第2話・シューティングスターオンライン
私は先にゲーマーとして腕利きであるとは述べたものの、まだプロゲーマーというほどの地位も名声もありはしない。
だけど、今日一部のゲーマーから注目されているイベントが行われる。
シューティング・スター・オンラインというゲームがある。通称SSO
瀬川インテリジェントシステムズの名作TPSであり、軽い名前から想像できないハードなガンシューティングゲームだ。
ガンシューティングとしては、異色である多彩なアバター作成が可能なTPSである。
シューティングゲームとしても一流で、プロゲーマーもプレイしている。
ハイスピードアクション戦闘が可能で、近接武器にも多彩なバリエーションがあり、専門のプロプレイヤーもいるほどだ。
なんと言っても、最大の特徴はキャラクタークリエイトにあり、腕さえあればかなり多彩なアバターを制作することが可能なのだ。
ガンシューティングとしては異色である多彩なアバター作成が可能で、萌え少
女みたいなのも作り放題である。シューティングゲームとしても一流で、プロ
ゲーマーもプレイしている。
外伝ゲームも販売されており、MMOや格闘ゲーム等、種類は様々である。
普段から慣れ親しんでいる、私は、出場登録を済ませている。
どこまで行けるかは運が絡むところも大きいだろうけど、そう大きな大会で
はないので、自称プロゲーマーの私でも、かなり上位まで上り詰める実力はあると
思っている。
そうして大会は開始された。
正面に隙だらけの敵を感知する。
示し合わせたような動きで、二人で次々にソロプレイヤーを仕留めていく。
協力して戦うのは戦略の一つだけけど、基本このイベントはソロ戦である。
もちろん、フレンドとマッチングすることは基本的にない、利害関係による、即興でのコンビネーションだろう。
生半可なコンビネーションとはしても、2対1だ。 やりにくい状況であることには変わりない。
敵がこちらに気づいていないのならば、先手から――
懐から拳銃を二丁とりだす。 背中に担いだ、アサルトライフルを地面に置く。
速攻で片をつけてやる。
建物から飛び出すと同時に、発砲――敵の頭を正確な弾丸が捕らえた。
たけど、死なない。 サブウェポンに相当する、ハンドガンでは、たとえヘッドショットといえど、大きなダメージを与えることができない。
重火器のもしくは、近接武装での急所へのダメージでなければ一撃でとはいかない。
このゲームのライフポイントはTPSとしてはかなり多い方だといえるだろう。
けれど、何も考えずに、二丁拳銃を構えているわけではない。
取り回しの良さと重量ペナルティの軽さは、つまり高機動バトルを可能とする。
飛び出したまま、敵の出鼻をくじき、先制攻撃を持続するのだ。
瞬時に出くわした相手のスピード――こちらを捉えきれない相手の驚いた顔が瞳に焼き付く。 その勢いを殺さずに、再び銃口を向けた。
撃ち出す弾丸は計5回の十発だ、頭、左腕、下半身、右腕、正確無比なショットを決める。
サザンクロス(十時の銀弾)――正確に5発決めさえすれば、確実に相手の息の根を止める、ハンドガンの必殺技である。 それを同時に二回決めた。 私の腕も捨てたもんじゃないわね。
打ち抜かれた二人はあっという間に消失した。
高等テクニックで相手を仕留めたことで、会場が沸き立っているのがわかる。
だが、油断はしない。 この調子でいきたいものだ。 私は熱くなり易いのだ。
調子に乗って冷静さを欠くわけにはいかない。
私のプレイヤーネームはナナであり、アバターは薄緑を基調としたツインテ
ールに、ゴシックロリータファッション。
かわいげのない普段の私は反動で、特別かわいらしいアバターを作り上げたのだった。 アサルトライルをメインウェポン、サブに二丁拳銃とサバイバルナイフだ。
割とオーソドックスな武装を選択している。SSOの普段のゲームルールはチーム戦がメインである。
今回は現在流行のバトルロイヤル戦であり、自分以外に味方はいない。
この街にいるすべてのプレイヤーは敵であり、まさに死闘といえた。
普段からゲーム慣れしている私は、すでに8人目のプレイヤーを倒したとこ
ろだった。
死亡プレイヤーのログから逆算して、残っているプレイヤーは名前のあるゲーマーばかりである。 ここでライバル達を出し抜いて、優勝すれば、プロゲーマーの夢に一歩近づくというものである。
しばしの休憩のあとに、新たな敵を感知。 索敵が早いなら先手必勝が基本だ。
アサルトライフルを乱射しながら突進し、そのまま投げ捨てる――
同時に反動を利用してクルンと360度回転、勢いを殺さずに、サバイバルナイフで斬りかかる。 円を描く切っ先が、さながら月光のように、円形に閃いた。
相手は銃弾を浴びてライフゲージを半分以上損失しており、ヘッドショットによるダメージを受けたことで追加効果の視覚妨害を受けており、切り返すナイフの剣閃いを躱しきれずに消滅する。
と同時に漁夫の利を狙って隠れていた第三の刺客が襲いかかる。
ステルススキルを利用していたのだろう。 直前まで気配に気づけなかった。
だけど、甘いわ 相手の武装は隠密特化、決め手にかける。
背後から、突っ込んできた相手をバク宙して、やり過ごす。
柔軟な体を利用したサマーソルトだ、背後をとる――
同時に背後からの一撃を加えて相手は倒れた。
瞬時に、二人のプレイヤーを倒したことで再び歓声が上がった。
この時点で残った相手は3名に絞られており、高速で移動しながら弾切れした銃を投げ捨て物陰に入る。
