~ 第2集 ~
メガネスーツ女子と死後?の世界
頁28:二周目前の検証実験とは
暗い。暗闇なのか、目を閉じているだけなのか。
それなのに浮かび上がる、目、目、目。大量の目が私を見ている。いや、近付いて来ている。
その感情は読み取れない。
私の体は指先一つ動かせない。完全なる無抵抗だ。ただ一つ分かるのは、無抵抗ゆえに慈悲を掛けられるという都合のいい未来は無い事。
それを証明してやると言わんばかりに、大量の目が私目掛けて飛来する。圧倒的な暴力の嵐が、私の全身を削り潰して───
「こんちくしょぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!」
視界が唐突に
「うおビックリした!!」
少し離れた場所から聴こえた声…。
「
読んでいた本から目を離しこちらを見る軽薄な笑顔。だらしない服。目が痛い程に真っ白な地面。遠近感の無い青空。
そして跳ね飛ばしたのはなんかヨレヨレにくたびれた感じのする毛布。ちょっと
「これ……」
「ヤ、そのまま寝かしておくのもアレだし、寒くはないとは思ったけど一応ね?」
物体を呼び出すのにどれくらいの制限があるのかは分からないけれど、どうしてそれならもう少し綺麗な状態の物を被せてくれないんだろうか。相変わらずのデリカシーの無さと言うかズレと言うか。
だからこそ、
「え…アレ…? ちょっと、みさちょんサン…??」
角付きに貫かれて倒れた
「…う……うえぇっ…、
「はぁ!? や、ま、えっ? ナニ!?」
色々な感情が爆発し、私は
◇◆◇◆◇◆
ズビィィィィィィ!!!!
お世話になりっぱなしの箱ティッシュ(しっとり触感)で盛大に鼻をかむと、亜空間ゴミホールにポイ捨てする。このティッシュどこまで飛んでいくのだろうか。
正座した私の向かいには同じく正座してオロオロソワソワしている
「取り乱してしまい申し訳ありませんでした…」
前に『辺りが夜だったらいっそ
「イヤ、さすがに驚いたヨ…。どうしたのサ突然?」
「いえ…その…」
二人が無事でよかったから、なんてもう言えない…恥ずかしすぎる。それに素直に言った所で『いやいや無事ってww そもそも死なないでしょオレ達www』と笑われるのが目に見えている。リアルに想像できる。
「マジで…大丈夫?」
…でも何となく、今の彼の目から感じる人となりならば私のこの気持ちも理解してもらえるのではないだろうか。
言わなければ伝わらない。今後もずっと一緒にいる訳だし、
「その…、私を
「いやいや無事ってww そもそも死なないでしょオレたtごぴょぇッ!?」
「一文字も外さずに言うな!!!」
顔面に向けて
やはりこの空間では【力】は
「ナハ…ハ…、よくわかんないケド落ち込んでたみたいだから…冗談だったんだけどサ…」
「もう今後絶対言いません!」
「そんなァ…おいシュウ、話と違うじゃねーか! ってナニ爆笑してんだヨ!」
と言うかシュウさんの差し金だったのか。あの人そんな冗談言えるのね。爆笑するシュウさん…見てみたいような恐ろしいような…。
「私が起きる前に何を調べてたんですか?」
気持ちを切り替える為、泣いていた間外していた眼鏡を再び掛ける。パンパンに
「あ、メガネしちゃうんだ…」
「基本装備なので」
「ソーナンスカ…」
ソーナンス。
「えっと、あの戦闘で世界のシステムがイロイロ判明したジャン? それを確認しようと思って」
「成程」
我々の【力】の極端な制限や、強制的に立ち位置を変更させられた事、そして…
「後出し方式でヘルプが追加されていくのがナットク行かないんだけどサ、とりあえず分かったのがこんな感じ」
《 創造者及び
・再生能力:拠点の60分の1 ※傷病の
・身体能力:+補正は全て解除。
・空想具現能力:対象を害する能力は
この妙な空白は…誤植か?
