第6話・ヴァーチャル・ソサイエティ

疑問点は多い。 私が変身したと言うこと、ヴァルキリーとはなんなのか、


イグニスと名乗る少女について、頭の中の声について。




 すべてが私には知り得ないことだ。 情報がほしい。


 知っていそうな相手は一人しかいない。




 まずは、頭の中のソイツに尋問を開始することにした。


「というわけで、あんた何者よ、なんで私の頭の中で声が聞こえるの?」




『我が名はシルフィード、君を護る電子の守護霊(精霊)だ。 そのいう役割を与えられ創られたプログラムだと思ってくれていい。




 したがって私は身体を持たない。 意思を持つデジタル情報にすぎないのだからね』




 デジタル情報が意思を持っているなんて話もかなりおかしいが、すでに現在置かれている状況がおかしいので、このあたりに突っ込みを入れても仕方がないような気がする。




「護るってあんた何の役にも立たなかったじゃないの、おかげで酷い目に遭ったわ」




『確かに私自身には戦闘能力はない』




 薄々わかっていたことだけど、これにはがっかりせざるえない。


 声から想像するに、騎士って感じの男の人だし、結構強そうなのになあ。




「ほら、やっぱり役立たずなんじゃないのよ、電子の守護霊、笑わせないでよ、名前負けしてるわね」




 がっかりしたことで、悪態をつく。


 先程の敗北が尾を引いてることもあって、テンションはツンツンだ。




『まあ待て、確かに私自身が戦闘するわけではない。 が、君の戦いを援護することならできる。




 君があのイグニスというヴァルキリーに一方的に敗れたのは、戦い方を知らなかったからだ。 法則ルールをしらないヴァルキリーなど赤子も同然だっただろう。




 加えて変身したての赤子となれば、最弱なのは当然だ。


 明らかに格上のヴァルキリーに挑みかかった、君の行動は愚行といえよう。




 シルフィードのコードネームを冠する君には樹と風の力が備わっているが、力を使いこなせていない状況では、どうしようもない。




 イグニスが使う炎の力は私達精霊の魔力によってこそ扱うことができる。 それらは私たちの援助なくしては使うこともかなわない』




 なんか、自分に戦闘能力がないことをべつの理由で煙に巻かれたような気がする。




 「何かいいわけがましいわね。 おまけに偉そう、理屈っぽい」




 『私は電子の守護霊、プログラム体だ、理屈っぽいのは当然といえよう』




 「いや、絶対あんたの性格だから、それ、絶対!」




 冷静に突っ込みを入れる。




「じゃあ、あんたを使えば、私も炎を使えるようになるの?」




『いいや、先に述べたように私の属性は火ではない。 君が私の力を使えるようになったとしても、それは彼女のような炎とは別の属性、樹と風の属性だ』




 なんかRPGというか、ファンタジーな感じだけど、電子の精霊ってSFな感じもするわね。




「ふーん、じゃあ、それはいいわ。 それでヴァルキリーって何よ? 例の黒服もあの女も言ってたでしょ、アンタの説明回りくどいから、よくわからないのよ」




『私は最小限の言葉で話しているつもりだが、自身の理解力のなさを棚上げするのはやめてもららえないかね』




「そういうところが、理屈っぽいっていうのよ、嫌みな男ね!」




『そうはいわれても私はこれ以外の話し方をしらない、そういう風にプログラムされている』




「はいはい、アンタの話し方についてはもう結構よ、さっさと続きを話してよ」




『そうかでは話そう。 君はパソコンでアプリケーションSYSTEM―ヴァリキリアを起動したはずだが、覚えはないかね?』




「そういえばそんなこともあったわね。 そうなるとこの不可解な状況あのアプリケーションのせいってことかしら?




 いろいろ非日常的な体験ができたのはいいけど、痛いのは嫌よ。


 あちこちまだヒリヒリするんだから……」




『それは私の話を聞かずに反撃しようとした君の責任だろう。 私の責任にされても困る』




 挑発されて黙っていられないのは、私の性分ともいえるので、そのあたりを指摘されても仕方がない。少しは性格を落ち着かせるべきなのだろうか?




「そうはいっても、ヴァルキリーとかいうのに変身している以上、さっきみたいな目に遭うわけでしょ、そんなのはごめんよ」




『むむっ、確かにそれはその通りだが、今更君に選択権などないと思うが』


 変身しなければいいだけなきがするので、そこは聞き流す。




「まあ、いいわ……で、なんでそのヴァルキリアを起動にしたら、こんなへんてこな格好して、駅にいたの私は? この格好かなり恥ずかしいんですけど」




『それは君が、この仮想世界ヴァーチャル・ソサイエティにログインする際に駅の風景を強く思い描いた為だろう。 そんな格好なのは君の隠された変身願望の結果だ』




「駅にいた理由はわかったわ。だけど、このゴスロリ初音は私の願望ってどういうこよ!? そんなわけない。 これが私の願望なわけ!? 私はそんな変な願望無い!




