頁27:最初の結末とは
「…ハレ…?」
何が起きたのか理解が追い付いていない彼。激突に押し勝った
「
彼の元に駆け寄る。
「…なんで…? アレ…?」
そして、視線を自分の右の腕に落とした。───衝撃によりズタズタに裂けた肉、あり得ない方向に曲がった腕、折れた骨が皮膚から突き破って露出した手指。脱臼しているのかもしれない腕は肩口の辺りからぶら下がり、普段の腕の長さよりも少し伸びて見えた。
「あ…? うあ……あぎゃあああああああああああああ!!!!」
思考が追い付き同時に痛みが襲ってきたのだろう、
どうする…!?
どうするも何も、相手を全滅させない限りどうにも出来ないだろ!
ガクガクと
「あぐァ…! あ…? み、
「全部終わってからにしましょう! 痛いかもしれないけれど下がってて!」
返事を待たずに彼の前に立ち、残る
やはりこれは『試験』だった。単純に飛んで来る攻撃を見切って反撃するという『基本』を道中で学び、そして威力を増した攻撃をする個体に対してどう対処するかの『応用』。まだ体術で撃退出来るだけ難易度的には高くないのかもしれない。
「ッラァ!!」
「…
まずい、二撃で早くも足に来た。緩やかではあるものの再生されているので痛みが引く感覚はあるが、このペースでは先に体の方がダメになるだろう。痛めた足を
二匹連続で突っ込んで来る
「
足を入れ替え姿勢をスイッチ、左の前蹴りで一匹目を押し返し、衝突の際のインパクトを利用してバックステップの要領で二匹目を回避する。
つもりだった。
「ぁぐぁ…!」
入れ替えて軸足にした右足に想定外の激痛が走る。もしかしたら骨にヒビが入っていたのかもしれない。
一匹目は撃退出来たが…二匹目は…!
迫り来る衝撃に不覚にも目を閉じてしまった。
「……!」
…あれ。
覚悟していた衝撃はタイミングを過ぎても訪れず、代わりに響いたのは───
「ぅオウらぁ!!!」
『彼』の叫びと、真横から蹴られて軌道が狂い、壁に激突して絶命した
「成程、重心を意識した蹴りなら何とかなるみたいだな」
「シュウさん!? 『彼』は!?」
「
「邪魔って…」
だからと言って怪我が完治した訳ではない。シュウさんに入れ替わってもその体は相変わらず大量の脂汗を吹き出し続け、右腕は力無くぶら下がっている。そもそも使い物にならないどころか痛みという妨害を絶え間なく送り続けてくる腕を抱えてまともな蹴りが繰り出せる訳が無い。
「無理しないで下さい!」
「何言ってる? あんた、
「う…」
確かに、助けてもらわなければ死にこそはしないとは思うが
「…助けて頂きありがとうございました」
「
「え…?」
言葉の意味を図りかねる。彼を助けた事なんてあっただろうか?
「お喋りは生き残った後だ」
我々のダメージを知ってか知らずか、
「あんた、足に来てるだろ。動けるのか?」
「バレてましたか…でもまあ何とか。一か八かですが、さっきよりももっと壁ギリギリまで下がってみましょう。それで少しでも時間が稼げれば治癒に回せます」
「…成程な」
提案の意図を
相手の攻撃方法は基本的には高速での体当たりだ。つまり
我々の作戦に気付いたのか、向こうの動きに若干の
《 戦闘域より一定時間以上の不正な
視界に、突然現れた【文字】。
縮小地図の様に網膜に直接映し出されているのか。
「え…?」
「マジかよ…!」
瞬時に理解したらしいシュウさんに質問するよりも先に変化は訪れた。
体全体が引っ張られる感覚。そして一瞬で変化した周囲の景色。
「ここは…」
「最悪だな。
何の? いや、私も理解が追い付いた。確かに最悪という表現が相応しかった。
彼らにとって攻撃するのに最適な位置に獲物が勝手に移動してくれた訳だ。つまり、
「囲まれたな。クソが、
ハメ…? どう意味か分からないが恐らくはゲーム関連の用語だろうか。それを質問する余裕は既に無かった。
「嘘でしょ…」
かなり減ったとは言え、十分に脅威である数の瞳が我々を包囲しつつ見つめている。そして更に気付いてしまった。
「見ろよ。ここにきて
「そう…ですね」
飛び回る
「あれ、
「
ギョロっとした目の上、人間で言えば額か前髪の生え際にあたりそうな位置に一本、骨格無視な大きな角を生やした
あれが、
他の個体とは変わらない眼なのに、なぜか
「
急に名前を呼ばれて我に返る。そしてその声の響きが何を意味していたのかも。
「くっ!」
縮小地図でも分かる、背後から迫り来る気配。
視界の端でシュウさんが敵の攻撃後の
次々と襲い来る回転体。紙一重で回避を繰り返すが、その度に足に鈍痛が走る。治るそばから負傷しているみたいにその痛みは次第に強くなっていく。
「あっ…」
とうとう、バランスを崩してしまった。恐らくはその瞬間だけを狙っていたのだろう。角付きが想像通り、その角を突き出しこちらに突撃していた。これはもう……
死を覚悟した。厳密には死なないのだけれど、それでも恐らく一度は死ぬだろう。
勝利以外に脱出が出来ないのであれば、我々全員が死んだらどうなるのだろうか。再生出来る我々ならともかく、死が許されない人達は?
