第30話・リカ
いきなりリカになだめられ困惑する葵、リカは葵の態度を無視して坂崎に向き直る。
いったい何を考えているのか不明だが、きっとろくな事を考えてない。
「このバンドのリーダーは私だ。 話は聞かせてもらった。 おもしろいな貴様は何ができる?」
「ギターが弾けます!」
びっくり、ギター弾けたんだこいつ。
「よし、一つ貴様に試練を与えてやろう、それに合格できたならば貴様を我がバンド、サイサリスの一員として認めてやろう」
どんな無理難題をだす気なんだろう? リカは快楽主義者的なことがあるので、暇つぶしにこんなことを言い出したに違いない。
どうせ認める気などないのに相手に気を持たせ、無理なことを要求してからかうのってわけ。
すでに泣くような(実際泣いた物もいる)被害にあった人たちもいるのよね。
「貴様が男である以上、寵姫とは認めることはできん。 だが、我が召使い。 いわゆるメイドになるならばその申し出を受けようぞ!」
「メンバーに加えてくれるならば何でもします」
「だが、貴様は男だ召使いとしてもステージにあげることはできん。 しかし、一つだけ方法がある。 慈悲深い私に感謝するがいい。 フェリシア例のものを用意しろ」
いきなり話を振られたフェリシアさんは、だが、慌てることはなく素早く一着のメイド服とウィッグを取り出した。 どこにそんなものをしまっていたんだ?
「私が貴様に与える試練は単純だ。 サイサリスは男子禁制、しかし貴様、女装をすれば女に見えなくもないと見える。 どうだおもしろいとはお思わんか? ククク」
「えっ!? まさか、ぼっ、僕に女装をしろと言うつもりじゃ――」
さっきまで威勢の良かった坂崎の顔が真っ青になっていく。
まあ、こんな感じになるんじゃないかと思っていた。
リカが早々におい返さないとすれば理由は一つ退屈しのぎになるからだ。
決して坂崎を歓迎しているわけではない。
「フッ、まさにその通りよ、汝が真なる乙女となり我が召使いとして認められた暁には、我がロンド・オブ・サイサリスの一員として認めてやらぬではないぞ。
ククク、どうしたまさか嫌とは言うまいな、我が栄光なる召使いに選定されることを鑑みれば、これ以上の名誉はあるまいに。
確かに汝は言ったはずだ何でもするとな、まさか今更嫌とはいうまいな!」
絶句する坂崎、なんか私まで楽しくなってきたぜ、ククク。
「今こそ汝の力量をこの世に示す刻。 さあ、今すぐメイド服に着替えるがいい。
その刻こそ我達との契約は完了する。 示せ汝の力を、本性を、闇に沈めし渇望をっ!」
真っ青になって、落ち着け、落ち着くんだ。 とかつぶやいていた坂崎が突如として立ち上がる。 その目には決意と覚悟がともっている。 馬鹿なんじゃなの、こいつ。
「分かりました。 その試練受けて立ちます。 その服貸してください」
「ククク、何を言っている。 試練とは自ら着替えることではないぞ、言ったであろうすべてをさらけ出すのだ。 フェリシアその男を着替えさせてやれ」
「かしこまりました。 我が主」
失礼します。 とお辞儀をした後、メイド服を手にフェリシアさんが坂崎にジリジリとにじり寄る。 こわっ。
「ひいっ! やめてええええええぇ――!」
先ほどまでの決意はどこへやら、坂崎が乙女全開の悲鳴を上げて、にじり寄るフェリシアさんから後ずさる。 こうでなくてはおもしろくないよね。
「フフフ、何も怖がることはありませんよ。 あなたに眠る新たなる可能性そして渇望。
つまりは忠実なる下僕メイドとして生きることを認めればいいのです。
乱暴にしたくはありません。 おとなしくしてください。
これもあなたの名誉なる第二の人生の為なのです。 さあ、自ら受け入れなさい己の第二の生を」
フェリシアさんは訳の分からない芝居がかった口調で、坂崎を壁際に追い詰める。
坂崎が壁に追い詰められ、振り返ったその隙を見て、フェリシアさんの猛禽のような鋭い目がキラリと光った。
「隙あり、とらせていただきますっ! セイ!」
獣のような瞬発力を発揮し飛びかかる。 横に逃げようとした坂崎を完全に捕らえ、そのまま馬乗りになり床押さえつける。 そのまま坂崎の服を強引にひんむく。
「いやだあああああ! 僕は男だ! 男なんだ!!! ひいいいい! やめて、犯されるうううううう――!」
坂崎が断末魔の悲鳴を上げる。
さっきは自分で着替えると言った癖に、着替えさせられるのはそれほど嫌なんだろうか?
