頁47:小さな殺戮者とは
喧嘩に負けた犬の様なギャンギャンという鳴き声を響かせながら
「いよっしゃああぁぁぁ! ビクトリィィィィ!」
投石のみで見事新種の
「なんじゃコレええぇぇぇぇ!?」
「…うるさいな」
「誰だお前ええぇぇぇぇ!?」
「うるさい!」
スパァァンともう一度引っ
「私の命の恩人ですよ!」
「ハァ? 恩人? このガキんちょが??」
「……」
訳も分からず
「ちょっと黙っててもらえますか? ───あの、危ない所を助けて頂きありがとうございました。ちょっとギリギリでしたけど」
初撃の際に反応が少しでも遅れていたら串刺しになっていたのは私だった。正直ちょっと危なかった。
「…あんたなら間違い無く
視線をやや外してとんでもない事をさらっと言う。
「『アンタ』ぁぁ? 年上には敬意を払えって教わらなかったのかなボクチャン!?」
「黙っててって言ってるでしょう! 死なない程度に首折りますよ!?」
「ヒェッ」
拳をパキパキ鳴らして威圧する。
「それに年上にって言うなら
「え…キミ、年上なん…?」
「
「申し訳ございませんお姉サマ享年24ですごめんなさい」
よしこれで少し静かになった。思ったよりも近かったけれど。二十歳くらいだと思っていたのに。
「あの、もしかしてだけど…あなた、亡くなった御夫婦の…」
「ゆきのしん」
「…え?」
ポン!と
「名前。僕、ゆきのしん」
渋い。漢字を当てるなら雪之進、かしら。雰囲気的に。漢字が存在してるのかどうか分からないから脳内ではこの文字で補完しよう。
「あ、雪之進さんと仰るんですね。私は
「知ってる」
やっぱり。
「…
こくり。
昨晩、見かけたと思ったらいなくなってしまった子供。それがこの子だったのだ。
「助けて貰っておいて何ですが、どうしてこんな危険な場所まで? 村の人達は知ってるんですか?」
「そうそう! コドモはアブねぇからとっとと帰ってマンガでも読んでな!」
何を張り合ってるんだろうかこの人は。読むなら活字でしょう。
「あの人達は───」
「ああン?」
「
「……!」
恐ろしく、冷たい目。
彼が瞬時に
「あんた達『 』の
思わず
「…だとしたら?」
鎌をかけてる訳ではない。この星の人から見れば人外魔境な現象を起こしている我々であっても敢えて接触を図る、という事はそれなりの目的があるからだろう。
先程のあの目を見る限り年齢がどうこうというレベルでは無い気がした。ならばはぐらかしたりする意味は無い。
あまりのギャップに気圧されてしまったが、私も
「僕、
「何故ですか」
「お父さんとお母さんを殺した
「な…!?」
表情一つ変えずにとんでもない事を言う。
「ひろしさんは
「……」
恐らくそれはひろしさんが───
考えたくなかった可能性がより現実味を帯びた。
「そこから考えられる事は
この子は───まさか、理解しているというのか。
自分が、いや世界が
「………」
「ちょっと
「
涙と鼻水を同時に流しながら号泣していた。
「う、うん、まあ……あの、拭いたら…?」
余りにも
◇◆◇◆◇◆
ズビィィィィィッ!!
省略。
「イヤ、みっともない姿を見せちまったナ」
全くです。
「ただのこまっしゃくれたガキかと思ったケド…そっか…、亡くなったあの人たちの中にオトッサンとオカッサンが……ズビ」
落ち着かせた涙腺がまた
「弓の技術は御両親から教わったんですか?」
「ユミ…?」
あ、そうか。
「(【承諾】×三つ…っと)」
存在不確定のヴェールが
「違う。お父さんもお母さんも僕に戦う事は望んでなかった。
「
素直に驚愕した。私も少しだけ弓道を
あくまでもこれは
「他にする事もしたい事も無かったから。とにかく訓練した。手が血だらけになっても、体が言う事を聞かなくなっても、毎日。『 』代わりで
無口なのかと思ったが感情に火が付くと途端に
思春期特有のコミュニケーション不足による対人スキルの未熟さと、抑えきれず漏れ出てしまう深い憎しみによる衝動なのだろう。
「最近になって知らない
そこにいたのは既に年相応の子供では無かった。背中に哀しみと業を背負った修羅だ。
そんな彼にしてしまったのは他でもない、我々の全滅だ。
ならば彼に対して負うべき責任とは?
確かにスタ・アトの村に
「よっしゃ、オレちゃんに任せなユッシー! バシッと
私の葛藤を完全に無視した
「ちょ、何を…!」
「本当に?」
「男に二言は無ェ!! 俺を誰だと思ってやがる!」
胸をバーンと叩いて
「勢いだけの二枚舌糞野郎」
「今まで以上にひどくね!?」
どうして良い評価を貰えると思ったのか教えて欲しい。いややっぱりいいや教えてくれなくても。
「ユッシーも何か言ってやってヨ!」
「なんで僕、ユッシー?」
「ナンデって『ゆきのしん』だからユッシーっショそりゃあ?」
当たり前みたいに言わないで下さい。
「もう少しマシな呼び方は無いんですか…」
「みさチョリスも名前で呼んでもいいなら…」
「訴えますよ」
「テキビシーーーーー!!!」
「……アハッ」
笑った?
驚いて振り返ったが既に元の無表情に戻っていた。惜しい。いや惜しくは無いですけど。
「とにかく、ユッシーが
珍しく意見を曲げようとしない。それ程までに感情移入する何かがあるのだろうか。
「分かりました。どの道我々が突き放したとしても彼は自力で
「ぬ……」
そうだった、という顔。まさか忘れていたのだろうか? …全くこの人は。
「じゃあよろしく。あんた達は村の人よりは信用出来そうだ」
光栄な台詞を無表情で言ってくれる
「任しとけ! ……その代わりっちゃーナンだけどサ、『あんた』はやめてくんない? なんか地味にダメージ受けるんだヨ…」
…それはちょっと分かります。
「めんどくさいな…。まあ分かったよ。宜しくシシバ、ミサキ」
「なんでオレだけ名字呼び!?」
「ミョウジ…って?」
ああもう話が進まない。
「
ハッとする彼。
「そうだった…まずはトイレ、そしてジャガイモ…いやメシ!! ユッシー、水が大量に集まってザーーって流れている場所ってこの先で合ってる!?」
「うん。『 』に何か用でもあるの?」
「いよっしゃああぁぁぁぁぁ待ってろ川ああぁぁぁぁぁぁ!!!!」
またしても一人暴走して走り去る彼。
「ちょっとまた…!! ああもう!!」
「変な大人だね」
そう
「ええ…お恥ずかしながら……。取り敢えずお付き合い願えますか」
「いいよ。僕もお願いしてるし」
溜め息を一つ吐くと、彼の後を追って我々も走り出した。
どうしようもない駄目カミサマはこうしてまた一人の心の壁を壊していくんだろうな。
ちょっとだけ
(次頁:48へ続く)
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