ヴァルハラ・シンドローム
織原 直
第1章・ヴァルキリー覚醒編
第1話 プロローグ
赤い、見渡す限りが赤い草原、熱い、炎の赤さだ。
なぜこうなってしまったのか、運の巡り合わせが悪かった?
殺意が目の前から通り過ぎていく、その光景を前に絶望に包まれる。
迫り来る業火は膨れ上がり、無慈悲に数秒後の私を焼き尽くすだろう。
死の一線を前にしてみる走馬灯、時が止まったように驚くほどの静けさが降りかかる。
周りの音が聞こえる。
ガシャガシャと鎧のこすれ合う音は、あるいは美しい音色だったのかもしれない。
だけど、 死の気配を連想させるそれは、耳障りな金属音――死の気配に等しい。
それは死神だった。
目の前には長くランスをたたえた死神が迫る。
どうやら、女性らしい。 掲げられる 紅いランスは私を標的としており――
――私は敗北を痛感した――
私 、三み奈な坂さか七なな瀬せはゲーマーだ。 正確には女子高生という職業なんだけど。
自称凄腕のプロゲーマー あくまでも自称なんだけど……
ふと机の隅にある時計へと視線を飛ばす。 その表面に反射して写るのは私の顔、私の嫌いな顔だ。
何の変哲もない平凡な顔、子供の頃は美少女だと疑わなかった。
しかし、現実は厳しい。 それが苦痛に感じたのは一体何歳の頃からだったろう?
まず地味だ。 和風の人形のような、という表現がしっくりくる。 キリッと切れ長な瞳には人なつっこさがなく、無機質ささえ感じさせる。
今時の男性が憧れるものでは決してない。 先ず、可愛げが感じられないのだ。
気付けば私はアニメなどに代表される萌え少女のようなかわいらしい少女に自らを投影し、憧れるようになっていた。 それに比べて己の容姿はどうか?
長い黒髪はロングストレートで、艶やかではあるものの、平凡な容姿がすべてを台無しにする。
自信がなくなった私は長い前髪で、自身の顔を隠すようになった。
艶やかな黒髪はパッと見で美少女の印象を与えるためか、ナンパなどされることはよくある。
が、顔をのぞき込まれることに抵抗を感じる私は、すべてを突っぱねてきた。 夢を壊すのはよくないと思うのだ。
誰だって、美少女だと思っていたものが、微妙だったら落胆する。
期待と羨望、失望と落胆―― 一転して感じる反動を伴った失望なんて与えない方がいいのだろう
まじまじと鏡に見入っていた私は、別に 見とれていたわけではない。
ただもう少し可愛らしくなれないものだろうか?
心残るのは自身の容姿に残る不満の色。 何度目かのため息をつく。 周囲を見れば、散乱するゲーム機や、自作パソコン、その一方でフリフリの服が掛けてあったりするけど、
これは一度も着たことがない。
分不相応――それが私が好きでありながらも、この一張羅を着ることができない理由だ。
私は、可愛らしいものが好きなのだ。 同時に、オタクが好みそうなものも好きだけど、まあ、その事はとりあえず、後にする。
見れば快晴、真っ白キャンパスのごとく、これから起こる、一大プロジェクトの成功を連想させてくれる。 よし、今日は絶好調だ。
そこで改めて時計に目をとめる。 日曜日の午後12時 太陽が最も高く登るこの時間、何かの運命を予感させる。
そう待ちに待った時間が訪れた。
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