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 角を折れるとガラス扉が見えた。扉を境に通路はグレーから純白に変わる。

 白い通路は10メートルほど続き、突き当りを鈍い銀色の扉が更に閉ざしていた。銀色の表面中央には、幸福教団のシンボルマーク〈∞〉が刻印されている。

 ∞のむこうが神の国だ。

 銀色扉のすぐ横に守衛ボックス。〈Wake up !〉の情報どおりだ。その精度に敬意を表さずにいられない。

 ナノで視覚をブーストする。

 人の目に見えない緑色線が現れる。通路を縦横斜めとランダムに交差している。無数の検知レーザービームだ。触れれば警報が鳴り渡る。

 先ほどコピーした助祭の虹彩パターンを、ナノ通信でジョーカーにロードした。

 さあ、頼むからもってくれよ。

 バッテリー残量僅かなジョーカーを飛びたたせた。

 迷彩効果でステルス化したジョーカーはガラス扉まで飛ぶ。記録から抽出した結城助祭の3D映像を、通路に投射した。

 実物と見分けのつかない助祭のホログラムが、そこに立つ。

 ドア横のセキュリティ・スキャナが助祭映像の虹彩パターンを読む。

 認証されて、ガラス扉が音もなく開いた。センサーは一時解除され、緑のレーザー線が消えた。

 シュウは加速して通路を進んだ。

 守衛ボックスに、敬礼のため直立した警備員が居た。シュウを認めて目を剥く。

 言葉を発する前に体落としを決めていた。あまりの高速に警備員は失神した。

 後を追って来たジョーカーは、バッテリーが尽きて床に着地した。回収し、警備員の制服を剥ぎ取って着替える。作業員と同じように拘束した。

 背後でガラス扉が閉じる。緑のレーザー線が復活する。

 助祭の虹彩パターンを、シュウは自分の瞳に表示した。

 最後の扉を前に立つ。

 中央に刻印された∞の大文字が二つに割れ、厚い扉が両側へスライドした。

 その先は薄暗い。肉感じみた、有機物を思わせる通路が伸びている。

 息苦しさを覚えるみちを、中央管理エリアへ向かう──

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