第33話・切り札
手榴弾を迎撃するために火球を作り出していたイグニスは、炎を纏っていない。 ゆえに攻撃するならば今が絶好チャンス――発射された弾丸はまっすぐにイグニスへと向かい、銃弾がヒットする。
「きゃあああ――っ! やったわね! やりましたわね、もう、もう許しませんわ、殺す! 殺しますわ!」
「ざまあみろ、馬鹿お嬢様! 追いつけるものならば、追いついてみなさいよね。 成金」
「キッ――! その減らず口、二度と聞けなくしてやりますとも、ええ、後悔するがよろしいわ。 二度と消えない屈辱をその愚かな頭に刻み込んで差し上げますとも!」
鬼の形相で追跡を再開するイグニス、すでに冷静な判断ができているとは思えない。
今ならば罠に気づく可能性は低い。 窓から飛び出して屋根の上へと飛び移る。
建物の中央付近まで跳躍を繰り返す。 屋敷の頂上ここで決着をつけてやる。
屋根には煙突が何本か生えているのでその後ろ隠れ息を殺す。
イグニスはかなり遅れているらしく、すぐには姿を現さない。 その間に視覚を坂崎へと切り替える、公園の高台からこちらを暗視スコープ越しに除いているのが分かる。
伏射姿勢で待ち構えているようだ。 よし、準備万端。 視点を元に戻しイグニスが現れるのを待つ。
程なくしてイグニスが姿を現す。 結構ダメージを与えた気がするけど、一見して傷らしい傷は見当たらない。 その圧倒的な耐久力はあの鎧によるものか、それとも速さと引き替えに彼女が持つ特性か、どちらにしても頑丈さは私よりも遙かに上だ。
イグニスは屋上で足を止め、私を捜している。 足音が聞こえない。 闇雲に動かず視線だけをさまよわせているのだろう。
できればそのまま行き過ぎたところを後ろから……といきたかったが、この辺りに隠れていることは読まれているらしい。
たぶん聴覚を強化して突き止めたのだろうが、あんな目にあったのだから後遺症とかで聞こえなくなるとか、聴覚増幅を躊躇するとかしてほしいぐらいだ。
しかし、だいたいの大まかな位置までしかつかめていないらしく、どの煙突に隠れているかまでは分からないようで、それが救いだ。
まともに戦っても結果は見えている、勝機は今をおいて他になし、このまま隠れていれば坂崎が狙撃してくれるはず。
大口径のアンチマテリアルライフルの狙撃を受ければ、いかにイグニスであろうとただではすまないはず、ダメージを受けて倒れたところを押さえつけて、弾丸をぶち込んでやる!
「臆病風に吹かれたのですの? 隠れていないで出ていらしゃい。 出てこないのなら煙突ごと消し炭に変えますわよ! よろしくて?」
そう宣言するイグニス。 火球を作り出す時に発生する炎が渦巻くの音が聞こえてくる。
どの煙突を狙うつもりなのか知らないが、運が悪いと一発目で消し炭になりかねない。
『ちょっと坂崎早くしなさいよ! こっちは結構まずい状況なんですけど』
『分かってますよ、今撃ちます信じてください。 僕は外さない』
刹那、宣言通りの轟音――が夜空に向けて響き渡る。
飛び散る鮮血とか金属のひしゃげる音。
床を塗らす鮮血、それが月の光を受けて怪しくきらめく。
イグニスを捕らえたのはまさしく必殺の一撃だった――!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます