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どんなものにもレジスタンスはある。HEAVENに対しても同様だった。
レジスタンスはHEAVENをアヘン窟と断じた。そこに囚われた民衆を解放し、
諸君は騙されているのだ、と。
欧州で一つ、南米で一つ、HEAVEN が一時的な稼働停止に陥った。〈Wake up!〉の攻撃により仮想世界の住民の一部が覚醒し、システムダウンしたのだ。覚醒した人格は例外なくパニックに襲われる。人格にとってみれば、いきなり悪夢のような
人格たちは、応急の凍結処置を受け、意識を仮死状態にされた。システムの再稼働を待ち、不快な体験を上書き修正されたうえで、安寧な仮想へ戻されたのだ。
暗闇の通路に並ぶオフィスの一つに明かりが点いた。両開きドアがスライドして開く。
車椅子に乗る小柄な男がそこに居た。
赤いベースボールキャップにウォッシュアウトのデニムジャケット。肩までの長髪は黒金のメッシュ。メッシュがかぶさる奥から、
少年……16、7歳だろう。
「ようこそ、ゼロ課の公務員サン」高い声がそう言った。
苦笑する。裏公務員はどこにも在籍しない。亡霊のごとき存在なのだ。
「
「予定どおりの人だね。紺のスーツか。通勤スタイルで戦争しに来たんだね」
「これが戦闘服なのさ。そういう仕様でね」
「中へどうぞ。コーヒーを飲もう。おっと、ボクはコクマー。申し遅れた」
コクマーとは、ユダヤ教を源流とする神秘主義で〈知恵〉を意味する。〈Wake up!〉のリーダーが名乗るハンドルネームだ。リーダーじきじきお出迎えか。
コクマーは電動車椅子をターンしてオフィスの中へ進む。シュウと才藤は後に続いた。
パーテーションの先にはデスクが並び、数台のコンピュータを前に5人が作業していた。10代半ばから20代前半の、男4人と女1人。興味なさげな一瞥をくれるだけで、作業が途切れることはない。
奥のテーブルまで走らせ、コクマーは車椅子を止めた。
「旨いコーヒーを淹れてやるよ」才藤はドリップマシンの所へ行った。
テーブルを挟み、シュウはコクマーに対座した。
「テロ組織の制圧に来たのに、コーヒーを振る舞われるとは思わなかった」
「ボクを殺しても意味はない。我らがネットワークは世界を覆っているんだ。すぐに誰かが次のコクマーを名乗るさ」
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