第37話 団らんのひと時

キッチンから、楽しそうな話声が聞こえてくる。

ルーテと母は、仲良く献立を話し合っているようだ。


「私は、母さんに頭が上がりそうにないよ……」

「父さんも、そう重く考えなくていいんじゃない?」

「だが……」

「モカさん、って人への責任だったらさ、兄さんを育てあげたって形で果たしていると、僕は思うよ」

ルークの言葉に、父は安心感を覚える。

「ルーク……、お前という奴は」

「もう、父さん……、何も泣くことないだろう?」

感激して泣く父に、ルークは苦笑いしてティッシュを渡す。


「まあ、でも僕もびっくりしたよ……」

「なにがだ?」

「まさか、兄さんが養子だって聞いた時からは、血が繋がっていたなんて思ってなくて」

「そうか? ルーテとルーク、似ているところは多々あると思うぞ」

父は笑って言う。

「そう?」

ルークは少し驚いたように言う。


「例えば?」

ルークは悪戯っぽく言う。

「目元は私に似て、二人とも男にしては大きめの目だろう?」

「うんうん、他には?」

「目の色だって、二人ともブラウンの優しい色味だな」

「うん。そうだよね」

「ルーク、お前からかっているな?」

「アハハ、バレちゃった」

ルークはげらげら笑い転げている。

父も一緒になって笑っていた。


「なんだ、楽しそうだな」

ルーテはお盆を片手にやってくる。

「先にお茶でも飲んでいたらどうだ、と思ったんだがな」

「え? 淹れてくれるの?」

ルークは笑い過ぎて涙目になっていたが、涙を拭きながらルーテに聞く。

「それくらいはしてやるよ」

ルーテは苦笑いして言う。


父はルーテの姿に一瞬戸惑う。

白いシャツに、黒のカマーベスト。それに黒いスラックスに黒いソムリエエプロン。

まるでカフェに来たかのような錯覚を覚えたからである。


「その恰好は……」

「あぁ、母さんが服を汚しては申し訳ないから、ってこれを着るよう渡してきたから、着替えたよ」

「そ、そうか……」

恐らく、妻の趣味だろう。

と、父は思ったが、二人の関係を考えて黙っておくことにした。


「これは、ストレートのアッサムティーです」

ルーテの口調もまるでカフェにいるようである。

思わず、父もルークも笑い出した。


「ん?」

「ルーテ、ここは家だぞ」

「兄さんの口調、まるでカフェにいるみたいでおかしいよ」

「そ、そうか?」

「それにしても、ルーテはお茶を淹れるのも上手いな」

「慣れているから……」

ルーテは恥ずかしそうに言う。


ルークは紅茶に少しはちみつを入れている。

ルークは甘いものが好きなのである。

「兄さんの紅茶、美味しいんだよね」

一口紅茶を口にし、ルークは嬉しそうに言う。

「いつものはちみつか……。はちみつは紅茶をまろやかにするからな」

「うん、僕はこの飲み方がお気に入りなんだ」

ルーテは笑って、ルークの髪をぐしゃりと撫でた。


「さてと、そろそろキッチンを手伝わないとな」

「兄さんと母さんの料理、楽しみにしているよ」

ルークはそう言って、ルーテの背を見送る。


「実はね、ルーテ」

「うん?」

「今日は、アローニってところのお料理を試してみたいと思うの。レシピは、モカが残してくれていてね」

「母さんは、俺を生んだ母さんのことを知っていたんだね……」

「ええ、本当はもっと早く言うべきだと思っていたんだけどね……」

母はそう言って一度言葉を切る。

「私とモカは親友同士だったのよ」

その一言に、ルーテは複雑な思いを抱えた。

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