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 床に転がった助祭の左手を取り上げ、固まった指をこじ開けてジョーカーを回収した。握力から逃れようと暴れたせいで、バッテリー残量は僅かだ。交換したいが、予備バッテリーはオシャカだ。アイテムを収めたウエストポーチを超硬度短針が貫通している。無事なアイテムだけを作業着のポケットに移した。

 大立ち回りがあったのに誰も来ない。考えられる理由は、誰も来ないようにした──ということ。助祭は戦いを邪魔をされたくなかった。戦いを存分に愉しむために、礼拝堂を監視システムの対象から外したのだろう。

 たいした自信だが、あの強さなら納得する。

 もう一つ、別の可能性もある。泳がされている──というやつだ。

 それなら、誘いに乗るだけだ。

 見開いたままの助祭の瞳を覗き込む。ナノマシンが助祭の虹彩パターンをコピーする。これでほとんどのゲートは通過できるはずだ。

 治療にはしりまわるナノマシン群のおかげで、出血は止まっている。が、左頬には鉤爪で抉られた三本線が付いている。作業着もボロボロだ。目立つが仕方ない。

 礼拝堂を横切り、ID をかざしてバックヤードへ入った。

 殺風景なグレーの通路が伸びる。マップ情報を頼りに交差を折れて進む。

 二人連れの作業員が前方から来た。壁際に寄り帽子を直すふりをして、傷のある顔を隠す。

 作業の話に没頭する二人連れは、こちらに注意を払わず通り過ぎた。

 資材庫エリアに着く。この先に、中央管理エリアと呼ばれる聖域への連絡路がある。通過できるのは教団の上位者だけだ。

 資材棚の間を抜けて行くと、ドアの一つから出て来た作業員の男に呼び止められた。

「どうした、ヤッさん。服が破れてるぜ」

 シュウの顔を覗き込んで、男はギョッとした。

 加速ブーストする。男を抱え、出て来たドアの内へ押し倒す。

 顎を握っている。ひねれば頸椎が折れ、男は永遠に沈黙する。だが、無駄な死を増やしたくない。

 アマい、と才藤なら言うだろう。

「ヤッさんは無事だ。オマエも無事でいたいなら、騒ぐな」

 男はガクガク頷いた。

 手足を結束バンドでいましめる。作業着を裂いて猿轡にし、積み上がるコンテナボックスの奥に転がした。

 シュウは資材庫エリアの先へ進む。

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