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「今の話を日曜礼拝でもやるのか?」

「まさか!」助祭は肩をすくめる。「相当な信心がなければ、ここまでの教えは受容できない。初心者には、、やさしい神サマのオハナシをするのさ」

「信心してHEAVENに入居したつもりが、HELLに回されていた。悪徳不動産屋に苦情は出ないのか?」

「不幸が続くほど後々の恩恵は大きくなる。苦難は、来るべき神の国への試練。そう信じて人々は励むさ。そう思考させることが宗教じゃないか──」

 そこで助祭は我に返ったように瞬いた。

「いけない、喋り過ぎた。悪いクセだ」舌打ちする。「ボクの講話は人気があるんだ。つい喋り過ぎてしまう。みんな涙を流して聞くよ。外部の集会なら高額なお布施が出る」

「ああ、とてもありがたいオハナシだったぜ。涙が出そうだよ、可笑しくて。お布施は出さんがな」

「じゃあ、キミの香典で充当しよう」

 その言葉がスイッチになり、戦闘が再開された。高速転移した両者が激しく交差する。助祭は笑みを浮かべたまま、圧倒的な自信でバトルを愉しんでいる。

 速い。限界まで高められた加速性能はブーステッドに近い。速度差は僅か10%強。おおかたのサイボーグに対する速度差アドバンテージは、ほとんど無いに等しい。しかも、その10%差を埋めて余りある兵器を繰り出してくる。

 を飛ばした後の左手首から、鉤型の刃物が3本生える。切れ味抜群な鉤爪かぎつめの出来上がりだ。それが振り下ろされ、突き出される。

 実体の鉤爪に対してカマイタチは仮想だ。斬り合いに乗れば、仮想を出力するこちらの体力が消耗する。かわすしかできない。ギリギリの回避。そのたびに新しい傷が増える。傷を致命にしないことで精一杯だ。

 弧を描いた鉤先が、シュウの頬に赤い三本線を刻んだ。

 勢いでオーバーターンした助祭の背が、一瞬ガラ空きになる。

 組み付こうとする。

 ガラ空き?

 とっさに思いとどまる。──フェイントだ!

 聖服の背部を突き破って超硬度カーボンの短針が発射される。その数、数百。

 床に転がって回避。

 シュウの背後にあった座席は、短針のシャワーを浴びて崩れ、塵になって舞う。

 背中に短針銃を装備しているのだ。バックは取れない。

 ジョーカーは、分離した助祭の左手に握られたままだ。もがき、熱線を発射するも縛めは解けない。

 短針シャワーの追撃が来る。かすられた上着の裾が煙と化して散る。

「なんだ、逃げ廻ってばかりか。つまらん。失望したよ、ブーステッドマン。もう終わりにしよう」助祭は上着を脱ぎ裸の上半身を晒した。「神の御許みもとへ旅立つがいい。抱きしめて祝福を与えよう」両腕を拡げる。

「遠慮する。男と抱き合う趣味はない」

 低い唸りが助祭の胸から発する。白い胸の表面が、チラチラ揺れて見える。

 超高速振動!

 シュウのカマイタチと同じ原理だ。ただし面振動で、切断が目的ではない。目的は切削。助祭の胸に浮いたのは仮想シュレッダーだ。抱きしめた相手を細片に削り尽くす。

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