【完結】公爵子息の僕の悪夢は現になるらしいが全力で拒否して大好きな婚約者を守りたい

宇水涼麻

幼少編

第1話 幼きお見合い

 とてもとてもキレイな女の子が僕の腕をとり微笑んでいる。僕は彼女を天使と呼ぶ。

 ………………そして、足元には…………泣き濡れている女の子。


 僕は彼女を助けたいのに僕の体は動かない。


 誰かっ! 誰か僕を起こしてくれ!


 僕は彼女を……




〰️ 〰️ 〰️


 僕は、ボブバージル・ギャレット。

 僕の父上は王弟だ。公爵という位と公爵領を賜っている。父上は、兄である国王陛下の秘書兼代理兼相談役で、つまりは国王陛下の側近をなさっている。国王陛下と同じくらい忙しいみたいだ。

 そのため、僕は生まれた時から家族で王都にて暮らしている。領地には年に1度くらい行くだけだ。

 僕の家族は、父上、母上、三つ上の兄上、一つ下の妹の五人。





 僕は時々変な夢を見る。


 初めて見たのは、十三歳の時だった。



〰️ 〰️ 〰️


 僕は、ボブバージル・ギャレット。八歳です。

 僕は公爵家の子供なので、婚約者を決めるためにお見合いをするそうです。


 お見合いって何をするのでしょう?


 『とにかくテーブルに座って女の子とお話するのですよ』お母様とメイドが教えてくれました。お庭のテーブルに座って待っていると、メイドに連れられて女の子がいらっしゃいました。


 僕は、立ち上がって挨拶をします。


「ギャレットこうしゃくけのボブバージルです。今日は来てくださってありがとうございます」


 僕はメイドと練習したように言えたと思います。相手の女の子もお名前を教えてくれて、椅子に座りました。


 一人目の女の子は可愛らしい子でした。僕が何を聞いても『うん、うん』と言うだけで、ずっとお菓子を食べていました。


 あまり、その子のことがわかりませんでした。あ!お菓子は好きな子だと思います。


「あら? バージルよりお話をしないなんて珍しい女の子ね。一応、保留ね」



 違う日に、また『お見合い』をしました。挨拶をしてお席に座ります。


 二人目の女の子はとても明るい女の子で、ずっとお一人でお話をしておられました。僕は頷くしかできませんでした。

 僕は女の子のお話の速さに目を回してしまい、その日の夜にお熱を出してしまいました。


「バージルはおしゃべりすぎる子もダメなのねぇ……。お熱を出すようでは一緒にはいられないわね。お断りしましょう」



 違う日に、また『お見合い』をしました。挨拶をしてお席に座ります。

 僕は、三回目なので、とても上手にご挨拶もできたし、ご挨拶の後に『にっこり』もできました。

 

 三人目の女の子はとてもキレイなお顔の女の子で……でも……ずっとそっぽを向いて怒っていました。

 僕は何もお話できなくて、お菓子も食べられなくて、ずっと下を向いていました。女の子も何もお話しないまま帰ってしまいました。


「まさか? あの子、そんな子だったかしら? バージルのことがよほど嫌だったのかしらねぇ?」



 違う日に、また『お見合い』をしました。挨拶をしてお席に座ります。僕は四回目なので、とっても上手にご挨拶もできたし、ご挨拶の後に『にっこり』もできました。お話も僕からすることができるようになりました。


「どんなことをすることが好きですか?」


「わたくしはご本が好きです。公爵様のおうちの図書室を見せてくださいますか?」


 四人目の女の子はそう仰りました。女の子はほんわりと笑っていたと思います。僕は慣れたつもりでも緊張していたらしく、あまり覚えていません。


 その女の子を図書室へお連れすると、ご自分で本を選んで、窓際の席で読み始めました。僕も本は好きだったので、一冊選んで、女の子と椅子を1つ離して座り、本を読みました。静かな時間が過ぎます。でもイヤではない時間でした。

