35
*
国際的なHEAVEN プロジェクトは、一部独裁国家を除いて即時凍結となった。
HEAVENには裏口──HELLがある。その情報が密かに浸透すると、政権に激震が
HELLが無ければHEAVENは存在できない。HEAVEN 稼働のためには、犠牲となる者の不幸が必要。そんなショッキングな事実が公になれば、社会不安が増大し大混乱に陥る。HEAVEN プロジェクトは、終末を迎える人類の一縷の望みでもあるのだ。
『HEAVENに深刻な被害を与えた』という〈Wake up!〉の犯行声明が捏造され、政府の自作自演が始まる。
人心を惑わす情報はフェイクで、〈Wake up!〉が仕掛ける
徹底した情報統制のもと、システム・メンテナンス名目で、日本版HEAVEN も無期限凍結された。
凍結により、仮想世界の住人たちは、HEAVEN・HELLの区別なく虚無の眠りにつく。夢の無い、闇さえ無い、虚無の
還るべき躰はもう無い。
一方で隠密閣議が開かれる。HELLを除外したHEAVEN単独稼働の可能性が議論される。
多少世界にリアリテイが欠如しようとも、凍結よりマシではないか──
そんな楽観は、一人の参考人の証言があっさり打ち崩した。HEAVEN開発を主導した、勾留中の脳科学者だ。
──影の無い光がどのようなものか。光は光として存在できない。差異の無い世界は、ただの虚無。永遠の平坦。感情、感覚が波打つことはない。選択の楽しみも克服の歓びも無い。苦痛さえ無い。同じカタチとスペックを持つ無個性なマネキンがひしめく平原は、瞬時に識別不能の海に呑まれ、混沌以前に還る。停止という牢獄。あまりの空白に絶叫したくなる──が、その気力すら湧くことがない。
そんな世界は、皆さん、HELLを超える地獄ですよ。虚無に落ちた人格を、虚無に直面させない。そのためなら、凍結の方がずっとマシでしょう──
大いに失望しかつ嘆いたのは、順番待ちに並ぶ上級市民だ。HEAVEN始動時にあえて参加せず、先行の転移者たちをモルモット代わりに見極める。初期不良のリサーチが一巡し、安全が確認された時点で、行列へ横入りを始めた。
上級市民は、財力とコネに
上級市民の一部は、HEAVEN凍結のない独裁国家へ移住した。ワイロを使い、 搭乗待ちの行列に割り込む。なんとしても温かいHEAVENのベッドに横たわり、
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます