「ええ、入りなさい、ルーテ」

「失礼いたします」

ルーテが連れていたのは、リサである。


「バーム様……、その……」

パッセはその言葉に違和感を覚える。

「ま、まさか、薬か何かを使ったんじゃ……」

「違うのよ、パッセ……、落ち着いて」

リサは穏やかに言う。

「良いのよ、お話なさい」

「は、はい……」


リサはゆっくりと口を開く。

「二人は……、その……」

躊躇う口調に、兵は思わず背中を突く。

「ひゃっ……!」

「おやめ!」

女王は厳しい声で兵を叱る。


「大丈夫よ、リサ、話を続けて」

「はい……、陛下……」

「もう、バームとは呼んでくれないの?」

女王は少し寂しげに言う。

「で、ですが……」

「私が良いと言ったのですから、良いのですよ。遠慮はいりません」

「ありがとうございます……、バーム様……」

「どういう意図でリサを……!」

ジルは明らかに怒っている。

「二つ理由はあるわ」

女王は穏やかな笑顔で言った。

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