02

「へへ、知ってるぞ。ネエちゃん、に犯されるのが趣味なんだろ。だからワザワザこんな道を通る。いいって。恥ずかしがるこたあないさ。は人それぞれだからな」

「アンタのお客と一緒にしないでくれる。その赤い目のむこうから覗いてる変態野郎ども、すぐに捕まえてやるぜ」

 浮浪者の目から、ライブ視聴のための赤い補助光が消えた。あわててログアウトしたのだろう。小心者どもめ。だが、このキタナイ男の目玉をくり抜いて、通信ログから追跡できる。逃がしゃしない。

「おいおい、捕まえるなんて言うから、ライブの客がみんな逃げちまったじゃねえか」男は舌打ちする。「まあいいや。オマエがなら、録画でもいい値で売れる」男はそこで首を傾げる。「ホステスじゃねえのか。ポリには見えねえが」

 サイボーグ女性警官なら上体が分厚くなる。和服は似合わない。

「女、オマエ何者だ」

「ゼロ課エージェント、ブーステッド

「何だ? そりゃ」世事に疎い浮浪者はポカンとした。

「知らないの」鼻白む。「まあいっか、逃げ廻られなくて済むし」

「ちっとは強えのか? 空手でもやんのか。じゃあ、オレっちのを見せてやろう。驚けェ!」

 ヨレヨレのブレザーを脱ぐ。シャツを突き破って、もう一対の腕が脇腹から生えた。

「オレは戦闘型サイボーグに改造されている。人の躰なんか引き千切れるのさ。だがな、オンナにはやさしい。殺す前に四つの手で可愛がってやる」女性の姿を視線で舐め廻す。鼻の穴が拡がる。「殺すのは惜しいな…… 愛人にしてやってもいいぜ、ネエちゃん」

 は小さくため息をついた。

 目にも止まらぬ速さで襲いかかったはずの四本の腕は、何も捉えることができなかった。路面に墨色濃淡の紅葉──脱ぎ捨てられた着物と草履だけで中身は無い。

「え?」顔を巡らす浮浪者の真後ろに、は立っていた。

 漆黒のボディスーツ姿。結った髪がほどけて夜風になびく。鮮やかなボディラインが艶めかしい。

 ずっと眺めていたい──

 が、望みは叶わなかった。

 喉とボディに突きが入り、追撃の廻し蹴りが側頭を薙いだ。腰に乗せられた躰は逆さまに落ちる。浮浪者に意識があったのは、そこまでだった。

 腕時計型端末リストデバイスで、ブーステッドウーマンはミッション終了のシグナルを送る。GPS位置情報も送信される。後は待つだけだが、ヒトコト言ってやりたい。通話回線を開いた。

「あのさあ、コレってサイボーグ警官の仕事だよね。アタシの貸し出しはこれきりにしてくれる」

「わかった、わかった。所轄にアナタみたいな美人がいないのよ。ゴメンね、ナギサちゃん」チーフの公方くぼうは、しゃあしゃあと返す。

「近くに居るだけで臭いんだよ、この犯人ホシ。回収、うんと急いでね!」

 さっさと引き渡して、ソッコーでシャワーを浴びたい。

 浮浪者に触れた拳を嗅ぎ、凪沙なぎさは柳眉をひそめた。

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