 認めない、認めないわよ、こんな恥ずかしい願望! まるで魔法少女じゃない、幾つよ、私は!?」




「ふざけないでよ! こんな変な願望私にはないの、あんたの趣味じゃないの!」




『それは違う、この世界でヴァリキリーになった者は、その深層意識から望む姿へと変身する。 その容姿と格好は確かに君の願望から生まれたものだ』




「そんな馬鹿な! 誰がこんな格好望むとおもってるの!」




 まあ、確かに顔は好みなんだけどね、こんな格好は望むはずないわよ! 髪の毛緑だし。




『私に当たるな。 そういう風にプログラミングされている。 私がプログラミングしたわけではない。 当たるなら開発者クリエーターにでもあたるんだな』




「そのクリエーターってのはどこにいるのよ」




『さあな、私が知っている知識にその項目は存在しない』




「はああ、一言、そのクリエーターにいってやらなきゃきがすまないわね」




『私の管轄範囲外だなそれは、開発者をさがしたいなら、勝手に探すがいい』




「埒があかないわね。 そうね、ようするに変身しなきゃいいわけでしょ?」




 確かに普段よりかわいくてでスタイルもいい。 おかしいのは髪型と衣装なわけで。 たとえもう一度変身することになっても、格好さえ普通にすればいいのよ。




 そう結論づけ諦めることにする。 これ以上こいつに何を言っても無駄そうだし。


 それよりこの格好を何とかしよう。


 アキバじゃないんだから、ローカルコスプレイヤーもいいところだ。






 私はずいぶん長くなってしまった髪を下ろして、私服に着替えることにする。




 服装を正して改めて自分を直視すると、やたら長い緑髪と新緑の瞳を持つ絶世の美少女……それが自分の私服を身につけてるという事実、萌える。




 が、どうにも違和感を覚える。 髪の色も何とかしたいのだけど、あいにくと私に髪を染めるような習慣はないのであきらめる。




 染髪による髪への傷みは半端じゃないと聞くし、家族と出会ったらどう説明すれば納得してもらえるんだろう。 とうてい無理よね。




 一息ついたところで状況を整理するため、頭の声の主シルフィールドともう一度話をすることにする。




「で、私は何でこんな事になっているの?」




『アプリケーション――『ヴァルキュリア』を起動して、現実を模した仮想都市『ヴァーチャル・ソサイエティ』にダイブしているからだ』




「それはさっき聞いたわよ。 私が聞きたいのは、ヴァルキリアとかヴァーチャル・ソサイエティっていうのは何なのかってことよ、もっと詳しく説明してちょうだい。


わけがわからないわ」




『ヴァーチャル・ソサイエティは電子情報で構築された仮想空間だ。 パソコン等の高度電子機器が形づくる本物そくっりの仮想空間だ。 ヴァルハラともアースガルドとも呼ばれる』




「じゃあここは現実世界じゃないの? 本物そっくりというか、そのものなのに」


 なんか急にファンタジーからSF臭くなってきたじゃないの。




『その通りだ。 私達がいるのはヴァーチャル・ソサイエティの中で、今ここにいる君は電子情報体アバターで実体はない。 現実世界の実体はパソコンの前で眠っている状態だ』




 新手のVRゲームかなにかだろうか、それにしては感覚が現実てきすぎるけど。




「なんかどこかで聞いたような話よね。 洋画のマ○ッリクスみたいな状態ってわけ?」




『まあ、簡単に言うとそういうことになるな』




「意外ね、洋画のことなんてわかるんだアンタ」




『最低限日常生活を送る上で必要な知識は記録されている。 ことヴァーチャル空間に関することがらなら、その密度は膨大だ』




「でっ、そのヴァーチャル・ソサイエティってのは誰がどんな目的で創造したの?


