第34話 ケンカ

「何を騒いでいるんだ?」

パッセはその声に振り返る。

そこにいたのは、呆れ顔のルーテだった。


「あ……。ルーテ、助けてください」

「もちろん、それは良いんだが……。話を聞かせてくれないか?」

確かに、話をしないならアドバイスなどをすることができない。

「は、はい……」

パッセはバチバチと火花を散らす二人を置いて、ルーテに事情を話すことにした。


「なるほど、ケンカか……」

「はい……。ロニーとレイチェルの住んでいたアローニから手紙が届いたんですけれども、その内容を見てロニーが……」

「まあ、ロニーの気持ちも分かるし、レイチェルの気持ちも分からんでもない。俺も納期ってもんを指定される仕事は請け負うし」

「そうでしたね……」

「物によっては早すぎてもいけないから後回しにするものもある。逆に、急ぎの依頼が後で来るってこともある。ただの怠慢で切迫してるわけじゃないなら、ロニーの気持ちも分かるけどな」


パッセの制止がないせいか、声はどんどん大きくなっている。

二人の口ゲンカはヒートアップしているようだ。


「で、それを俺に止めろということだな?」

「私一人じゃもう手に負えないんです……」

「分かったよ」

ルーテは苦笑いする。


ルーテはまず二人に近づく。

そして、二人の頭を一回ずつ小突いた。

「いてっ!」

「わっ……!」

「何を騒いでいる!」

「あ……!ご、ごめん……」

「……騒がしくなっちゃってたわね」

「別に騒がしいことは大きい問題ってわけじゃない」

「そ、そうなの?」

レイチェルは苦笑いして言う。

「むしろ、ずっとここでケンカしてる方が問題だ!」

ルーテの厳しい言葉に、二人はハッとした顔をする。


「そ、そうだったね……」

「……依頼の事が心配で、ついヒートアップしちゃったわ」

「分かれば良い」

ルーテはため息を吐きながら言う。


「そもそも、アローニに戻れない現状で、依頼を完成させたとして……、納品はどうするつもりだった?」

「……あ!」

レイチェルはその言葉に、口を手で覆って頬が赤くなる。

「た、確かに、納品の事をすっかり忘れていたわ」

「それに、道具も揃ってないしね」

ロニーはさらに一言鋭く言う。

「わ、忘れていたわ……」

レイチェルは頭に手を当てて首を振って言う。


「そもそも、アローニに帰れるめどだってついてないだろう?」

「いや、それがね……」

「めどは、何とか付きそうなの」

「何だと!?」

ルーテは驚いて思わず大声を出す。


「実は、話すと長くなるんだけど……」

ロニーはそう言って苦笑いする。

「良い。話してみろ」


「なるほど、半月後か……、新月の夜ってことだな」

「そうなるね」

「新月の夜にどうする?」

「ええっと、ちょっと待って……」

ロニーは届いた手紙を読み直する。


「これと鍵を使えば帰れるみたいだ」

ロニーは振り子を手に取る。

「なるほど」

「……ルーテ、本当に良いのかい?」

「ああ。俺はここに残る。いきなりアローニに行っても、馴染める気もしないし」

「そっか」

ロニーはその言葉に、少し寂しそうに笑った。

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