第29話・閑話休題

時刻は夕方を回り、私はライブ会場へ到着する。 実は私はバンドをやっていたりする。


 宵闇のカーテンに包まれるライブ会場――そこに一人の魔王が待っていた……




「フッ、ライブ当日に遅刻してくるとは、刻を厳守できぬようではまだまだおまえも甘いようだ。 そんなことでは我が寵姫としての自覚を疑わざるおえんな。




 立場をわきまえぬようであれば調教もやむなし、弁解を報告するがいい我が第一寵姫――三奈坂七瀬」




「なによ、ちょっと時間に遅れただけじゃない。 あんただってたまに遅刻するじゃないのよ!」




「我を呼ぶときはリカ様と呼がいい我が寵姫よ、不満があるのなら聞かぬではないが、立場をわきまえねば後悔するのは汝よ」




 このイタイタしい中二病全開で、ゲームのラスボスみたいな口調でしゃべるのが我らがバンド――サイサリスのリーダーであるリカだ。 本人が言うには魔王様らしい。




 日本人離れした白い肌、髪型は漆黒ロングでいつでも黒マントに黒ゴスドレス紅い瞳、シルバーアクセサリーもジャラジャラの脅威の変人超人、リカというのも本名ではない。




 絶世の美少女で、リカというのは彼女の真名・ロンド・オブ・リンカーネイトと言うらしい略してリカなんだと思う。 たぶん。




 バンド名は厳密にはロンド・オブ・サイサリスと言うらしいが、誰もそう呼ばない。




 というかサイサリスって何さ。 核バーズカでも撃つ気なんだろうか?




 こんな変人とバンドを組んでいる理由は、結局メンバーが見つからないので、中学時代の親友である彼女を呼び出したわけ。




 昔からこんな変人だったわけじゃないので予想外の事態だった。 中学時代ごく一般的な人間で地味でめがねな文学少女だったのだが、再開したらこんなになっていたのでビビった。 最近こういうのはやってるんだろうか?




 とにかく再開した彼女に協力を頼んだわけだが、条件として私達がリカの寵姫になるという契約を結ばされた。




 寵姫と言ってもそういう設定で振る舞えと言うだけで、特に何かしらしなければならないというわけではないと思う。 たぶん?




 最初の乗り気ではなかったリカを引き込むために、中学時代からの共通の話題であるゲームも貸してやると見事に影響を受けベースをやりたいと言い出しってわけ。 影響受けやすいのは昔と変わらないわけで……




 私達はバンドの経験などなかったので、当然リカも初心者だと思っていたのだが、これが見事にベースを弾く。


 何でそんなにうまいのか質問してみたら、彼女曰く、多くの輪廻転生を繰り返す間に転生体が持っていた特技が自然と身についたのだとか、もちろん私は信じていないが……




 必要な楽器や機材も彼女が集めてきたもので、高価かつどう見ても新品ではばかりで色々聞いたが、まともな答えが返って来るたためしがないので気にしないことにした。




「まあ三奈逆様、今頃来られたのですね。 確かに僅かばかりの遅刻でありますが、主であるリカ様を待たせるのは感心できかねます。 あなたには寵姫としての立場がおありなのですから。 その辺りはゆめゆめお忘れなきように……」




 最後のメンバーはリカの連れて来た召使い(メイド)……らしい?


 いつもメイド服のフェリシアさん(日本人?)




 曰く、魔王であるリカに神代から付き従っている。 最高クラスの悪魔の人間形態らしい。 もう何なんだか……突っ込むのも無粋ね




 リカの右腕であり、専属メイド、厨二設定に相応しく日本人離れした顔立ちで絶世の美女、妖艶で悪魔的な魅力がある。 ちなみに年齢はリカと同じぐらい……だと思う。




 リカと同じく紅い瞳に白磁の肌、リカとの差別化のためか紫がかった黒髪を後ろでツイストしている。 ちなみにメイド服はアキバ系のミニスカ仕様ではなく裾の長い本格的なやつを好む。 リカ以上に設定を重んじ、規律をこよなく愛する冥土産メイド。




 召使いというよりも保護者のごとくリカを監視しており、少しでもリカをないがしろにしようものならば、睨らまれるので注意しなければならない。 ドラム担当で実力はやはり高い。 厨二病が発症すると楽器がうまく弾けるようになるんだろうか?




 ――というわけで、サイサリスこの四人から構成されるガールズバンドあり、私もリカもアニメやゲーム以外には疎かったためにアニソン中心バンドになってしまった。




 ちなみにリーダーであるリカの要望で、フェリシアさん(メイド服)以外はデザインの違うシルバーやゴールドアクセサリーで飾ったゴスロリファッションである。




 私と葵の演奏は上達してきてはいるものの未だ微妙な感じである。 その点リカとフェリシアさんはヴィジアルも実力も確かである。


 私のヴァルキリーとしての姿(願望)が、ミクもどきなのはたぶんボーカルを認めてもらいたいということでボー〇ロイド。 戦闘装束がゴシックロリータなのはこのバンドの衣装が由来なのだと思うのだけど、どうなんだろう?




