第27話 後夜祭

「あのねぇ、女の子拘束して連れ回すなんて、犯罪なんだからね? もうちょっとで警察に通報するところだったんだからね? わかってるっ?」


 双子を相手に説教しているのは、なんと牧野つばさである。翔が信吾に事情を説明したところ、一緒にいたつばさまでもが私の捜索に参加。翔が私の発見を信吾に知らせ、駆けつけた信吾とつばさ。そしてつばさの説教が始まったのである。


「はい」

「反省してます」

 双子は、初対面のつばさにえらい剣幕で怒られ、シュンとしていた。

「あの、牧野さんありがとう。ごめんね、せっかく後夜祭楽しんでたのに」

 私が悪いわけではないけど、なんだか申し訳なくなる。

「やだ、有野さんは被害者でしょ? 謝ることないわよっ。怖かったでしょ? 本当に無事でよかった」

 と言いながら私を抱き締めてくる。

 なんとも、複雑だ。

「そんな酷いことなんかしてないしー」

「有野をいじめたりしてないしー」

 双子が口を尖らせる。

「お黙りっ!」

 つばさが切り捨てる。

「それより有野、後夜祭行こうよ~」

「そうだよ、行こう~」

 懲りない二人である。

「そうだね、せっかくだから後夜祭行こうよ」

 翔が外を指す。

 キャンプファイヤーの火と、ミスコンらしき催しの放送が聞こえてくる。


「じゃ、私と信吾はもう行くわね。後はみんなで仲良くやってよ!」


 信吾? いつの間に「信吾」呼び?


「じゃ!」

 つばさは信吾の手をパッと掴むと、さっさと外の暗闇に消えていった。

「……嵐のような女だな」

 仁が呟いた。

「ちくしょう、信吾のやつぅ」

 翔は恨めしそうである。


「あーっ! こんなところにいたーっ!!」


 大きな声を出して走ってくる小さな女の子。

「げっ」

「あずさっ」

 双子が身構える。

「もうっ! ずっと探してたんだからね!」

 小さい彼女は、目一杯双子を見上げて、言った。

「あのー、こちらは?」

 翔が双子に訊ねる。あずさは翔を振り返り、腰に手を当て、言った。

「私は日野あずさ。そういうあなたはサッカー部の相田君ね。それと、ロミオとアリアナ。……あなた、アリアナの人よね?」

 ピッと人差し指を突き出し、あずさ。

「え? あ、はい」

 香苗も小さいのだが、あずさはもっと小さい。双子と並ぶと更に小さく見える。

「ふーん、あなたが有野……さん……ねぇ」

 意味深な視線を向けられ、戸惑う。双子が慌ててあずさに言った。


「で、なんだよあずさ、なんか用なわけ?」

「そうだよ。なんか用?」

 二人の台詞に、ムッとした顔で、あずさ。

「馬鹿ねっ、あんたたちはこのあとのミスターコンに出るの! 早く来なさい!」

「はぁ?」

「ミスターコン?」

「そっ! このあずさ様直々に申し込みしてあげたんだからね! 行くわよ!」

 ぐい、と双子を引っ張る。

「そんなの聞いてねぇ」

「出たくねぇ」

「はぁ? 優勝して景品取ってってお願いしたでしょ?」

 腰に手を当て、あずさ。

「景品?」

「そっ! ワンダーランドのペアチケット。さ、おいで!」

 ガシ、と両腕に双子を絡め、引きずるように野外舞台の方へ歩き出す。

「えええー」

「有野ぉぉ」

 私は黙って手を振った。

 これでやっと開放される。


「行っちゃったね」

 翔が呟く。

「やっと静かになった」

 タケルが大きく息を吐き出す。

「ミスターコンなんてやるんだ」

 私、文化祭のプログラムちゃんと読んでなかったな。

「タケルがエントリーしてたら取れてたな」

 翔が自分のことのように誇らしげに宣言した。タケルは笑って、

「まさか!」

 と言っていたが、ミスターコンは多分女子中心の人気投票みたいなものだから、取れてるかもな、と私も思う。あのロミオをやった後だし。


「なぁ、タケル」

 翔がタケルに小さく耳打ちする。

「ん?」

「俺、どっか行ったほうがいいか?」

 気を利かせているのである。

「バーカ、一緒に回ろうぜ。有野さん救出は、お前の手柄なんだからさ」

 そう言って翔の背中を軽く叩いた。


*****


 後夜祭は大いに盛り上がっているようだった。ミスコン、ミスターコン、クイズ大会、その他諸々、いくつかの会場でバラバラと行われている。そしてやっぱりカップルが目立つ。もちろん、友達同士で来ている生徒もいるが、あちこちでいちゃついているカップルを目にするのだ。


「あの、」

 私たちにおずおずと声を掛けてきたのはどうやら一年生。三人で固まって押し合いながらモジモジしていた。

「なにー? どうしたん?」

 翔が声を掛ける。

「あの、ロミジュリ観ました!」

「すっごく良かったです!」

 熱っぽく感想を述べる。

「えっと、やっぱりその、お二人は恋人同士なんですかっ?」

 三人の中の一人が思い切ったように聞いてくる。

「え?」

 私が絶句していると、何故か翔が代わりに返答した。

「それがさぁ、まだなんだよねぇ。多分そのうちそうなると思うけど。応援してくれる?」

「なっ、」

 私が翔に抗議するより先に、三人がパッと顔を輝かせて、

「します!」

「応援します!」

「絶対付き合って欲しいもんっ」

「ねーっ!」

 等と盛り上がっている。


 おいおいおい、なんでそうなる。これはファン心理っていうものなのだろうか。


「ちなみに俺はフリーだから、よろしくね!」

 ちゃっかり自分を売り込んで笑いを取っていた。


 そこにやってきたのは、椎名亜紀。満面の笑みで手を振っている。

「あ、椎名さん」

 私も手を上げ、応える。

「ちょっと! 大和君、有野さん、相田君聞いてよっ!」

「なん?」

 翔が首を傾げる。

「取った!」

「なにを?」

「クラス賞! ロミジュリ断トツで一位だったんだよ~!」

 ぴょんぴょん跳ねながら喜びを全身で表現する。

「マジでっ?」

 翔が叫ぶ。

「マジで! 二位との差が倍近くあるの! 凄くないっ? もう、嬉しくって!」

 実行委員、大変だっただろうしな。

「おめでとう、椎名さん!」

 私は拍手しながら称える。

「おめでと」

 タケルも笑顔で祝福をした。

「大和君のおかげだよぉ! 本当に嬉しいよぉ! 有野さんもありがとう~!」

 涙目である。

「それでねっ、明日劇メンで打ち上げやろうってことになったから、三人にもあとで連絡するね! みんなでパーッとお疲れ様会、やろうねっ!」

 満面の笑みで、亜紀。

 翔がおおお!と雄叫びを上げている。そしてタケルは……触覚がうなだれていた。


「明日……やるのぉ?」


 亜紀に聞こえないような小さな声で、そう呟く。申し訳ないな、と思いつつ、私は笑ってしまったのだった。

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