第39話 プレゼント

 街はクリスマスムード一色だった。


 ウインドウは電飾でキラキラと輝き、街ゆく人の足取りも軽く、心なしかウキウキしているように見える。


「うーん」

 志穂はマネキンの前で唸っていた。

「……わからん」

 タケルへのクリスマスプレゼントを買いに来たのだが、何をあげればいいのか、さっぱりなのである。


「マフラー? ありきたり。手袋? も同じか。パスケース? 使うのかな? 服……はわかんないし……はぁぁ」


 モールを三周したが、何一つピンと来ないのだ。みずきや香苗は『志穂が選んだものならなんだって喜ぶから大丈夫!』と言ってはいたが。

 せっかくなら、本当に喜ばれるものがいいじゃない。


 首に付けているワンダー君のペンダントに触れる。サプライズでもらった思い出の品である。


「……あれ? 有野さん?」

 声を掛けられ、振り向く。

「えっ?」

 そこにいたのはタケルだった。

「大和君」

 まさかの本人登場に、変な汗が出る。

「えっと、一人?」

「あ、うん。大和君は?」

 辺りを見渡すが、翔や信吾の姿はない。

「ああ、さっきまで信吾と一緒だったんだけど、今は一人。あいつ、自分の用事が済んだらとっとと帰っちゃってさ」

「用事?」

「牧野さんに渡すクリスマスプレ、」

 そこまで喋って、慌てたように口に手を当てる。思わず私も固まってしまう。


 皆、考えることは同じだ。


 私とタケルはなんとなく笑い合うと、お茶でも飲もうか、とフードコートへ向かった。


 師走のショッピングモールはなかなかの混み具合である。何とか席を見つけて、飲み物片手に並んで座る。


「えっと、有野さんは何か探しに?」

 タケルが訊ねる。

「ええっと、そういう大和君は、三上君の付き添いだけのためにここへ?」

 微妙な、間。


「実はさっ」

「実はねっ」


 同時。


 思わず顔を合わせ、笑い合う。

「クリスマスプレゼントをさ、」

「うん、私も」

「じゃ、一緒に回ろうか」

 タケルが私の手を取り、言った。


 結局、二人でモールを回ることになったのである。


*****


「何か、欲しいものとかある?」

 そう、タケルに聞かれるも、特に思い当たるものはない。聞き返すと、タケルも同じ答えだった。


「俺、基本、有野さんが隣にいてくれたらそれだけで充分だし」

 劇甘なセリフを吐かれるも、

「あ、うん。私も……それでいい……かな」

 思わず、乗っかってみる。


 パッとタケルを見ると、信じられないほど顔を赤くし(多分)照れていた。


「……有野さん、抱きしめていい?」

「は? 駄目だよこんなとこでっ」

「キスしたい」

「だから、ダメだってばっ」

「だって有野さんがっ」

 ワタワタしているタケルを引っ張り、オリジナルアクセサリーの店に入る。

「考えたんだけどさっ、なんかこう、記念になりそうなものがいいかな、って。でね、お揃いのストラップとか、どうかな?」


 店内はパワーストーンやイニシャルチャームなどが沢山置いてあり、それらを組み合わせて自分だけのアクセサリーが作れるようになっていた。

「お揃い……、」

 またしてもタケルがポーッとなる。触角がふにゃふにゃと踊っていた。

「ストラップなら、カバンにも付けられるでしょ?」

 ペンダントはさすがに学校には付けていけないし、と思っていたところなのだ。

「うん! いい! すごくいい!!」

 俄然、やる気になるタケルだった。


 私とタケルはパワーストーンの意味など見ながら色石を組み合わせていく。イニシャルチャームは、お互いの名前を一緒に入れることにした。


しほ TOから タケルへ

タケル TOから しほへ


 微妙に色合いを変え、お互いへ贈り合う。別々に包装してもらうと、クリスマスまでは各自で保管する流れとなった。


「早く付けたいな」

 タケルは始終嬉しそうで、そんな姿が何だか可愛らしかった。

「まだ時間大丈夫? 夜ご飯、どう?」

 タケルは時計を見ながら、聞いてきた。

 陽は傾きかけている。

「今日は早めに帰るって言ってあるから、帰らなきゃ」

 私の言葉を聞き、触角がシュンとなる。

「そっか……、じゃ、送るね」

 残念そうに、タケル。


*****


 帰り道、今まで謎に包まれていたタケルの話で盛り上がる。

「じゃ、お兄さんがいるの?」

「そう。今は地方の大学に通ってるから家にはいないけどね」

「えっと、あの、お兄さんも…青、」

「しっ!」

 タケルが人差し指を出し、制した。

「確かに有野さんはピコラ星人特有の電波を潜り抜けてはいるけど、すべてのピコラ星人を見分けられるわけじゃないんだと思う。だから有野さんが兄を見た時どう見えるかは、わからないよ」

「そうなんだ」

「ま、あんな奴、絶対近寄らせないけどね」

「へ?」

 兄弟なのに?

「仲、悪いの?」

「今までは別に普通だった」

「じゃあ、」

「有野さんにちょっかい出されたくない」

「ちょっかいって、」

 心配性だなぁ。


 公園まで来てしまう。

 あと十分もすれば、家だ。


 タケルが立ち止まる。私の手を引き寄せ、抱き締めた。

「帰したくないな」

「明日学校で会えるのに?」

「独り占めしたい」

「もぅっ」


 そっと離れる。

 見つめ合う。


 そのまま、ゆっくりと唇が重なる。


「クリスマスの日、さ」

 タケルが潤んだ瞳で、言う。

「うちに、来ない?」

「え?」

「親、いないんだ」

「……え?」

「両親、毎年クリスマスは泊りで仕事なんだよね。俺、クリスマスは基本、独りなんだ」


 ちょっと待って、それって……もしかして、


「ピコラ星人って……サンタ……?」

 タケルがコケる。

「なんでそうなるっ!」

「え? え? だって、え? 違うの?」

 私は真面目に言ったのにぃ。

「ほんっと有野さん、そういうとこっ」

 タケルがはぁ、と深く息を吐く。

「可愛すぎて困る」


 抱き寄せ、キスをする。


 何度も、何度も。


 結局タケルがなかなか離してくれず、巡回のおまわりさんが通るまで三十分近く公園で話し込んでしまったのである。

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