半泣きになった坂崎を手慣れた手つきで着替えさせていくフェリシアさん。 この人は普段何をやっているんだろう。 人を着替えさせるのって結構難しいんじゃないの?
それから数分が過ぎ、控え室にはすすり泣く美少女?
が床でぺたんこ座りをしている。
結局、下着まで女物に取り替えられ、ウィッグと化粧までされた上に全身脱毛(ものすごい速さで行われたので詳細不明)までされてしまった坂崎。
その容貌はウェーブのかかった金髪と地味めのメイド衣装で、変身前のシンデレラのように見えなくもない。 なんか泣いてるし。
もともと、華奢で中性的ソプラノな声質ボイスの坂崎はご丁寧に胸にパッドまで装備中で、もはや男らしさは微塵も残っていない。
元の彼を知るものでも彼女が坂崎だとは気づかないに違いない。
っていうか私よりかわいくないか? 男相手に張り合う気もないけどさ。
坂崎の暴挙に半ギレ状態だった葵までその変わりようにあっけにとられている。
「ククク、いい召使いぶりだぞ坂崎とやら、汝も背後の姿見を顧み己の第二の姿を受け入れるがいい。
そうよな、もう坂崎などという仮の名は必要あるまい。 貴様の真名は神崎・Pサイサリス・令香だ。
これからは我を魔王として崇め、魔界サイサリスを訪れる刻は必ず召使いとして我に尽くせ。
着替えのに手間取るようであれば、何時もどこでもフェリシアが手を貸そうではないか、ククク」
新しいおもちゃ? を手に入れてご満悦のリカ、まさかここまでやるとは……鬼畜過ぎるな魔王ロンド・オブ・リンカーネイト。
フェリシアさんもあれだけのことをしたというのに、何事もなかったかのように涼しい顔をしている。 この人はこの人ですごい神経をしている。
私達はその一部始終を観察していたわけで、あまり手際の良さに感嘆すら覚えるわけで。 男子の裸って初めてめて見た。
「ときに令香よ、貴様に特技はあるか?」
素? の口調に戻ったリカが声をかける。 まだ何かやらせるつもりなのだろうか?
「パソコンが得意です」
「ではホームページというものを作れぬか? 私達サイサリスのホームページやらブログやらツイッターを操れる者がちょうど欲しかったところでな」
「もちろんできますけど、どんなことを書くんですか?」
「では我々全員のプロフィール、掲示板などを創造せよ運営を貴様に任せる。
初任務だ気合いを入れて作るがいい」
こうして私達のバンド――サイサリスに新たなるメイド、神崎・P・令香が加わることになった。 彼女が逃げ出さなければの話だけどね。
私個人の意見としては、私はボーカルの他にもギターも弾いているのだけど、
下手くそなので坂崎がギターを弾いてくれると負担が減って助かるのよね。
それにしてもHPにプロフィールって、あのイカレた設定を公式設定として公表してしまうつもりですか? それは私としてもかなり恥ずかしいのでやめて欲しいのよね。
そうして魔王の宴は一刻の盛り上がりを見せたのだった。
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