第31話・本命襲撃
家に帰って入浴を済ませる。 晩ご飯を食べ終えてから、適当に時間を潰せば、すでに夜中の十二時、さてと約束通り令香ちゃんと待ち合わせた校門前へと向かうとしようかな。
校門前の景色を思い浮かべながら、ヴァルキリアシステムを起動する。
ログインすれば、校門前にはすでに坂崎が待っていた。
今回私の戦闘装束を着ている。 イグニスと対峙するなら背に腹は代えられない。
「三奈坂さん時間通りですね。 僕なんて興奮して30分前に来ちゃいましたよ」
「デートじゃあるまいし、なんでそんなに早く来なくちゃならないわけ。
それよりも、似合ってたわよ令香ちゃん」
「そっ、その名前で呼ぶのは止めてください! 僕もミ〇ちゃんって呼びますよ」
「その名前で呼んだら撃つわよ!」
――というかもう撃っているけどね。
「あ痛たたた。 ごめんなさい、冗談ですもう言いませんから、許してください。 三奈坂さん」
「とっとと瀬川邸へ向かうわよ」
『待ちたまえ、今回の作戦には私から異議がある。 君は未だ精霊の力を利用した属性付加攻撃を会得していない。
その有様ではとうていイグニスには適わん。 今夜は坂崎相手の模擬線にとどめ、引き上げることを提案するが?』
これからって時にシルフが異議を申し立ててくる。
「何よ、坂崎邸に襲撃かけたときは何も言わなかったじゃない。 何で今更止めるのよ!」
『それは坂崎イグニス説があまりにも無茶苦茶だったからだ。 今回は状況証拠がかなりそろっている。
瀬川理恵がイグニスである可能性は極めて高い。 つまりは君が返り討ちに遭う可能性を心配して言っているのだ』
「じゃあ、向こうから襲撃されたらどうするのよ。 現にここ二日間私はイグニスに襲撃されているわ。 二度あることは三度あるのよ、今夜も向こうから来る可能性大ありだわ」
『むっ、確かにその通りだ。 だが、何もこちらから死地に飛び込むこともあるまい』
「甘いわね、戦うときは先手必勝。 常にこちらに有利な状況に持ち込むべきよ!
襲われるのを待っているなんて、それこそ愚の骨頂。 やられる前にやるぐらいの気持ちを持たないとね」
『フッ、君は好戦的だな、それが君の流儀であるというのならば、もはや私は何も言うまい』
シルフはまだ何か言いたげだったが、私の決意が固いと知ると口を閉じた。
「――で坂崎、瀬川会長の住所分かる?」
私はというと調べてくるの忘れた。 まあ、坂崎は情報収集が好きそうなので当てにしても大丈夫だろう。
例えここで住所が分かりませんでした。 なんてオチがついた場合、私には調べようもないけど。 坂崎なら何とかなるはず。
「えーっと、それについては大体調べてきました。 近くまで転移するのでじっとしていてください」
転移ムーブというのは仮想世界におけるヴァルキリーの能力の一つだ。 瞬間移動に近い現象で思い描いた場所に一瞬で移動することができる。
私が家から校門前まで一瞬で移動できたのもこの能力を使用してのこと。 目的地は実際にいったことがない場所でも、写真を見て思い浮かべるイメージが一定の基準を満たせば転移可能とのこと。
転移する瞬間は動いてはいけないことと、発動までの時間、集中力の持続などの条件が厳しく、戦闘中に転移して敵の不意を突いたり、逃げたりはできないというわけ。
とにかくよほどの隙がなければ戦闘中の使用はできない。 同じくログアウトして強敵から逃げるというのも基本的に無理だ。
転移すると私の意識はデジタル情報に変換されて、転移先に転送されるので頭の中がデジタル信号でに変換される0101って感じで。 この辺りもログアウト時と同じね。
転移先は小高い丘の公園のだ。 見覚えがある――確か私の通っていた中学校の近くにこんな公園があったような気がする。
そういえば閑静な高級住宅街が近くにあるという話を聞いたことがある。 金持ちは高いところが好きだと言うけど、ここも立地条件で言えば町内でかなり高いはずだ。
そこからまたしばらく歩く、周りは金持ちそうな家ばかりになっていく。
その中でもひときわ大きな豪邸がそびえ立っている。 何となく一目でそれが会長の自宅だと想像がついた。
相手は咄嗟に社交パーティーなんて嘘が言える金持なわけだし、表札を見れば確かにSegawaとローマ字が入った表札。 表札まで高級品に見えるから不思議よね。
「じゃあ、僕はさっきの公園から邸宅内を狙いますから、イグニスと戦うときはなるべく建物の外で戦ってください」
「分かったわ。 できるだけ外におびき出す、あんたもしくじったら承知しないわよ」
私の返事を聞いて再び転移する坂崎。 さて、ここからが本番だ。 これだけ大きな屋敷ならばお手伝いさんが何人か住み込んでいるだろう。 巻き込んでしまいそうよね。
まあ、仮想世界での出来事をあれこれ考えても仕方がないかな。 戸惑いを打ち消し跳躍し、一気に中庭の中心辺りに着地する。
瞬間、けたたましいサイレンが鳴り響く、やはり金持ちの家は違う。
警備も万全というわけだ。
下手をするとセキュリティ会社の社員まで巻き込んでしまいそうだ。
何匹かの防犯犬が群がってくる。 だが、今の私の身体能力は犬とは比べものにならない。 振り切って家の中へ突入。 無論、追いついてくる番犬などいない。
エントランスの門は意外にも普通に開いた。 鍵がかかっていないなんて誘われているのだろうか?
吹き抜けがある中央ホールまでやって来る。 屋敷の中もまるで絵に描いたような豪奢さが漂っている。
聴覚を強化して足音を観察するがやはり犬が追ってくるような気配はない。 逆に家の中はかなり騒がしい。
何人かの執事とメイドが現れ私の行く手を塞ぐ。
だけど、そんなものでは何の障害にもならない。 彼らが何かをいうより先にあっという間に全員黙らせた。 一応殺してはいない、気絶にとどめておいた。
もう一度気配を探るが、辺りは静寂に包まれている。
だが、目の前空間――階段を上った先にある扉、その前の何もない空間が波打っているのに気が付く。 同時に魔力の発露。
おそらく何者かが転移してくる予兆だ。
相手は間違いなくイグニスか、配下のナイトだろう。
先手必勝! 待ち伏せだ短機関銃を構えて敵の襲来を待つ、空間の波紋が緩やかになると同時に人影浮かび上がる。
その人影を狙って先制攻撃――フルバーストで連射をたたき込む。
飛び出した人影は即座に跳躍し弾丸を躱す。 この速さ、ヴァルキリーだ。
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