 いい加減な気持ちで始めたバンド活動なのだが、願望に大きな影響を与えるくらいなので、サイサリスは私に大きな影響を与えているのかも知れない。




 先に会場入りしていたバンドの演奏が終了し私達の順番になる。




 サイサリスは演奏こそ微妙なものの、その派手な格好とかで一部にファンが多い。


 ファンは男性ばかりかと思いきや、リーダーであるリカをお姉様と慕う女性ファンも多いようだ。




 フェリシアさんにもそれ系の願望を夢見る乙女も多い。


 リカのマイクパフォーマンスも厨二病全開だが、それがかえって受けているので不思議だ。 とりあえずまっとうなバンドではないことだけは確かだよね。




 サイサリスの演奏も特に何事もなく終了し、今は控え室で反省会という名目で各自くつろいでいる。




 葵は再会してから明らかに私を無視しており、話しかけても何かしら口実をつけて逃げる。 リカと二人でしゃべるのは遠慮したいし、フェリシアさんはリカ以上に苦手だ。




 リカ、昔はいい子だったんだけどな……どうしてこんなに残念なことに。




 昔の彼女は正確に言えば卒業式で別れるまで、今はその頃の正反対のベクトルをまき散らしているが、昔はおとなしい娘だったわけね。 それがどうしてこんな事に……




 リカは最近タバコを吸っているが、実は電子タバコでありニコチン含有量もゼロ。


 水蒸気を吹き出す完全な偽物である。 別に禁煙にいそしんでるわけではない。




 最近『いい女の条件はにはヒラヒラ服、タバコ、シルバーアクセサリーがよく似合う』などと言い出して、タバコを吸うようになったのだ。




 それまでの彼女はタバコを毛嫌いしており、吸っている男が近寄ると『有害な紫煙(毒霧)周囲にまき散らすのは止めろ!』などと言って、従わなかったものをフルッボコにしてしまうほどだったのだ。




 それは電子タバコを吹かしている今でも変わらず、相手に『おまえだってまき散らしてんじゃねえかよ!』などと逆ギレされることが多くなった。




 当然、リカは逆ギレした男に『フフッ、我が愛用する高貴なる香の紫煙を、貴様のまき散らす毒物と一緒にするとはいい度胸だ!』などと言いながら、やはり相手をフルボッコにしている。




 素直に見せかけだけの水蒸気タバコだと言えばいいのに、馬鹿としか思えない。


 まあ、それをいったら存在自体がすでに、ゲフン、ゲフン……




 それに電子タバコのカートリッジって結構いい値段がしたとような?




 中学時代家が貧乏で困っていたはずなのに、バカなんじゃないのっ! などとはもちろん本人にはいえない。




 今までの話で分かったと思うが、リカはケンカがものすごく強い。




 中学時代の体育の成績は私以下で、下から数えた方が早かったはずで、格闘技の経験もなかった。  楽器の経験もなかったはずなのに……思い込みの力ってすごいのね。




 などと考えながら、楽器の楽器の片付けをしていると。


 ノックの音が聞こえる。 たまに勇気のある追っかけが控え室を尋ねてくることがあるのだが、基本的にリカが有無を言わさず追い払ってしまう。




 そういうわけで、こういうときの対応は彼女に任せていたのだが、向こう側から先にドアが開いた。 熱狂的なファンの中にはたまにマナーを守れないものもいるのだ。


 そこに立っていたのは坂崎だった。 私は絶句しながらなぜ彼がここにいるのかを考えた。




 考えられる理由は例のSNSで、私達がライブ活動をしていることを知ったのとか?


 ライブ会場にもいたのだろうか?


 少しの間視線を彷徨わせた彼が、私の姿を見つけるとぱあっと顔を輝かせて、こちらに近づいて来る。




「ここは男子禁制なんですけど! 表に張り紙が貼ってあったはずですが」




 めざとく気づいた葵が、坂崎の進路を遮り文句を言う。




「実は折り入ってお願いがあるんです! 僕もバンドのメンバーに加えてくださいっ!」




「はあ、あんた男子でしょ! 私達はガールズバンドなの。 ここは男子禁制なのよ、分かったらさっさと出て行きなさい!」




 葵が怒鳴りつける。 まあ、この場合私でも似たようなことを言うだろう。




「まあまて葵、ここは私に任せておけ」




「えっ、でもっ!」




 いきなりリカになだめられ困惑する葵、リカは葵の態度を無視して坂崎に向き直る。


 いったい何を考えているのか不明だが、きっとろくな事を考えてない。

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