08

 土煙が舞う。道路に乗り捨てられたトラックの陰にシュウは伏せていた。トラックは爆風に横転し、シュウの側に荷台を見せている。

 ぎりぎりで逃げた。1秒遅れていたら、爆風に巻かれてズタズタになっていただろう。

 永遠の幸福を対価として少年たちは自爆した。ためらいは微塵もない。爆死の直前、彼らの瞳は悦びに充ちていた。

 怒りなど虚しい。筋違いだろう。人がどのように幸福になろうと、他者が口を挟む問題ではない。本人が幸福だと言うなら、それでいいじゃないか。

 視界の彼方に純白の尖塔がそびえている。人々に幸福を配給する、幸福教団の総本山だ。ジャングルに囲まれる聖なる塔は、無法地帯が防壁になり人を寄せつけない。

 上空でホバリングしていたジョーカーを呼び戻す。

 小鳥のように舞い戻り、3D迷彩を解除してブラウンのボディを現した。

 トンボのはねに似た透明なプロペラは畳まれ、背に収納される。一見葉巻に似たマルチツールロボット──ゼロ課の秘密兵器を上着のポケットに仕舞った。

 横倒しビルの前に着く。割れた窓から屋内へ入った。

 かつて壁だった面が床になり、なだれ落ちたオフィス家具が積み重なっている。間を抜けて廊下に出た。90度傾いたビルの内部を進む。

 横方向へ1階分移動すると、エレベーターの扉が真下になっている。指示された座標はここだ。

 どこかに仕掛けがあるはずだ。

 扉横の乗場操作盤に並ぶ△と▽のボタン。これか──

 腕時計型情報端末リストデバイスを、操作盤上にかざす。探知波を発信し、反射波形をゼロ課へ送信して解析させる。

 2分後、の返信が来た。

 ++/---/+/-

 シュウはそのとおりに操作ボタンを押す。

 △△、▽▽▽、△、▽

 微かな音をたててエレベーター扉は開いた。箱内に飛び下りる。まもなく扉は自動で閉じた。

 闇の中、ナノマシンの暗視機能がONになる。

 エレーベーターボックスの、外れた天井部を通り抜けて、昇降路シャフトを進んだ。

 少し先に、真下に開く穴がある。取り付けられた簡易階段を下りた。

 下りた所は地下オフィス街の通路だ。

 なるほど、倒壊したビルを地下街と繋げたか。

 地下通路は崩落して往来不能になっている。このスペースは外部から遮断されているわけだ。

 暗闇にオフィスが並ぶ。閉じたドア、開いたドア。いくつ目かを通り過ぎようとして──

 不穏な気配に振り向いた。

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