第38話・防戦
手数での圧倒、もはやあいつに勝つにはそれしかない!
イグニスが槍を構える。 灼熱の炎を帯び朱く染まるランスの一撃を横飛びで回避、懐に潜り込み光線剣を突き立てる。 だが、あれだけ重そうな槍を空ぶったにもかかわらず、イグニスの転身は想像以上に早い。 なぎ払われた槍の一撃が私の胴体を捉え、吹き飛ばす。
再び屋根に叩きつけられる。 殴られた腹の激痛にのたうち回る。
「ッゥ、アァ―――」
重装備から繰り出される圧倒的な衝撃を前に、漏れるのは悲鳴ですらない。
酸欠のように喘ぐ、口からひねり出されるのは痛みによるうめき声のみ。
イグニスの武器は刺突に特化しており、鋭くとがった先端を除けばランスに刃はない。
故になぎ払われた場合体を走る痛みは、刃物による裂傷ではなく、鈍器による殴打だ。
それに加えて槍ランス自体が高熱を帯びている。
例えるなら、焼きごてで殴られたかのような火傷と打撲。 先の一撃だけではなく蓄積したダメージにより動きが鈍くなっている。 だが、だとしても、ここで負けるわけにはいかない。
痛みに痺れる体を杖代わりにした光線剣とともに起こす。
今の攻撃で分かったがイグニスの属性攻撃は刺突以外ではその本領を発揮しない。
熱による熱さは無視できないが決定打にはなり得ない。
ランスという武器は刺突こそが本来の使用法であり、爆炎を伴う必殺の一撃はなぎ払いで使用できないという制限があるらしい?
―――とするならば、刺突を避けつつければ、負けることはない。
幸いにも私の装備はほとんど重量がない。 いかに超人的なヴァリキリーとはいえわずかな重さが誤差を生む。 攻撃を限定すれが避けられない速さじゃない。
常に側面に回り込み攻撃すれば、致命傷を受けることはないはず。 もちろん徐々に追い詰められている感は否めないが。 一撃で倒されるよりはマシだ。
それからの戦いは悲惨だった。 イグニスの刺突を回避し側面に回り込み、そのたびに切り傷を刻むがどれも決定打にならない。
属性攻撃を持たない私ではイグニスに決定打を与えることができないのだ。
だが、一撃を入れれば、それが隙を生み当然のように反撃を受ける。
刺突による致命傷だけは何とか回避し続けているものの、なぎ払いによる反撃を受けるたびダメージが蓄積し、先に動きが止まったのは私の方だった。
火傷と打撲ですでに意識は飛びかけているが、何とか立ち上がる。
痛みで意識が飛びかけても、身体が動かないわけじゃない。
すでに体に刻まれた傷は数えきれずズタボロの有様で、まさに満身創痍と言えるだろう。
もう何度目なるか分からない反撃。 なぎ払いを受けて地面に叩きつけられる。
悲鳴を上げのたうち回るような気力はすでに残っていない。
だが、それでも立ち上がる。 負けるわけにはいかない。
こいつを倒して葵に真偽を確かめるまでは絶対に倒れない。
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