第27話・七瀬vs坂崎
起動しているPCもさっきの学校裏掲示板を表示したままだ。
私の目の前には先ほどまでとは何の変化もない坂崎が立っている。
「ここは僕の部屋だ。 さっき意識が変なことになって、どうなってるんだ!?」
「ようこそ仮想都市ヴァーチャル・ソサイエティへ。 歓迎するわ、坂崎」
「な、三奈坂さん? いつの間に変身したんですか。 ううっ、変身シーン見損ねた」
変身シーンって何を期待してたんだこいつは……。
あれか変身ヒロイン物によくあるちょっとサービスシーン的な……やつ。
この状況でもそんなことが考える余裕があるとは、流石真性のオタクは違う。
言っておくけど、私はそこまでイカレたオタクじゃないわよ。
「ふうん、私と違って見た目は変わらないのね。 キャバリアー(騎士)っていっても普通」
「キャバリア-? なんのことですか。 それよりもう一回変身するとこ見せてくださいよ!」
「見た目が変わらないみたいだけどこれで、成功してるの?」
わざと声に出してシルフに呼びかける。 私の考えが正しいのならナイトになった坂崎にもシルフの声が聞こえるはずなので、無理に脳内会話にする必要がないはずなのね。
『ああ、それで正常だ騎士は基本的に見た目は変化しない。 それでもそこいらの人間を凌駕する戦闘能力は備えている』
「ええっ、頭の中から変な声がする!?
どうなってるんだ。 とうとう僕も心の病に……」
やはり、私の読みはあったているらしい。
問題はこれでどれくらいメリットがあるかだが――直接試した方が早そうだ。
「ものは試しだ。 かかってきなさい、坂崎! 相手になってあげるわ。 エインフェリアの戦闘力、見せてもらおうかしら!」
「ええ、僕は戦闘なんかできませんよ!」
「問答無用こちらから行くわよ! 先手必勝!」
素手で殴りかかる。 もちろん力も手加減しているがそれでも普通の人間なら骨折以上死亡未満ってくらいに。
「ひっ!」
女子みたいな悲鳴を上げながら坂崎が飛び退く。 高いソプラノボイスも手伝ってホントに女の子みたいなやつだ。 それでも反応は予想以上で私の攻撃は余裕を持って避けられた。
よしよし成果あり、今の拳でも普通の人間ならばまず避けられない速度だったはず。
「じゃあ次、アンタの番、さっさとかかってきてよね。
実力差分からないと手加減だってしにくいんだから」
「だから、僕に戦闘なんて無理ですって! 大体女の子に手を挙げるなんてできませんよ」
「弱い癖に何言ってるんだか、私はヴァルキリーよあんたなんかよりすごく強いの! あんただって私がイグニスと戦ってるの見てたんでしょう?」
「そんなこと言われても……」
ちっ、めんどくさいやつ。 女々しい、見た目もそうだけど中身も男らしくない。
「じゃあ、私に勝てたら、何でも一つだけ言うことを聞いてあげるわ。 これならどう?」
「本当に言うこと聞いてくれるんですね」
おっ、目の色が変わった。 やっぱりご褒美があると違うのね。 もし負けたら変身シーン見せてくれとかいわれるんだろうか?