 僕の緊張もいつのまにかなくなっていました。


 メイドが僕たちを呼びに来たので、二人とも席を立ちました。


「ボブバージル様は、そのご本は読みおわりましたの?」


 さっきは気が付かなかったのですが、とても可愛らしい声で、とても可愛らしい女の子だったのです。本を大切な物のように、ギュッと抱いています。


「うんっ! これは好きな本だから何度も読んでいるんだ。だから、もう読んであるんだよ」


「まあ! そうでしたの! それでしたら、そちらのご本をお借りできますか?」


 僕が好きだと言った本に興味を持ってくれたみたいです。なんだか、くすぐったい気持ちになりました。


「ああ、いいよ。君はその本を読み終わったの?」


「いえ、まだですけど……」


 本をギュッと抱く力を強めていました。そして、彼女は少しだけ俯いていました。きっともう少し読みたいのです。僕も本が好きなのでその気持ちはよくわかります。


「じゃあ、そちらも持っていくといいよ」


「よろしいのですか?」


 顔をあげたときの大きなおめめがこぼれ落ちそうなくらいでした。とても可愛らしい。喜んでいることがよくわかります。


「うん。返してくれる時に、君の好きな本を貸してくれると嬉しいな。来週にも来られる?」


「はい! また来ますっ!」


 僕は、一目惚れならぬ、一日目惚れをしたのです。彼女は決してとびきり美人でもとびきり可愛いわけでもありません。普通に可愛らしい女の子です。

 でも、本を読みながら、肩をビクッとさせたり、お口に手をもっていったり、そうやって真剣に本を読む彼女の仕草がとても可愛らしく思えたのです。

 そして、最後に『はい!また来ますっ!』と言った時の目がキラキラでステキだなって思ったのです。


 彼女は、クラリッサ・マクナイト伯爵令嬢です。同い年です。


 次の週、彼女は、読み終わった2冊の本と僕に貸してくれる1冊の本を持って遊びに来ました。僕たちは、お菓子を食べながら、彼女が持ち帰った本のお話をしました。彼女が僕の好きな本の感想を話してくれる時、手をすごく動かして感動を伝えてくれて、同じところをドキドキワクワクしてくれてうれしかったです。


 その日は、図書室で本を読むときには、お隣に座って読みました。僕はドキドキしながら時々隣をチラリと見ます。真剣な彼女の顔はとってもキレイです。僕はドキドキしていたせいで本はあまり読めませんでした。


 クラリッサが貸してくれた本は猫が市井を冒険するお話でした。僕は市井には家族と食事に行ったことがあるだけなので、知らない世界にドキドキしました。



 そして、僕が五人目の女の子に会うことはありませんでした。


〰️ 〰️



 三度目のクラリッサと会う約束の日は、僕と父上がクラリッサのお家へ遊びにいきました。クラリッサのお父上様は、王城図書館の館長さんで、とても頭のいい方だそうです。父上や国王陛下もよく相談に行くのだと、父上が言っていました。クラリッサは、マクナイト伯爵家の一人娘だそうです。


 クラリッサが僕を図書室へ案内してくれるといって僕の手を握りました。手を繋いだまま図書室へ行きます。クラリッサは図書室の入口で僕の顔が赤くなっていることに気がつきました。


「あ、ごめんなさい」


 クラリッサは慌てて手を離して真っ赤になって俯きました。


「ううん、大丈夫だよ。嬉しかっただけだから……」


 今度は僕から手を繋ぎました。クラリッサはびっくりしたように肩を動かし、上目遣いで僕を見ます。うわぁ! かわいい!


「このお部屋なの?」


 僕は男としてリードするようにクラリッサの手を引いて図書室へ入りました。


 クラリッサのお家の図書室は、僕のお家の図書室より広くて、たくさんの本が並んでいました。

 クラリッサは、僕の手を離して本棚の一部へ行き、僕に『こっちよ』と声をかけます。


「ここが私のご本なのよ。お父様もお母様もご自分の本棚をお持ちなの。私の部屋にも本棚があるのよ」


 クラリッサは本のお話を楽しそうにしてくれます。たくさんの本を勧められました。でも、僕は断りました。


「僕は、何回もクラリッサに会いたいから、借りるのは一冊にしておくね」


 クラリッサは頬を染めて頷いてくれました。


 この日から、僕はクラリッサをクララと呼び、クラリッサも僕をジルと呼ぶようになりました。そして、僕がクララのお家へ遊びにいくことが、多くなりました。


〰️ 〰️ 〰️


 クララのお母上様も本が大好きで、よく少し難しい本を僕らに読んでくれます。お母上様が読んでくれる本はドキドキするものが多くて、僕とクララは手を繋いで聞くこともありました。お母上様は、読んでくれるのがとても上手なのです。声を変えたり、声を大きくしたり小さくしたり、時には手をガバーってあげて、僕たちをびっくりさせます。お母上様は僕たちが手を取り合って小さな悲鳴を上げると、クスクスと笑うのです。


 いつも最後までは読み終わらないので、次のお約束をして帰ります。そうすると、次もすごく楽しみになって、僕はクララのお家にいつも遊びに行くようになりました。


 少し経つと、クララのお父上様とお母上様は、僕たち二人に家庭教師をつけてくれたので、クララとお勉強も一緒にしました。違う国の言葉を習ってから、そのお国の本を読むのはまた面白くて、クララと言葉調べをしながら読みました。僕は算学も好きになったけど、クララは歴史学の方が面白いと言っていました。


 時には中庭で、図鑑を見ながら季節の花を楽しみました。お母上様が手入れをしているという中庭は、いつもキレイなお花が咲いていました。クララの好きな花も教えてくれました。その花についてお勉強してから庭師のおじさんのお手伝いをするのは、すごく面白かったのです。

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