34 楽園喪失

     * 

 

 関東平野に夕闇が漂い始めている。

 潜入前、才藤に送られた夕暮れが遠い過去に思える。

 教団の尖塔を背にシュウは歩く。修羅のごとく。

 の警備員服は裂け、右腕が浴びた血は、肘までどす黒くへばり付いている。頬に三筋の裂傷。瞳には、命のやり取りをした後の荒涼たる闇が宿る。

 ひび割れが縦横に走る道路を、長い影をつれて歩く。

 近づきたくもないほどの鬼気を帯びる修羅。だが、その修羅を追うやからが居た──

 隅田川に近い辺りで、包囲されていることに気づいた。相手の動きは常人のものではない。

 歩みを止めた。

 前方、交差点の角から、サングラスの濃紺スーツが姿を見せた。合わせるように、左右の路地から一人ずつ。そして、いつの間にか後方にも一人。

 猛獣どもだ。

 どうりで──

 を抜けたにもかかわらず、ならず者の気配を感じなかったわけだ。猛獣どもがつけ狙う獲物に、ちょっかいを出すバカはいない。

 前方に立ち塞がる男は無音の咆哮をあげた。口からではない。躰から放射するナノマシン共振だ。左右、後方の男たちも同様に共振を放つ。さながら交響曲のただ中に置かれたようだ。

 わざと共振を解放してのド派手な威嚇。特Aクラスの共振パターンが告げる。オレたちはブーステッドだ。相手が悪いぞ、と。

 神サマには素直に礼を言っとくもんだな。シュウは自嘲した。

 ブーステッドマン4人に囲まれる窮地。最新鋭一個師団に包囲されるほうが、まだマシだ。

「ものものしい出迎えだな、ご同業」シュウは言った。「オレを消すのに4人も要らないぜ」

 対するは、同じゼロ課の東日本チーム。政府側──HEAVEN推進派に遣わされたエージェントたちだろう。

「穏便に済ませたいから大勢で来たんですよ、景宮サン。アナタはずいぶん無茶をする人のようだ」正面の男が言う。

「穏便? 粛清に来たんだろ?」

「とんでもない」ぎこちない笑みで応える。「同行願いたいだけですよ」

「ふうん」

 るなら、いきなり襲っている。4対1なら秒殺だ。

「話を聞かせてもらうだけです。協力いただけますね」

 シュウは頷いた。それ以外の選択肢は無い。

 連行された先は、山梨の峡谷に立つホテルだった。

 幸福教団のシステムから奪ったHELLを示すデータは、保存先の腕時計型端末リストデバイスごと取りあげられた。

 部屋に軟禁され、政府筋と思われる連中が入れ替わり顔を出す。

 うんざりするほど訊問が続いた──





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