06

 押し殺した苦悶のうめき声が聞こえる。前方、テナントビル一階だ。大型スポーツ用品店跡、アスレチック器具が並ぶスペース。

 無視すべきだろう。内輪もめは関係ない。だが、足は止まった。苦痛を訴える声が子供のものだったからだ。

 舌打ちする。

 関わらずに済む事に関わる。アナタの悪いクセよ。そうチーフに言われたことがある。

 当該スポーツ店跡に目を凝らす。ナノが視覚をズームする。拡大された視野に、むごい光景が展開する。いや、ジャングルには惨い光景しか存在しないのだ。それがなのだから。

 トレーニングベンチに括り付けられた裸体の少年が、もう一人の裸体の少年に、生きながら解剖を受けていた。被虐者は口に縄を巻かれている。そこから悲鳴と荒い息が洩れている。

 は巧妙だった。なるべく生存を延長させるために、手術用メスで薄皮を剥がすように進行している。

 役を振り分け合ったショーだ。思春期にさしかかる少年二人は共に愛らしい。おのれの血にまみれる少年と、噴き出す温かい返り血を受ける少年。クスリを射たれたか、思考制御を受けたか。いずれにしても、二人とも犠牲者なのだ。

 ビデオカメラを固定した三脚が傍らに立つ。パイロットランプが緑に点灯している。 

 美しく残酷な映像は、世界中に潜む嗜好者へライブ配信されている。口を縄で不完全にしか塞がないのは、悲鳴を聞かせるためだ。

 関わらずに済む事に関わってしまう。

 割れたウインドウをくぐり、シュウは店内を進んだ。カメラを蹴り倒す。

 無垢な二対の目が同時にこちらを向いた。

「おい、何やってる。やめろ!」

 少年たちは、中性的なピンクの頬に、天使のような笑みを浮かべた。切り刻まれている子までが。

 ──使徒!

 直感した。

 幸福教団のため身をてると誓った信者の呼称だ。使徒は殉教により天に召され、永遠とわの幸福を得る。──教義に洗脳された狂信!

 使徒がなぜ自作自演のウラ配信なんかする? 教団への献金のためか?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る