おまけ 【最終話】

 教室での休み時間。僕は昨日休んだ分のノートを懸命に書いている。

 そんな僕の隣に座ってジィーと見つめる視線が痛い。


「……」


「ん、もう! いったい何かな、マーシャ。僕の顔がそんなに見たいのかな?」 


「その横顔! やっと思い出しましたわっ! わたくし、ずっーと気になっていることがありましたの」


「はい、何でしょうか?」


「わたくしたち、ずっーと前に会ってますのよ」


「えーっ! 知らないよぉ」


「ふふふ、驚かないでくださいませね。バージルはわたくしの初恋の相手でしたわ! ホホホ」


『ガタン!』


 クララが私の前の席から立ち上がる。


『ゴトン!』


 僕の頭は机落ちた。


「マ、マーシャ……本気か?」


 コンラッドが青い顔して立っている。


「嫌ですわっ! みんなで大袈裟ですわね。八歳の頃、たった一時間の初恋でしたわ」


「どういうこと?」


 クララはポテンと座り静かに聞いた。


「わたくし、お見合いで知らないお邸へ参りましたの。そこにいらしたはわたくしより美しい男の子でしたのよ。わたくし、びっくりしてしまいましたの。ご挨拶の後の『にっこり』には、わたくしは殺されると思いましたわ」


「んー、僕は思い出せない……」


「こんな美しい男の子と結婚するなんて信じられないわって思って、ドキドキしていましたの。

でも……その美しい男の子は、何も言わず、何も食べず、ただただ、ずっと、下を向いておりましたのよ、一時間……」


 マーシャはニヤリと笑って横目で僕を見た。


「百年の恋も冷めますわね。ほほほ」


「思い出したぁ! とってもキレイなお顔の子で、ずっとそっぽを向いて怒っていた女の子だぁ!」


 僕は立ち上がってマーシャを指差した。貴族のマナーとしては減点。


「まあ! 怒っていたなんて、失礼なっ! 照れていたんですわよ」


「はぁーー、それはわからなかったよ」


 僕は机に両手を付き項垂れてため息をついた。


「なんだ。バージルはマーシャに怒られてるって思って、下を向いていたのか? ハハハ!

出会いとは面白いものだな」


「あの後すぐにクララと出会ったんだ。クララは全く怖くなかった。ハハハ」


『ペシンっ!』


 マーシャが僕の後頭部を扇で叩いた。


「怖いは余計ですわっ!」


 淑女らしからぬツッコミで僕の頭は再び机に落ちた。


『ゴトン!』


〰️ 〰️ 〰️



 教室での休み時間。僕は昨日休んだ分のノートを懸命に書いている。

 そんな僕の隣に座ってジィーと見つめる視線が痛い。


「……」


「ん、もう! いったい何かな、ウォル。僕の顔がそんなに見たいのかな?」 


「いや、子供の頃のイヤな思い出が蘇った」


「どんな思い出?」


「十歳の時だ。ティナとお見合いのために、ティナの家へ出かけたんだ。僕はティナに一目惚れしてしまった……」


「義弟の惚気話って、あまり聞きたくないね。それに、それは僕の家でもあるよね……」


「二階にお気に入りを取りに行くと言って、ティナが十五分ほど戻って来なかったんだ。僕は二階にティナを迎えに行った。

すると、ティナが男の子になって登場したんだよ。僕はショックで一緒に来ていた母上のところに逃げた……」


「おいおい、もしかして、それって……」


「ああ、母上にも、お義母上にも笑われたよ。『それは、バージルよ』ってね」


 十歳くらいだと、確かに女の子の方が成長が早い。一つしか年が変わらないティナは、その頃僕と同じくらいの身長だった。


「だからって、魔法かって!」


「いやぁ、あの頃、お前はキレイだったよ。うん……」


〰️ 〰️ 〰️


 