先程倒した相手がドロップした、サブマシンガンに持ち替える。
建物の影に隠れながら、リロード(弾丸装填)をしつつ周りを伺う。
瞬間、轟音が障害物を貫き、そのまま側頭部を衝撃が襲う。
掠めただけだというのにあまりの衝撃、吹き飛ばされながら、とっさに後転しバックステップ。 そのまま全速力で、ビルの影に隠れた。
ステージは荒野に点在する瓦礫街であり、隠れる場所は多い。 だが、今の
衝撃は対戦車砲並の威力があった。 加えて、狙撃だとすると答えは一つ。
アンチマテリアルライフル――大口径の狙撃銃であり、その衝撃は戦車の装甲をも貫くという。
通常の銃とはものが違う。
瓦礫とはいえビルの側面に張り付いている、とはいえ安心はできない。
先程かすめた弾丸の影響でこちらは片耳に聴覚障害が発生しており、一時的に三半規管に障害を負っている。 狙撃された方向は衝撃から確認狙撃位置を確認するのだが、デバフを受けており、方向感覚をうしなっている。
どちらから狙撃されたのか分からない状況だった。
「これはまずいわね」
誰に聞かせる訳でもなく、一人ため息をつく。
残ったプレイヤーはすでに2人をきり。
狙撃主ともなれば、相手は現役プロゲーマーのレイだろう。
ステルス系スキルに長けたプレイヤーで、索敵スキルも高く、
その一撃はほぼ初撃にて、相手を粉砕する、高レベルな狙撃手である。
故にゴーグルをつけた素顔は見た者がおらず、性別不明アバターで知られている。
戦うならば、 こちらも、先手をとるしかないのだが、不幸中の幸いというべきか、レイは一撃目をはずしたのだ。 ならばこちらにも勝機がある。
この状況で追撃が来ないことは、相手が絶対的に有利であることの自信の表れだろうか?
高威力狙撃銃ともなれば、長いリロード時間が発生するために、
次で必勝を決める気なのだろう。
こちらのライフゲージは半分を切っており、このまま交戦すると次の一撃はかすっただけでも致命傷になる。 荒い息を整えつつ、応急処置で体力回復を図る。
一見すでに詰んでいる状況だが、焦っては足下をすくわれる。
落ち着け私――冷静に状況分析を開始する。
応急処置で体力回復したことで、失われた方向感覚が回復している。
先程の弾痕と威力から、敵の位置を予測する――驚いた事に、敵はかなり近
くに居る。
こちらをなめているのだろうか? 狙撃銃で接近を許した時点で、ほぼ確定といっていい、こちらの敗北に、亀裂がうまれてくる。 これはチャンスね――
――勝負は次の一撃で決まる。
おそらくこのビルから出た瞬間に第二射をうけて、私のライフゲージは吹っ飛ぶ。
相手の狙撃が正確である以上、これはほぼ確実といっていいだろう。
勝機は相手がかなり近くに居るという点であるが、バトルロイヤルルールであ
る以上、ある程度の接近はやむなしという状況だったのだろうか?
だが、不利なことに変わりはない。
飛び出すタイミングを計る。
胴体や頭にあの銃弾を受ければ、まず間違いなく死亡する。
ならどうするか!? ビルごと撃ち抜かれないことから、相手はこちらの正
確な位置を把握できていない?
一か八かの賭け――ビルを上に向かって疾走する。
隠すことすらない足音から、すぐに位置バレするのは予測済み、相手は私が飛び出す瞬間を狙うだろう。
なら、それに併せて、予測以上の動きをすればいい。
私のアバターは、敏速、柔軟度ともにトップクラスに近い。
スピードでかき回すのだ。
垂直にビルから飛び出す瞬間、閃光手榴弾を投擲し更に180度方向転換、ビルの横側から瞬時に飛び出す。
瞬間閃光手榴弾が炸裂した。 相手があのまま、ビルの屋上側を狙っていれば、スコープ越しに、閃光の光をもろに受けたはずである。
うまくいけば視覚をうばえたはず――
そのまま方向を変えて、ジグザグに移動する。
瞬間、足に弾丸が着弾衝撃、ゲームなので痛みは感じないがいやな、独特の被弾感覚が発生して、いやな状況を伝えてくる。 足が吹き飛んだ。 だけど、止まらない――
足が吹き飛ばされたことで、走るのが困難になるが、相手はすでに射程内に捉えている。
サブマシンガンを乱射しながら、一気に距離をつめる。
すでに勢いに乗った私の身体は止まることなく、相手へと突進する。
痛みを感じる前提であるなら、この時点で私は行動不能であり、敗北は確定
するだろう。 だけど、これはゲームの中の戦いである。
そのまま相手の追撃を許さず斬りかかる――だが、相手も歴戦の猛者である。
回避された――瞬時にサブマシンガンによる第二射を――
しかし、右手は根元から捕まれており、すんでの所で相手へと照準が定まらない。
だが、私の左手は相手の狙撃銃を掴んでいる追撃はない。
レイは近接戦闘はほとんどしないプレイヤーだと聞いている。
このまま、接近戦に持ち込めば――勝てる!?
蹴りを繰り出そうとしたところで、足がないことを失念していた。
至近距離に、ヘッドゴーグルに私の顔が反射する。
最後の手段は――このゲームではまず使わない。 体術――頭突きだった。
相手のゴーグルに強い衝撃を与えて亀裂が走る。 その瞬間レイは敗北を宣
言した。 実を言うとライフゲージ1割を切っており、堅いヘッドゴーグルに
全力でヘッドバットをした反動ダメージで、私のライフはすでになかった。
――惜しい、あと一歩届かず、私の敗北は確定した。
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