「くどいわよ、確認なんか取ってないでさっさとかかってきなさいよね。 ここはすでに戦場、そして私はあんたなんかに負けるはずないんだから」
「後悔しても知りませんからね! いきますよ、でいやああああああ!」
坂崎が力任せに飛びかかってくる。 打撃ではなくつかみ技で攻撃してくるところがいかにも気が弱く、がむしゃらって感じだ。
もちろん躱す、そんな攻撃ではかすりさえしない。 まあ、思ったよりもずっと速かったんだけどね。 想像以上に速い――が、それでもスピードはこちらの方がずっと速い、つかみ技など喰らうものか。
「その程度? それで私を倒そうなんて聞いて呆れるわ」
挑発を繰り返す。 これぐらいやらないとこいつ本気にならないと思うのよね。
「くそぅ、これならどうだ!」
今度こそ打撃技、そしてさらに速度が跳ね上がる。 完全に棒立ちで挑発していたので今から回避しても間に合いそうもない。 軽い衝撃――
「――っ! やったわね」
腕で払いのけた、僅かな痛みが腕を走ったのが気にとめるようなものじゃない。
だが、まともに喰らえば、それなりのダメージを受けたはずだ。
「じゃあ、こちらからも行くわよ!」
足払いを繰り出す。 相手の実力から躱せそうで躱せない程度に手加減して繰り出す。
「すごい、ヴァルキリー相手に戦えてる どうなってるんだ!?」
流石、発言するだけ余裕がある。 私の足払いを軽く躱して、そのまま突っ込んでくる。 大分なれてきたらしいわね。
だがど、今度は余裕を持って回避、そうそう当たってはやらない。
そのまま相手の坂崎の速さにあわせて戦闘続行――確かにこの強さは人間ではあり得ない。
いつぞやの黒服など比べるべくもない。 銃弾を見て躱すことも可能だろう。
距離を取る。 攻めあぐねて坂崎の動きが止まる。
私はそこでシルフに呼びかける。
「ねえシルフ、ヴァーチャル・ソサイエティとナイトについて説明してあげて」
シルフによって説明が行われてる間、私は家の壁に向かって射撃の訓練などしていた。
暇だし今のうちにヴァルキリーとしての力に、少しでも慣れていかなければならない。
「それで大体の事情は飲み込めた?」
ここで説明を補足しておくとキャバリアーっていうのは、ナイトの初期クラスらしい?
「はい、ここが仮想空間だっていうのは分かりました」
「飲み込みが早くて助かるわ。 じゃあ次、シルフ、キャバリア-って武器召還できないの?」
『もちろん可能だ、その辺はヴァルキリーとほとんど変わらない、ただ電子精霊による属性付加攻撃の威力、つまり魔力は著しく劣るが』
「オーケー、じゃあ坂崎あんた武器を召還してみなさい。 イメージすれば現れるわ、こんな風にね」
私の手にサブマシンガンが召還される。 それを見た坂崎は一瞬目を丸くしたが、すぐに指示に従って目を閉じ精神を集中する。
坂崎の手に対物狙撃仕様のスナイパーライフルがあらわれる。
「ちょっとこの距離でその武装、ふざけてるの?」
「ええっ、ダメなんですか? ライフルで狙撃ってすごくかっこいいのに」
「フンッ! じゃあいいわ、使い物になるかどうか、試してあげようじゃないの!」
サブマシンガンを乱射しながら突進――距離が近ければスナイパーライフルなどデクの棒と大差ない。 もちろん当たればダメージを受けるが、ようは銃口の延長線にさえいなければいいだけの話。 どう見てもボルトアクション式のそれは、撃つのに時間がかかるはずだし敵じゃない。
「わわっ!」
坂崎が躱しながら必死にポイントしようとするが、この距離でスコープなどのぞき込んでいる時点で色々とダメっぽい。
一足で距離を詰める。 その間にも発砲される弾丸が私の横を通過していく――サブマシンガンに比べて弾丸の速度、威力が桁違に高い。さすが、大口径狙撃中。 だが当たらなければ意味がない。
徹甲弾の速度、私の使用するフルメタルジャケット弾と比べて弾速が半端じゃなく速い。 それだけに躱すのは困難だ。
だが、それでもヴァルキリーとしての反応速度を以てすれば、躱すことが可能だ。
