頁42:命名と新事実とは
「ハァ…、それにしてもハラ減ったにゃア…」
まあ可愛くない猫ですこと。
「夜中にあれだけ食べていたのにまだ足りないんですか?」
「アレって食べてたコトになるの!?」
「胃は膨らんだ感覚がありましたし私は一応平気ですが」
「…キミって時々超人じみてるよネ…」
「そうでしょうか?」
全ては気の持ち様です。
世界に強制的に文化や物質を根付かせる為のクリエイションコマンドは
不足分は意外と少なかったので、村の人達が目覚めるまでの間にたまった【提案】を一つ一つ
「…この『タマネギ』って本当にタマネギ?」
システムメッセージの【提案】を見つつ
「…ごめんなさい」
「謝られた!?」
「ちょっと
「そうなんだ? 珍しいネ」
《 【提案】メッセージに対象事物の画像が添付される様にシステムを更新しました。》
「あ?」「えっ?」
突然画面に差し込まれるメッセージ。
「な…! これ…って……タマ…ネギ…??」
「やめてえぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」
突然のアップデートにより表示された『タマネギ(仮)』の認識しきれない薄ぼんやりシルエットをみた
怒りに震える心を抑えながら改めてその画像を見るが、確かにこれでタマネギは無いな。球状の物体から触手の様なうねうねとした細長い管が無数に伸びている。シルエットだけで言えば足が思い切り増えたクモヒトデだろうか。認識出来なかったと言えどこれを掴んでいたのか私。ゾッとした。そしてひろしさんの畑にはこれが沢山……!!
考えるのやめよう。
「と、取り敢えず提案は却下しておくネ」
普段足りていない彼のここぞの気遣いが痛かった。
「見た事も無い植物があっても当たり前かァ…そりゃ異世界だもんネ。それら全てにいつかは名前を付けなきゃならないなんて…大変だコリャ」
「時間は多分永遠にあるんですから急がずにやりましょう」
「まぁ、キミとずっと一緒なら…それも悪くないよネ…」
頬っぺたをポリポリ掻きながら彼が呟いた。
「何か言いました?」
「ヤ、ヤ、何でもないから!」
何だろう。まあいいか。
「それにしてもやっぱりハラ減ったにゃァ…。タマネギでもいいから【承諾】しちゃダメ?」
「駄目です」
きっぱりと禁止する。
「空腹は辛いとは思いますが、まだ食べ物について一切【承諾】をしていないのはトイレをクリエイションする前に排泄物による汚染を防ぐ為です。今は水分のみが実体化しているだけなのでまだそこまで危険はない筈ですが、それでも絶対ではないでしょうし。食べ物を【承諾】する度に少しずつ実体化していく排泄物を見たいんですか?」
「うぇっプ…」
未承認物質で構成されているボヤっとした『アレ』であっても実際に目の当たりにしている彼が、脳内でその図をイメージしたのだろうか。
「でも…せめてジャガイモだけでもクリエイションしちゃダメ…?」
半泣きの瞳で訴えかけてくる。空腹にどれだけ必死なんですか成人男性…。
「またそうやって安易に…。そもそもジャガイモがどういう物なのか知ってますか? それを答えられたら考えます」
「え………?? えっと…───南米アンデス山脈で生まれたとされている。15世紀にヨーロッパへ持ち帰られたが気候差で食用までには育たず、18世紀頃に
シュウさんと入れ替わったのか。ズルい。回答者が二人いる様な物ではないか。
まあ、対策はしてるけど。
「正解です」
「やった! じゃあ」
「
「ナンデェーーー!?」
コロコロ入れ替わられると対応に困る。
「
「ぐぬぬぬ…!」
ミッション1は別に承諾システム外なので彼が無理矢理押し通そうと思えば可能なのだが、私の意見も聞いてからにしてくれているだけ協力しようという気持ちは伝わった。押し付けるだけは流石に可愛そうだから折衷案を出す。
「人々の命がかかっているかもしれないので…申し訳ありません。でもトイレ問題が解決したら次はジャガイモを検討しましょう」
「マジで!? イヤッホーーーーーウ♪」
全く、自由なカミサマだこと…。
大喜びの彼を尻目に【提案】の【承諾】を進める。この時間だけでもかなりの数の事物が世界に定着した。なるべく影響が薄そうな物を選択しているが、それらがどう転がって事件を引き起こすか予想もつかないのでドキドキしっぱなしだった。
次は…同じ画像で【提案】が二つ? 『
「『
同一の物での【提案】の場合、片方を【承諾】すると自動的にもう片方は却下される仕様らしい。まあ当然か。
「あ、コレ! 穴掘る時に
「はぃ?」
どう見てもただの
いや待て、私もしたじゃないか。調理場で。
「どういう事ですか?」
腕を組んで頭を
「や、たけしさんからコレ…
「
状況としては似ている。今は『タマネギ(仮)』以外は名称を与えられたが、私も手にした包丁を調理台に乗せたまな板の上の『タマネギ(仮)』に向けて大きく振り下ろした。その結果がアレだ。
「もしかして…オレちゃん、スキルに目覚めちゃった系トカ…!? だとしたらダンジョンソロ攻略も可能じゃね…?」
まだ勇者願望が抜けきらない創造者がグフグフ含み笑いをしているのを無視して私は立ち上がり、辺りを見回す。
まだまだ名前の無い物などゴマンとある。そう、誰かの家の軒先に干されている?タマネギ(仮)とか。ビジュアルが怖い。
申し訳無いけれどそれを一つ拝借し、食べられるかもしれないのでと命名を後回しにしていた謎の花を一輪摘む。
「あの…ナニしてるの…?」
ついでに
その桶の中に謎の花を横たえ、真上にタマネギ(仮)を握った手を伸ばす。
「一応、離れていて下さい」
「え? ちょ…」
手の中の物体を離すと、当たり前の様に星の引力に引かれ落下し───
「き、
桶の中に落ちたと思った瞬間、桶も花もタマネギ(仮)も
私は無言で追加の花とタマネギ(仮)を数セット集める。お借りしますと言ってもこれじゃあ返せないかもしれないな、と脳内で謝罪しつつ。
花を等間隔に地面に並べ、同じ数のタマネギ(仮)を小脇に抱える。まずは石を手に持ち、一つ目の花に同じ様に落とす。
既に名称を与えられた石は当たり前だが花を
次はタマネギ(仮)を持ち、隣の花に落とす。
ボゴォッ!!
軽い地鳴りと鈍い音がしたと思った瞬間、花があった場所に直径30センチほどの穴が開いた。深さは…
では次。
…紫基調のマーブル模様の小さな水溜まりが誕生した。匂いはしないが絶対に触りたくない。後で埋めよう。
とりあえず次。
…樹が生えた。これも名称が必要なのか何の樹か認識しにくい。高さは10mを優に超えているだろうか、かなり大きい。みんな起きてなくて良かった。
そして最後の一つ。
「うげっ…」
途中からドン引きしていた
私も流石にこの結果は予想していなかった。胃液が込み上げそうになるのを必死で抑える。
「ギ…アァア…ギャァ……」
それは、か細く小さな奇声を上げ、程なくして動かなくなった。
人とも動物とも取れない、生物の基本構造を滅茶苦茶に無視した奇形パーツの塊が───。
「な、な、な……!?」
状況が掴めずにガクガクと震える彼に、何とか胃を落ち着かせながら考えた結論を述べる。
「不確定な存在同士の融合と、それによる
駄目神様が全力で首を横に振った。
(次頁:43へ続く)
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