頁32:労働奉仕とは
ふらふらと先に帰って行ったひろしさんの後を追ってひろし宅付近まで行くと、丁度本人が玄関から出て来た。木箱を両手で抱えて。
「おお来たか! 振り向いたらいなかったからまたどこかに行ったのかって
ガハハと笑い飛ばすひろしさん。我々にしたらまあまあ笑えない冗談なんですけどね。
「そうそう、ウチに集合して…って予定だったんだが
ちょっと困った顔で聞いてくるひろしさん。彼的にはその意見に賛成なのだろう。私達が先程死者に関する知識を辞典に登録した事で発生した変化なのは疑い様もない。
「つまりそれって…盆と正月が一緒に来」
「違います。ひろしさん、私達は全く気にしません。
「そうか、そう言ってくれるか! すまねえな嬢ちゃん、恩に着る」
ひろしさんはどことなくホッとした表情だった。
どんな形の祈りでもいい、そう言ったのは私なのだからこの村の人々の
「そしたらよ、村の男連中は
ひろしさんは自らが抱えた箱を見た。
「客人にこんな事頼むのも気が引けるんだが…」
「なんです? 私で出来る事なら」
「これ、食材なんだが炊き出しチームの方に持って行ってもらえねえか? 全然重くはねえから」
「お安い御用です」
ひろしさんから
「ではお預かりします」
「ありがとよ!」
「じゃあひろっさん、また後でネ~」
ん?
「何言ってるんですか?」
「はい?」
「男は穴掘り。ひろしさんがそう言っていたじゃないですか」
「うん。言ってた。で?」
子リスみたいに小首をかしげる姿にイラァッとした。
絶望的に察しが悪い彼にも分かる様に
「私が行くのは女性チームの所ですよ。
「え? あ? いや? その」
目が泳ぎ過ぎて大回転している。
「体を動かした方が食事もきっとおいしくなりますよ。もてなされる側であっても働かざる者食うべからずです。はい行ってらっしゃい」
「お? おお? あ、はい」
「ひろしさん、遠慮せず使ってやって下さい」
「だはは! だってよにーちゃん、尻に敷かれてんな!」
そういう関係じゃありません。
「でもひろっさん、こんなんだけど実は泣き虫でカワイイトコが」
「ぶん殴りますよ?」
「はーーーい行ってきまーーーーっス!!」
預かった木箱を怒りのオーラと共に高らかに掲げると、男二人は慌てて墓地予定地の方へと走って行った。
だれが『こんなん』だ。失礼な。
走り去る二人を見送ると、私は村の中心の方へ向かって歩き出した。
◇◆◇◆◇◆
「おや旅人さん、どうしたんだい?」
(たぶん)村の中心では女性陣がせかせかと炊き出しの作業に追われていた。半分が我々の為であると思うと申し訳ない気もした。
「あの、これ、ひろしさんから渡す様に頼まれまして」
私は抱えた木箱をその女性に差し出した。
確か、最初にこの村に来た時にひろしさんと話していたよしこさん、だった
「ああ、ひろしさんの『 』の『 』ね? 助かるわぁ」
お、久々に無音。もし中身が野菜とかの食材で合っているのであれば『畑』の『(野菜名)』だろうか。
「あの…失礼ですが、確か…よしこさん、でしたっけ? 私達が以前お邪魔した時にひろしさんと話していた…」
すると彼女は目を真ん丸にして驚いた。
「あらやだ、覚えていてくれたのかい? 嬉しいねえ!」
元の地球であれば高齢者と判別されてしまう年齢であろうよしこさんは、田舎のおばあちゃんの様に生命力
「あの…この度は本当にご心配をおかけしまして…」
「や~だ、何言ってるのもう! あたし達が勝手にもてなして勝手に心配してただけよ。でも無事で本当に良かったわぁ」
心からそう思ってくれているのが分かるだけに、自分らのしでかした事の重さが圧し掛かる。本来ならばこのもてなしを受ける資格など無いのに。
けれど皆さんの厚意を
「私も何か手伝いたいのですがお手伝い出来る事はありませんか?」
「えっ、そんな悪いわ」
「いえ、連れもひろしさん達を手伝ってますし私だけ何もしない訳にはいきません」
「そう? じゃあ…お願いしようかしらねぇ。あ、そうそう。あなたお名前は?」
くるりと振り返り私を見て聞いてくる。
「あ、
浅くお
「サガミミサキ…さん? あら、変わったお名前なのね。『 』の
うん…? もしかしたら
「あ、ミサキで大丈夫です」
思わず名前の方を言ってしまったが、ひろしさんやよしこさんの他の人達もみんな『氏名』の『名』が
まあこの村の人達ならば「外国の方は変わったお名前なのね~」で済ましてくれそうではあるが。いや絶対に済ましてくれるだろうな…。
「じゃあミサキさん、あなたお料理は出来る?」
「はい、一通りは学びました」
「あら素敵。可愛いのに何でも出来ちゃうのね。羨ましいわぁ」
「いや、そんな…」
後頭部がムズムズする。相変わらず
父の
その自信が、
(次話/33へ続く)
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