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 国際的なHEAVEN プロジェクトは、一部独裁国家を除いて即時凍結となった。

 HEAVENには裏口──HELLがある。その情報が密かに浸透すると、政権に激震がはしった。担当大臣クラスでも寝耳に水だ。

 HELLが無ければHEAVENは存在できない。HEAVEN 稼働のためには、犠牲となる者の不幸が必要。そんなショッキングな事実が公になれば、社会不安が増大し大混乱に陥る。HEAVEN プロジェクトは、終末を迎える人類の一縷の望みでもあるのだ。

『HEAVENに深刻な被害を与えた』という〈Wake up!〉の犯行声明が捏造され、政府の自作自演が始まる。

 人心を惑わす情報はフェイクで、〈Wake up!〉が仕掛ける精神サイコテロと断定。HEAVENに関わる情報発信および拡散は、処罰法まで繰り出して封じた。  

 徹底した情報統制のもと、システム・メンテナンス名目で、日本版HEAVEN も無期限凍結された。

 凍結により、仮想世界の住人たちは、HEAVEN・HELLの区別なく虚無の眠りにつく。夢の無い、闇さえ無い、虚無のしとねだ。

 還るべき躰はもう無い。

 現実こちらに帰還して、証言でもされたら堪らない──の生存体まですべてに改ざんされ、廃棄処分された。

 一方で隠密閣議が開かれる。HELLを除外したHEAVEN単独稼働の可能性が議論される。  

 多少にリアリテイが欠如しようとも、凍結よりマシではないか──

 そんな楽観は、一人の参考人の証言があっさり打ち崩した。HEAVEN開発を主導した、勾留中の脳科学者だ。

 ──影の無い光がどのようなものか。光は光として存在できない。差異の無い世界は、ただの虚無。永遠の平坦。感情、感覚が波打つことはない。選択の楽しみも克服の歓びも無い。苦痛さえ無い。同じカタチとスペックを持つ無個性なマネキンがひしめく平原は、瞬時に識別不能の海に呑まれ、混沌以前に還る。停止という牢獄。あまりの空白に絶叫したくなる──が、その気力すら湧くことがない。

 そんな世界は、皆さん、HELLを超えるですよ。虚無に落ちた人格を、虚無に直面させない。そのためなら、凍結の方がずっとマシでしょう──

 大いに失望しかつ嘆いたのは、順番待ちに並ぶ上級市民だ。HEAVEN始動時にあえて参加せず、先行の転移者たちをモルモット代わりに見極める。初期不良のリサーチが一巡し、安全が確認された時点で、行列へ横入りを始めた。 

 上級市民は、財力とコネにまもられて、たとえ裏スロットのウワサがあろうと、そちらへ回されることはないと信じている。上級の享楽が下級の犠牲で成り立つなど、当然の公式として生きてきたのだ。

 上級市民の一部は、HEAVEN凍結のない独裁国家へ移住した。ワイロを使い、 搭乗待ちの行列に割り込む。なんとしても温かいHEAVENのベッドに横たわり、宇宙船はこぶねで永遠のクルーズに出ようと。

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