 教室での休み時間。僕は昨日休んだ分のノートを懸命に書いている。

 そんな僕の隣に座ってジィーと見つめる視線が痛い。


「……」


「ん、もう! いったい何かな、クララ。僕の顔がそんなに見たいのかな?」 


「ジルの横顔ってあまり見ないから。いつも、下からばかりでしょう」


 クララは真っ赤になっている。


「見てどうだったの?」


 クララが耳元まで顔を寄せる。


「ジル。真剣なお顔もステキよ」


 クララは廊下へかけていってしまった。



「おいっ! バージル! 熱でもあるのかっ? 保健室いこう!」


 セオドアにおぶわれそうになった。


〰️ 〰️ 〰️


 教室での休み時間。僕は昨日休んだ分のノートを懸命に書いている。

 そんな僕の隣に座ってジィーと見つめる視線が痛い。


「……」


「ん、もう! いったい何かな、コンラッド。僕の顔がそんなに見たいのかな?」 


「いやぁ、お前、ホントにアレクシスさんそっくりだな。この前なんて王城で間違って気楽に挨拶しちゃったよ。タハハ」


「コンラッドは王子なんだから気楽に挨拶してもいいんじゃないの?」


「学園を卒業したら僕は兄上の側近になるんだぞ。つまり、アレクシスさんは上司なのっ」


「なるほどね」


「この前、研修ってことで侯爵領地に行って来たんだけどさぁ」


「うん」


「研修先で焼き芋を振る舞われたんだよ。僕はその場で食べたんだけど、アレクシスさんは食べないのな。なんでだと思う?」


「んー、わかんない」


「ヒント。帰りの馬車は僕が一人で乗りました」


「……。出るものは拒めません」


「わかってくれてありがとう。苦しんだのは僕一人さ……」


「そんなに臭かったんだ」


「うん」


「おつかれ」



〰️ 〰️ 〰️


 教室での休み時間。僕は昨日休んだ分のノートを懸命に書いている。

 そんな僕の隣に座ってジィーと見つめる視線が痛い。


「……」


「ん、もう! いったい何かな、ベラ。僕の顔がそんなに見たいのかな?」 


「セオドア様から聞いてませんか?」


「え? 僕? うーん、特には何も」


「また、来ます」


 ベラはズンズンと自分の教室へ帰って行った。


 ベラは休み時間たびに来ては、僕の隣に座っている。クラリッサとはよく話をするけど、僕が話かけると黙ってしまうのだ。


 それより、問題なのは、あいつセオドアだ。ちらりちらりとこっちの様子を伺うくせに近寄ってもこない。


 昼休みとうとう僕が切れた!


「セーオードーア!」


 ベラが教室に来る前に、セオドアの席まで行って腕をとってそのまま一緒に歩く。校舎裏まで来て手を離す。


「あのさぁ! いったい!……」


「やっぱり、そういうご関係なのですわねっ!」


 ベラが仁王立ちで睨む。


「だからさぁ、ベラ。誤解だってばぁ」


「何が誤解ですかっ! わたくしはこの耳で聞きましたわ! セオドア様はバージル様に向かって『バージルが一番かわいいよっ』っておっしゃってたではありませんかっ!」


 ん? 僕は首を傾げた。それってさぁ……


「ブハッ! ハーハッハハ! セオドア。僕のことをからかうからこうなるだ。ハーハッハハ!」


「バージル。笑ってないでベラに説明してくれよぉ。ベラは俺の話を聞いてくれないんだ」


「わかった、わかったよ。あ、クララ、ちょうどよかった」


 クララが心配そうな顔をして僕達の様子を見に来た。


「この前の『女装したら』の話、ベラにしてあげてくれる?」


「ええ、わかりましたわ。ベラさん、お昼ごはんを食べながらお話しましょう」


 クララとベラが連れ添って学食に向かった。


「ヤキモチなんてベラもかわいいな」


「まあ、そうなんだけど。まさかバージルにヤキモチやかれてもなぁ」


「ハーハッハハ! 確かにな。ハーハッハハ!」


 真相はこうだ。

 先日の年末パーティーは、女の子たちと踊ることはそれはもう大変であった。僕とコンラッドとウォルは、学食で、女の子たちに聞こえないようにちょっとだけ愚痴を言っていた。


 セオドアが僕たちをからかったのだ。


「お前たち、女装したら? 女の子たちも近寄らないよ。うーん、バージルが一番かわいいよっ。ハーハッハハ」


 僕はクララにこの話してクララも笑っていたんだけど、他の誰かも聞いていたのだろう。ベラに彎曲して伝わったらしい。


 学食に入り、昼食をしていた僕らの元にクララに連れられたベラが来た。ベラは俯いてしまっている。僕はセオドアを肘でつついた。セオドアは立ち上がりベラの手を取り学食を出ていった。


「ベラさんって、本当にセオドアが好きですわよねぇ。ふふふ、可愛らしい嫉妬でしたわ」


 僕たちは昼食を食べ損ねたセオドアのためにサンドイッチを買って教室へ戻った。

 帰ってきたセオドアは笑顔満点であった。


 よかったね。


本当に 〜 fin 〜


 ここまでお付き合いいただきましてありがとうございました。

 お星様をお一つでもいただけますと幸いです。


 続編となります『隣国王女編』も是非お付き合いいただけますと嬉しいです。


 また関連短編としまして『短編 第一王子の我慢のワケ』『短編 第二王子の涙のワケ』もよろしくお願いします。

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【完結】公爵子息の僕の悪夢は現になるらしいが全力で拒否して大好きな婚約者を守りたい 宇水涼麻 @usuiryoma

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