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「自分にふさわしい躰は、自分の力で調達する。持たざれば奪うまでのこと。才藤の躰でいいと思ったが、オマエは別格だ。すばらしいよ。ナノマシンを完璧に飼い馴らしている」

「そんな大事な躰を結城助祭に壊されなくて良かったな」

「試練を与えたのだ」大げさに両腕を拡げる。「試練をくぐり抜けて、ここまでたどり着いた。正しい流れが、その躰をワタシに届けた。オマエはに選ばれたホンモノということだ。さて、さきほどの提案だが、答をもらおう。戦わず躰を放棄してHEAVENへ行くか。それともワタシに叩きのめされるか」

「アンタに躰をくれてやる気はないよ」

 司教は悲しげにため息をついた。「無傷で手に入れたかったが、止むを得ん。蘇生可能な程度に殺す。人格は抜き取ってHELL送りだ」

「司教サマはサイボーグ体だな。出来損ないブーステッドとのハイブリッドってとこか。だが、結城みたいに、躰に武器を仕込んじゃいない」

「だから楽勝だと言うのか? ふふ。試してみろ」司教は手を後ろに払って使徒兵たちを下がらせた。手出しをするな、ということらしい。

 ──宗教家ってのは、どいつもこいつも自信過剰ばかりだ。

 問題は、1秒先を見るという能力…… こればかりは、手合わせしてみなければわからない。  

 高速転移。シュウはひと跳びで間を詰めた。

 ファーストコンタクトは、ペアの踊りに似ていた。出した腕はリズムに乗ったように受けられ、巻き込まれる。躰が反転する。投げられたのだ。床に落ちるまでに、的確なパンチを2発ボディにもらっていた。

 高速の戦いで1秒は長い。先が見えるアドバンテージは予想以上だ。

 シュウが起き上がるのを待つ。余裕だ。

 再度つっかける。加速はMAX。距離を置いての蹴り。

 表情も変えず最小の動きでかわした司教は、寄る。

 顔面へ張り手をかまされる。襟首を掴まれて壁に叩きつけられる。

 警備員服は裂けて、切れ端が司教の手に残った。ポケットからこぼれたジョーカーが床に転がった。

 ごふっ。口に湧いた血を吐き出す。

 こちらが速度でまさっていようと、動きは1に見られているのだ。

「凄いをもっているじゃないか」シュウはおだてた。

「気づいたか。ワタシには第三の目が開いたのだ」

「すばらしい。ブーステッド不適合でも、それだけで充分ぜ」

 コイツも説教好きだ。喋らせろ。考える時間をかせげ。

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