第22話・坂崎(前編)
いい加減しつこいヤツ。 現実逃避しないで昨日のことは夢だったと早く認めればいいのに。
「いいですか、ちょっと来てください!」
「―――なっ!? よくないわよ、今取り込み中」
いきなり私の手首を掴んで強引に席から立たせる。 その大胆な行動に教室の中がざわめいている、そのまま教室の外に連れ出された。
「――ちょっと待ちなさいよ! アンタいい加減になさいよ」
葵が追いついてきて坂崎とは反対の手を掴んだ。 だが坂崎も負けじと引っ張り返す。
痛てててててて、葵も葵だが坂崎のやつ本気で引っ張っている。
女みたいな外見とは違い意外に力が強い。 私達二人分の体重がじりじりと引っ張られていく、っていうかマジで痛いんですけど。
「ちょっと二人とも離してよ、痛いってば!」
「高橋さん、三奈坂さんが痛がってるでしょ、離してくださいよ!」
――っていうか、あんたが離すべきだと思うんですよね。
「ちょっ、なにいってんのよあなたが離しなさいよ! 七瀬をどこへ連れていくつもり!」
葵も葵でなぜか完全にぶちキレている。 こんな葵は久しぶりに見た。
「僕は少し大事な話があるんですよ。 高橋さんは引っ込んでくれませんか!」
「大事な話って何!? なんで私があなたに気を遣わなきゃいけないわけ!
もしかして告る気なの?」
「ちっ、違いますよ!? 別にそんなんじゃ……」
告白するのかと聞かれていきなり顔を赤くする坂崎。 動揺したのか手首を握る力が緩んだので振り払う。
手首が赤くなってるじゃないか、もう 何なのコイツ。
「じゃあ、何よ! 人気のないところに連れ込んでいかがわしい行為でもしようっての!?」
いや、流石にその発想はどうかと思う。 坂崎が何の用があるのかだいたい想像が付くので、私の方は冷静だった。
さっきから好き放題されているのはその辺のことがあるわけだ。
「ち、違いますよ、僕はただ三奈坂さんに聞きたいことがあって……」
「へえ、それって私が一緒だとできない話なんだ。 告白じゃなかったらなんの話なのよ。 言ってみなさい、この変質者!」
「ううっ、そんなの言えるわけないじゃないか、だいたいこんな話人前でしたら……」
「へえぇ、人に言えないようなこと話す気なわけ、この変態!」
いや、私のために必死になってくれてるのは分かるんだけど……ちょっと言いすぎだじゃない? 親友を大事にしてくれるのはホントに嬉しいんだけどさ。
葵ってこんなキャラだったっけ? 普段の軽いノリを見慣れているため声も出ない。
坂崎の方はぶつぶつ何事かつぶやき始めたし、こいつはこいつで追い詰められると自己逃避する傾向があるのだろうか? 昨日もこんな感じのときあったし。
「まあまあ、葵も落ち着いて、ヒートアップしすぎだよ。 どう、どう、どう」
「なによ七瀬、そいつの肩もつの!? 裏切るつもり」
「いや、別にそういうつもりじゃ……」
怒りの矛先がこちらに向き始めた。 今日の葵はなんかちょっと怖い……ガクガクブルブル。
「そうじゃなくって、ちょっと落ち着こうよ。 今の葵はちょっと怖いよ。 私は別に大丈夫だから、は少し落ち着いて」
私になだめられた事でで葵が悔しそうに唇をかむ。 何をそんなに向きになってるんだか。
「七瀬は私にも話せないような話を坂崎とするの? せめて私もついて行かせてよ」
「いや、別にそういうわけじゃないんだけど……
ほっ、ほら、私も坂崎が何を話すのか知らないわけだしね。 でも、たぶん一人でも大丈夫だと思うよ、こいつホモらしいし」
本当は聞かれると大いに困る内容なわけだが。 昨日の件を坂崎がどこまで覚えているのか知らないが。
「あは、じゃあいいわ、私教室で待ってるから…… 後で話聞かせてね」
さっきまでの剣幕はどこへやら、葵が沈んだ表情で教室の方に戻っていく。
なんかすごい気まずい。 次会ったときなんて言おう、鬱だ。
教室に戻っていった葵を見届けた後、坂崎の後に続いて別の校舎へと移動する。
美術室などが専門教室が集中する第二校舎は、この時間はほとんど人気がない。
内緒話にはうってつけの場所だ。 これから坂崎が切り出すであろう内容はあまり人に聞かれたくはないのでちょうどいいと思う。
「で、話って何よ?」
「その前に生徒手帳を確認させてください。 あなた本当に三奈坂七瀬さんなんですか?」
やれやれ、なんて疑り深いやつだ。 ポケットから生徒手帳を放ってやる。
それをまじまじと確認した後、坂崎は思案顔でなにがしかぶつぶつとつぶやき――
「大事な話って言うのは、昨晩の話です。 あの時の事で三奈坂さんに頼みがあって」
やはり、そう来たか―――もちろん『はいそうですか』と答える気などさらさらない。
「昨夜、昨夜なら家でパソコンで遊んでたはずだけど、メールでも掲示板でもゲームでもあんたとしゃべった覚えはないわよ。 あんた夢でも見たんじゃないの?」
「とぼけないでください! 証拠だってあるんですよ」
そう言い放った坂崎は、ケータイの開いて私に見せる。
「――なっ!?」
そこに撮影されている画像を見て私は絶句する。
そこに映ったのは緑髪ツインテールコスプレ娘――間違いなくヴァルキリー姿の私だ。
何で仮想都市での写真をこいつが持ってるんだ!?
『君は知らないかも知れないが、仮想都市と現実世界のコンピュータの端末情報はリンクしているのだ。
つまり昨晩君が写真におさめられたのなら、その情報がやつの携帯に残っていても何ら不思議はない』
なぜそれを早く言わない。 それならその場で消去したというのに。
『でも、それだと仮想都市でコンピュータをいじっていると、眠っている間にコンピュータをいじったことになるでしょ。 夢での出来事が現実に反映されちゃうんだからおかしいと思うわよね。 そういった人が出てくるんじゃないの?』
『それが巧妙なところでな。 仮想と現実の区別がつかなくなるこそ開発者の狙いだ。
仮想と現実の境界線を曖昧にし、認識を覆してしまうことで人々は仮想を現実だと思い込み、次第に仮想は現実を浸食していくというわけだ。 もちろんカラクリはこれだけではないがな』
正直わけの分からない仕組みだ。
妄想甚だしいというか、どう考えても無理があるんじゃないってレベル。
『可能不可能は別にして、連中はそれが可能だと信じているのさ』
それならば眠ってる間も、PCに対して行った仕事はデータとして残るわけで、うまく使えば作業効率に倍になるんじゃないの?
とか考えていたら坂崎がしてやったりという表情で、こちらを見つめていることに気づいた。
しっ、しまった! 持ち出してきた画像に、あからさまな反応してしまった。
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