おそらくキャバリア-であっても至近距離でなければ当たらない。
つまり、何が言いたいかというと、当たらなければどうと言うことはない!ってことね。
「武器は威力が大きければいいってものじゃないのよ!」
絶叫しながら駆け抜ける――そんな重火器では接近戦に対応できるはずないわ。
サバイバルナイフを抜き放ち、切りつけようとした刹那――坂崎操るスナイパーライフルの銃身に、銃剣というべきか約1メートル程の長さを持つレーザブレードが現れた。
レーザーブレードってそれ、どこの世界の武器よ。
反則じゃないの? 原理が不明すぎるオーバーテクノロジーだ。 仮想世界何でもありね。
咄嗟にバック転して距離を取る。 先程まで私がいた空間をレーザーブレードが切り裂いた。
坂崎のスナイパーライフルのロングバレルとスコープが消滅する。 スナイパーライフルは別の武器へとその特性を変える。 現れたのはレーザーブレード付きのアサルトライフルだ。
流石に坂崎も近距離でのスナイパーライフルの無意味さを思い知ったらしい。
新たな武器を前に様子見に徹している私に対して、アサルトライフルが咆哮を挙げる――撃ち出される弾丸は相も変わらず大弾頭、そのの上徹甲弾、しかもフルオート連射。
ちょっ―――それも反則じゃないの!? 命中精度とか反動すごいことになってるんじゃない!? これではもはやアサルトライフルというよりは据え付け型の機関砲だ。
しかも、キャバリアーとなった坂崎は常人を超える。
あれだけの規格外をいともたやすく操ってみせる。 フルオート連射では、命中精度はいまいちだと思ってか、三点バーストに切り替えての連射!
充分すぎる精度での射撃を行ってくる。
なんか私のサブマシンガンがみすぼらしく思えてくるのよね。
でも、片手でも使えるし、ほとんど動きの邪魔をしないんだからっ、うっ、羨ましくなんかないんだからねっ!
距離が開けば、武装の問題で私が不利になる。 ならば接近戦に持ち込んでこそ――
「武装だけで、勝負が決まらないことをおしえてやる!」
こちらも負けてはいられないサブマシンガンをフルオートで連射しながら突進する。
左手をサバイバルナイフを添え、狙うは定石通りの接近戦。
左右に動きアサルトライフルの弾丸を躱す。 身体能力はヴァルキリーである私の方が遙かに上である。 たとえ徹甲弾の弾速を以てしても回避は可能。
坂崎の方は重装備すぎるために動作が鈍く、小回りがきかない。 こちらの弾幕を躱すだけでも一苦労だ。
あっという間に距離がつまり、坂崎が銃剣――レーザーブレードを振り回す。 銃身と銃剣会わせたリーチは優に2メートルを超えている。 槍より長いわね、あれ。
その斬撃をナイフで捌く。 いかにリーチが長かろうと、対応できぬ一撃ではない。
そのまま相手の銃口を体の外側にそらす――直後、アサルトライフルがけたたましい咆哮を挙げるが――遅い! すでに銃口はあらぬ方向を向いている。
「取った!」
更に距離を詰め、三点バーストに切り替かえたサブマシンガン坂崎めがけて発砲する。
「うわあああああ! 痛い! 痛い! 痛い!」
坂崎が衝撃に吹き飛びのたうち回る。 銃撃を受けて痛いですむところがなんかすごい。
以前、私もシルフに言われて試しに自分の腕に撃ったあるのよね。 確かに痛いものの致命傷にならなかっし、腕に穴が開くこともなければ、血が吹き出すこともない。
あるのはただ衝撃のみ。 そうはいってもすごく痛いんだけどね。 殴られたような感じ?
防壁の加護も身体能力でも劣る坂崎は、私が経験した以上の痛みを感じているはずだ。
ヴァルキリーの身体は常に魔力による魔導防壁の加護があるため、短機関銃では衝撃を伝えるだけだ。 それはキャバリアーにしても例外じゃないはず。
初戦でイグニスの火球を受けてもも一発じゃ死ななかったし、身体も防壁も相当頑丈にできているらしい。 坂崎邸には痛みにのたうち回る坂崎の悲鳴だけが響き渡っていた。
――と言うわけで反省会。
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