第11話・瀬川会長

相手が家族でないならば、これから向かう学校にその相手がいるかもしれない。


 その可能性が最も高い。 気を引き締めておけ』




『そう言われてクラスメイトの顔を思い浮かべるが、ピンと来る者がいないわね……


 そもそも見た目変わっちゃうんだったけ、どうすれば絞り込めるのよ、流石に手がかりなしじゃどうしようもないわ』




『声だ。 声だけはヴァルキリーになったことで変化しない特徴の一つだ、それを手がかりにしろ』




 声か……でも、あいつそんなにしゃべらなかったからなあ。


 そもそもあのお嬢様口調とかどうかと思う、キャラの作りすぎじゃないだろうか?






 イグニスの正体を掴もうと思案しているうちに、いつのまにかいつもの通学路は終わり、校門を通りすぎていた。 じきに教室へ着く。




 今朝は時間が早いと言うこともあり、知り合いとも顔を合わせることもなく、あっさりと自分の席に着席する。




 すでに何人かのクラスメイトの姿があるが、こんな時間から登校しているのは秀才組か、社交的タイプのどちらかで、でだらしない私が、口をきくような相手ではない。




 朝早くから登校しているようなお堅いクラスメイトとは違うのだ。


 というわけで彼女達とはあまり口をきかないの。


 別に避けているわけじゃないんだけど自然とそうなる。


 だからといってチャラチャラとして、軽過ぎるのも好きじゃないんだけど。




 じっとしているのも退屈だ。 何より私はイグニスの調査をする必要があるわけで。


 フフフ、探偵としての血が騒ぐぜ、ワトソン君。




 ――というわけで、適当に話しかけてみるわけなのです。


 しかし、普段話しかけてこない私に対して、クラスメイト達の反応は冷ややかだ。




 まあ、想像はしてたんだけどやっぱりショックだ。 友達多い子がうらやましいな。


 それでも当たり障りのない会話を続ける内に、一人のクラスメイトがこちらに視線を向けているのに気づいた。




 彼女はこのクラス一の秀才にして天才と名高い才女だが、あまり人付き合いがよろしくない。




 今も離れた席からこちらを観察している。 かといって孤立しているわけではない。


 今まであまり意識したことはないが、彼女はいつも本(いかにもお堅そうな文学図書) を読んでいることが多く、どこかクラスから浮いた雰囲気がある。




 そんな彼女がこちらを見ているというのは珍しいことのような気がする。


 だが、普段と違う私の行動に興味でもあるのだろうか?




「瀬川さんは、話に加わらないのですか?


 それとも歓談の声が読書のお邪魔だったかしら?」




 意味もなく挑発的な口調で挑みかかる。 


何せ相手はクラス一の秀才、舐められてなるものか!




「いいえ、遠慮しておきますわ。


 わたくし、今日の分の予習がまだ済んでいないものでして」




 こう言うタイプは、いい意味でも悪い意味でもクラスから浮きやすいと思う。


 でも彼女はこう見えて要領がいい。




 生徒会に所属しているというのも大きな理由なのかも知れないが、とにかく人望も厚いし、孤高の優等生タイプではないようだ。 高嶺の花って感じかな。




 生徒会長――瀬せ川がわ恵え理りは私などよりもよっぽど人付き合いがうまい。




 彼女のその独特の雰囲気に羨望の眼差しを向ける者も多い。


 一部の女子生徒からお姉様と呼ばれているとか、危ない? 話があるくらいだ。




「瀬川さんが、早朝から予習とは珍しいですね。 昨日忙しかったのですか?」




 それとなく探りを入れてみる。 まあ、彼女は口調とか色々と突っ込みどころはある。


 言うまでもなく、イグニスもお嬢口調だ。 だが、そんな失態を犯すタイプには見えない。




「ええ、昨夜は社交パーティーに出席していましたので、色々と忙しくて予習している暇がありませんでしたの。 夜も遅くなってしまいましたわ。 寝不足で身体がだるいですのよ」




 しゃ、社交パーティー? なにそれ、食べられるの?


 あまり話しかけたことはなかったけど、見た目通りのお嬢だったのか? 苦手なタイプだ。 そういわれてみれば風格からして違う。




 しかもさらりと自慢されたのか、これは……自慢なのだろうか?




「そ、そうなんですか、瀬川さんは見た目もお嬢様ですし、確かに全然違和感なんかありませんけど?」




「はあ?」




 しまった、つい本音の感想が……あまり追求されるとまずい。


 オタクのサガが出る。 別の話題、別の話題。




「いえ、別に、その羨ましいですわね。 ほほ」


 釣られて対お嬢口調でごまかしてしまったじゃない。 うう、恥ずかしい。




「そうですの? 今度、お誘いしてもよろしくてよ?」




「いいえ、せっかくですが遠慮させておきますわ。 恥はかきたくないですからね」




「遠慮しなくてもよろしくてよ?」




「いいんです! 私なんか(ぼそっ)」




「はあ、そうですの。 それでは、わたくしは予習がありますので」




 なんか卑屈な断り方になってしまった。 こんな自分が憎い。


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