そんな走馬灯とも思えなくもない
そんな私の体を、
「え……」
無慈悲な
喉にやっと心が戻った。
「───どうして!!?」
痛みも忘れ彼の元へ駆け寄る。角付きは倒れる彼の体に巻き込まれない様に離脱していた。
「シュウさん!!
噴き出す血に体が染まっても構わずに彼等の名を呼ぶが、貫かれた位置を見ればそれが即死であるとは嫌でも予想がついた。シュウさんが表に現れる事によって一時的に意識の裏側へ追い出された
畜生。ちくしょう。チクショウ。
私は呪った。己の
座り込んだまま動けない私の周辺を
そうだよね。それがあなた達の役割なんだから。
自分が
《 創造者の心機能完全停止から一定時間が経過。拠点への強制送還を実行します。》
「え?」
再び網膜に映し出される文章。そして横たわった彼の体が突然ふわっと浮き上がり直視出来ない程の光に包まれたかと思ったら、眩しさに目を閉じた一瞬の後には跡形も無く消え去っていた。
「どういう事…?」
同じ光景を見ていたのか、
システムメッセージを思い出す。
《 拠点への強制送還 》…。拠点…、そうか、あの場所だ。もしかしたらこの状況からでも…!?
立ち上がり、意識を集中する。開かれる扉のイメージ、そして行き先を強く思い描く。
「ゲート、オープン!」
前世だったらこんなセリフを大声で発する自分に悶絶死していただろう。でもここは異世界で観客は目玉だけだ。恥ずかしがってる場合じゃない。
《 『 』から拠点への自由意思による帰還は出来ません。》
…まさかの、だ。
視界に流れるメッセージに微かな希望すら打ち砕かれる。
私の異質な動作に警戒したのか、視力が回復したらしき角付きが大将自ら引導を渡しに接近して来た。
最後まで諦めるな、とよく誰かは言う。私も言う時がある。
でもそれは爪の先程でも希望が残っているのであれば、の話だ。
この状況で精神論を振りかざせる程私は楽天家では無かったらしい。
角付きが彼の血で赤く染まった体と角で突撃して来る。
私も、死んであの二色空間へ送還されるのだろう。それは最早仕方の無い結末だった。
諦めたのではない。再スタートだ。そう誓った。だから間違いの代償として、今は甘んじてその角を───
【怒りに我を忘れた獣が一本の鋭く
急速に脳裏に焼き出された記憶。
前世の最期の、あの瞬間。
迫る死の刃。対して私が唯一持っている物、それは異世界の在り方その物を記す───
高く
「こンのクソ野郎ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!」
振り下ろされた本と角が触れ合ったかという瞬間、本を中心として物凄い衝撃が発生し私を吹き飛ばした。
本を手離しこそしなかったものの、私はその衝撃をモロに受け壁際近くまで飛ばされた。
仰向けに転がった状態で自分の体に意識を通して調べてみる…までも無く、グチャグチャだった。服なんて千切れ飛んでてほぼ
大きく咳き込んだ口から血が派手に吹き出した。
《 本書へのダメージを確認。ペナルティーにより保有者の身体を一定時間拘束しています。》
少し遅れて、残念ながら接近して来る敵影。角付きを先頭に。
ああ、やはりあの衝撃波は私に対しての物だったのか。ぶっ飛ばしきれなかったのが少し悔しかった。
だけど、
「見てなさい…。次は必ず、私達が勝ちます」
誰にも気付かれる事の無い山奥の洞窟の奥、ある人間が
《 創造者及び
──────え?
(次頁/28へ続く)
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