 あの、アプリケーション、SYSTEM・ヴァルキリアを創ったのと同じ人物ってわけ?」




 そう考えるのが妥当なところだと思う。 これだけのことを考えるのが別人だとは考えにくい。




 『そうではない、少なくともその両者は別人の手によるものだ。


 この仮想世界・ヴァーチャル・ソサイエティを創造したのは情報企業、CNTRYの研究員だ。 彼と他の研究員が協力してこの仮想世界を作り上げた』




『ちょっとまってCNTRYって世界有数の大企業じゃない? その研究員がこんなうさんくさいことに関係しているの?』




 CNTRY――光ネットワークや家電製品、果てはゲームハードまで参入している財閥企業だ。 CNTRYの家電製品やネットワークを使用している家庭は世界中に存在する。




 特にCNTRYは現代のブロードバンド社会において99%のネットワークインフラを握っているので、事実上この仮想都市にほぼすべての現実都市が再現されていることになる。




『そういうことだ、彼らはCNTRYの商品すべてにこの仮想世界を構築するための装置を取り付けばらまいてきた。 その結果がこの仮想都市・ヴァーチャル・ソサイエティというわけだ。


 今の時間帯は人気が少ないが、こういったCNTRYの設備を導入している家庭では家主が寝床につくと無意識下でこの仮想都市に引き込まれてしまうのだ。 彼らは当然ながら電子体を形成する』




「ちょっとまって、じゃあ、この仮想都市に引き込まれたすべての人々がヴァルキリーになるの?」




『それはちがう。 ヴァルキリーはプログラム(アプリケーシヨン)・ヴァルキリアを起動し彼等仮想都市に引き込まれた者だけだ。 その他の者は現実世界での容姿、能力が性格に形成トレースされる。




 夢のような無意識化でこの仮想都市でいつも通りに生活し、夢であるが故に意識が覚醒すればこの世界での出来事をほとんど忘れてしまう』




『よほど印象的な出来事でもない限り、この世界での出来事は夢という形でしか残らない。


 夢というのは、起きてからも覚えてることってほとんどないし、すぐに忘れるだろう?


 故にこの世界での出来事を覚えている者は基本的にいない。


 仮に覚えていたとしても、夢だとしか認識できないから、問題にならないのだよ』




「じゃあ、なんで連中はこんな世界を創ったの、誰も覚えてないならこんな世界構築する意味だってないじゃない。 無駄骨っていうことにならない?」




『ここからがやっかいなことなのだがCNTRYはこの仮想都市ヴァーチヤル・ソサイエティ、ある程度、意のままに改ざんすることができる。 それを現実に投影することができるとすればどうかね?』




 確かに仮想世界を作り、それを現実に投影できるなら、それはものすごいことだ。




「そんなむちゃくちゃな話、確かによくできているけど、この世界はいってみれば情報の流れ、デジタル信号なんでしょ?




 基本0101の集合体に過ぎないはずよね。 それをどうすれば現実世界に反映することができるのよ?」




『禁則事項だ。 それ以上は私の知識メモリーにも記載されていない。 だができるとしたら恐るべき自体だと思わないかね?』




『確かに、そんなことが可能なんだとしたらとんでもないことだわ、この世界を好きなように改変することで、現実世界を好きなように改変することもできるということになる』




『多くの人を巻き込んでいる実験だから、慎重にすべきだって意見の方が多いらしい。 しかしな、一部の過激派がその権限を使って、自分たちの理想郷ディストピアを作り現実世界リアルワールドに干渉しようとする過激派が存在するということだ』




「そんなの世界征服と変わらないじゃない。 まるで秘密結社だわ、そんなことが許されるわけがない」




 夢の世界の話なんだからどうでもいい? そうじゃない、彼らは自らの渇望を現実世界に呼び出そうとしている。 彼等はこの仮想都市を現実世界に干渉させ浸食する技術を編み出したのだという。 にわかには信じられない。




 技術とか以前に不可能だと思う。 彼等はこの仮想都市ヴァルハラを現実世界に投影してしまえるような方法を発見したというのか?




『それらプロジェクト総称して、ヴァルハラ・シンドロームと呼ぶ。 ようするにに仮想世界の投影から、シミュレーション。




 そして、世界征服さえも目的とする巨大プロジェクトだ』




『何の根拠があるのか知らないが、少なくとも連中は信じてるらしい。 夢を現実にする方法をね』




「信じられないわ、どうやったらそんなことが可能になるの? 所詮ここはデジタルデータよ。現実に干渉することなんて不可能よ。 何が世界征服よ。 ふざけないでよ!」




『私にそれをいっても、意味がない』




 SYSTEM・ヴァルキュリアとはそんな彼等の思想に反対する研究者が生み出した防衛プログラムの一種だ。 CNTRYの研究者すべてがその研究に賛同したわけではない。


欲望や知的好奇心に目がくらんだ一部の過激派だけだ。


逆に良識はともいうべき反ヴァルハラ・シンドロームを唱える創造者が開発したのが――




――アプリケーション・SYSTEM―ヴァルキュリア――




『このプログラムをインストールした者をヴァルキリーとか呼ぶ。 このプログラムをヴァルキリアと呼ぶ

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