04

 のジョーカーが静音プロペラを回転させて、頭上10メートルを追う。大型昆虫サイズの機体は3D迷彩でステルス化され、肉眼では視認困難だ。

 ジョーカーのレンズが捉える映像は、シュウの体内をはしるナノマシン群が受信する。視界の隅に開くサブウインドウに表示され、センサーに感知された動体はマーキングされている。

 通り過ぎた右側、レストラン跡に2人。前方の宝石店跡には、横倒しのケースとテーブルの陰に2人。逆サイド、瓦礫の山と化した店舗ビルの上に1人。チームらしく情報端末で連絡を取り合っている。

 銀座八丁目付近。過去に歩行者天国ホコテンが催された辺りだ。シュウは歩みを止めた。

「そろそろ出てきたらどうだ」呼び掛ける。

 大通り中央の何も無い空間に、いきなり若い男が出現した。一瞬にだ。

 常人には奇跡かマジックに見えただろう。だが、ブーストされたシュウの視力はマジックのタネを悠々と眺めていた。

 加速された超スピードで、瓦礫の山からとび出してきたに過ぎない。

 金色に染めたショートヘアの男は、パンパンに盛り上がる裸の胸板を誇示した。〈鬼〉と刺繍の入った金ラメのショートタイツにレスリングシューズ姿。この寒空に、MSGのリングに上がるメインイベンター気取りだ。ステロイド製の化物じみた筋肉を見せびらかしたいらしい。

 シュウは噴き出しそうになるのをこらえた。

 金色男はサイボーグ処置を受けている。超スピードで動き、増殖筋肉のブサイクなほど太い腕を振り廻すには、骨格をバイオスチールに取り換える必要がある。

 のみを信仰する、支配欲と自己顕示欲が肥大したバカは、ヒーローに憧れてサイボーグやブーステッドになりたがる。憧れを実現できるのは、大金持のドラ息子か犯罪組織シンジケートに利用されるマヌケだ。──さて、コイツはどっちだろう。

 劇的な登場にも動じないシュウに、金色男は苛立った。アゴをしゃくるようにして言う。「おい、オマエ、ここは地獄通りって呼ばれてるんだ。知らんのか?」

「さあな。銀座通りじゃないのか」

「はあ、田舎モンか。そりゃ昔の呼び名だろ。現在いまは地獄通りだ。地獄通りには鬼が棲むんだよ。通り抜けたきゃ、通行料ってのを払わにゃいけねえ」

「鬼か。出遭わなかったな。アンタは鬼の前座か?」

 金髪に縁取られた額に血管が浮く。激しかけたが、ふう、と憐れむように息を吐いた。おそらくは取り巻きに余裕を見せるために。

優男やさおとこクンよぉ。オレは寛大な男なんだけどよお。侮辱は許せねえなあ。鬼はオマエの目の前に居るじゃねえか。鬼というには美男すぎるけどよお」指を組み、これ見よがしにボキボキ鳴らす。「言った事は、もう取り消せねえぜ。償いは、死だ。決まり!」ビシッ、とシュウを指さしては死刑宣告をした。

 隠れていたメンバーたちが路上に現れる。ぐるりとシュウを遠巻きにしている。

「そうか。アンタ鬼なのか。鬼のコメディアンか?」

 金鬼はキレた。高速転移した。

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