第14話・へんたいふしんしゃさん
目出し帽に黒い上下――はい、どう見ても不審者です。
そういえば最近、痴漢被害が多いんだったけ。 友達に注意されたなそういえば。
どうみても痴漢さんです。 なんか、ハアハア言ってるし。
夜の公園で痴漢と遭遇。 普段の私なら、震え上がって泣き叫んでいるところだろう。
なるほど、この男から解釈すれば私は飛んで日にいる夏の虫と言うことってわけだ。
「ねえ、こいつで試したらどうなるの? 戦闘訓練」
『前にも言った通り死亡すると仮想都市からの強制退除。 酷い悪夢を見て目覚めるだろうな、まあ、次に眠ったときにはすぐに復活する。
試すことには異論はないが、戦闘訓練としては役不足だな』
「つまりは、やっちゃってもいいんだよね、痴漢とかするヤツは許せないのよね。
断罪してやるわ」
『ああ、好きなようにしろ』
ちょうど練習相手が欲しかったのよね。 私って運がいいんだか悪いんだか?
「ミ○かわいいよ、ミ○、ハア、ハア」
痴漢さんなんか別の世界に旅立っていらっしゃるようだ。
気持ちの悪い動きをしながらゆっくりと近づいてくる。
なんか痙攣してて生理的に受け付けない――つまり罪悪感はゼロ。
「そこの変態、手を上げろ! おとなしくしていれば命までは取らない」
叫ぶと同時に銃口を変態に向ける。
いきなりサブマシンガンを向けられた変態は、予想外の事態にビクっと震える。
コスプレ少女がいきなり銃口を向けてくるとは誰が思うだろう。
「そ、そんなモデルガンで脅されても、こっ、怖くなんか、ないんだからねっ!」
なぜか、ツンデレな口調の変態は一瞬ひるんだものの、じりじりと距離を詰めてくる。
ツンデレ口調の変態、不気味だ。 不気味すぎる……
「じゃあ、死にな、予言してやろう、おまえは後悔する、悪夢のなかでね」
簡潔な死の宣告、やたらかっこよさげに決めポーズなどつけて言い放つ。
口角がつり上がるのが分かる。 力を振りかざすのって気持ちいい。
私もイグニスのことはいえないなあ。
頭で精霊に念じながら、男の顔面スレスレに威嚇射撃してみる。
当たり前だが私は銃など撃ったことがないし、狙い通りに飛ぶとは思っていない。
だけど別に当たっちゃってもいいよね。 てへり。
狙いを正確にするために両手持ちされたサブマシンガンが、紛れもない本物の火を噴いた。
「ぎゃあああああ!」
変態さんはだらしなく尻餅をつく。
まあ、私が逆の立場でもこうなるかな。
狙いとは寸分違わず正確な射撃が男の顔面をかすめていった。
初めて撃ったとは思えないコントロールだ。 これもヴァルキリーの力なのだろうか?
確かに格闘や射撃の素人ではいくら身体能力が高くても戦士とはいえないだろう。
残念ながら私の発射した弾丸には何の属性効果も宿っていなかった。
「立ちなさいよ。 自分で立たないなら、私が立たせてあげましょうか!?」
電動ミシンよろしく、連射されたけたたましい咆哮を上げ、男の足先をかすめる。
フルオート連射された反動でコントロールが定まらないはずの弾丸は、狙いからそうはずれるに変態の足下に着弾した。 変態が恐怖で飛び上がる。
「やめてくれ。 殺さないでくれ、ほんの出来心だったんだ。 ああ、もう二度としない。 今は反省してるから許してくれ。 頼む、この通りだ。 俺が悪かった」
数発の弾丸がかすったことで、痛みに脅える変態が泣きわめきながら命乞いをする。
仮にこれが現実であったならば、私もこの変態をこれ以上のはことはしないだろう。
いくら変態でも命まで取るのはやり過ぎである。
しかし、はじめにいったとおり命は取らないけど、ここでは死ぬことがない。
ここはヴァーチャルであり、仮想――この変態はここで殺されたとしても、
せいぜいそういう悪夢を見たという程度のことしか覚えてはいないだろう。
そしてこれは想像だが、こういった輩の再犯率は極めて高いのではないかと思うのよ。
おそらく現実でもこの変態は、痴漢行為を行うために夜な夜な徘徊をくり返しているに違いない。
それを許していいのだろうか、いや、断固として許してはならない。
徹底的に悪夢を見させて少しでも後悔、もといトラウマ(後遺症)を現実世界に引きずってもらおうってことね。 だから、なるべくいちげきではころさないであげる。
「これに懲りたらこういうことは二度としないことね!」
「見逃してくれるのか?」
「冗談でしょう? こ・ろ・す・わ♡」
私はサブマシンガンを変態さんにポイントし直した。
練習台として、せいぜい的になってもらおうじゃないの。
その後逃げる変態さんを練習台に、筆舌しがたい壮絶な鬼ごっこを繰り広げたのだが、結局のところ私には属性攻撃が使いこなすことができなかった。
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