《 ダンジョン探索時、探索者がダンジョンに於ける目的/狙いより
…何だこれ。まるで
いや、寧ろ
「あの、これって…」
「え?」
言い掛けて、やめた。そうか、後付けなのは
以前この本に急に検索機能が追加された事があったが、その時は私が『検索機能があればいいのに』と呟いた直後だった。あまりにもタイミングが良すぎるから実は会話を聴かれているのでは?と冗談で思ったが、どうやら
『検索機能が欲しい』も『いざという時は【力】で』も『
聴かれているのだ、恐らくは。
ならば
「ねえ、何なのヨ??」
私は猿でも分かるように人差し指を唇の前に立てて、無音で『シー!』とサインを送った。ついでに鋭い視線でダメ押し。
本のチャット機能で話そうとも思ったが、本自体が監視のツールである可能性も高いので。
「───!? …(恐る恐る首をコクコク)」
「ちょっと本に追加して欲しい機能を思い出しまして…」
喋ってはいるが、彼に向けた『
私は正座のままなるべく音を立てない様に彼の近くへ移動し、虚空の穴を開けると目的の物を召喚する。
所でどうして私が近付くとビクッとするんだろうこの人…?
「???」
彼が混乱するのも無理は無いかもしれない。
私が取り出したのは
「辞典とはいえ、文字ばかりだと見た目に華が無いですし飽きると思うんです。まあそもそも私達以外にこの辞典を読む人間がいるのかは分かりませんけど…。我々の時代の辞典って電子化が進んでいて調べたい物に対して必ずと言っていい程にアレが付いているじゃないですか。ええと、何でしたっけ…ド忘れしてしまいました…」
喋りつつ、私は真っ白な地面にサラサラと文字を
◆◆ 私が「何でしたっけ?」とたずねたら、「あ、分かった、カメラ機能か!」と言って下さい。
※ここから先に書く文章は無視して下さい。検証実験ですので。
五千兆円欲しい 有給10年欲しい 社長の奥さん何とかして殴りたい 地上の探索拠点が欲しい。出来れば移動可能なでかいやつ
書き並べた文章に特に意味は無いが、もしこの中の要望のいずれかが通れば盗聴ではなく盗撮されていると言う事になる。
「ええと…
目でチラッと合図を送る。
ビクッとしてから恐る恐る口を開く。
「『…ひゃ、分きゃった、カメリャ機能りゃ!!?』」
なんだその噛み具合。大根役者も裸足で逃げるわ。
突っ込みたいのを我慢して何事も無いかの様に続ける私。役者もイケるなんて優秀。
「そうでした、カメラ機能。画像付きの辞典だと見た目も素敵ですよね。そういう機能って無いんですかね」
すると私の【本】が虚空から飛び出した。来た…!
《 画像記録機能が追加されました。本に触れた状態で、複写したい風景を四角く切り取るイメージを浮かべ『保存』と唱える事でその瞬間の風景を静止画として保存する事が可能です。》
「あ、最近は静止画だけじゃなくて動画資料とかもありましたっけ。より詳細な説明が出来て便利ですよね~。動画機能も」
《 動画記録機能が追加されました。本に触れた状態で『動画』と唱える事で、その瞬間から唱えた者の視覚に映った映像及び音声の記憶を任意のタイミングまで動画として保存する事が可能です。》
食い気味で追加された。思うままじゃないか。
もうこれでほぼ確定した。我々の音声会話は
誰に? それは…ちょ、ちょ、【
「わぁ、見て下さいよ
カシャッ。
カシャって。カメラじゃないでしょうに。
「保存先は…専用のページが出来てますね」
真っ白い地面とキャンプ仕様の薄暗い空。何て風情もへったくれもない写真だろうか。だけどこの機能自体はいずれ役に立つだろう。追加されたなら有難く使わせて貰おう。
「この画像、
「ひゃ、ひゃい! できてまひゅ!!」
いつまで固まってるんだろうこの人。
「
「サーセンしたぁぁぁぁ!!!」
よし戻った。とりあえず検証は終わったので地面の文字と使用した道具を全て【力】で証拠隠滅する。
あとは盗聴に関しての最終確認だ。
私は本をそっと地面に置くと、靴を脱いで音を立てない様にその場から離れる。
体感で50m程離れただろうか。ここにいない
「そういえば…本をしまい忘れてそのまま放置して、結果的に無くしてしまった場合ってどうなるんでしょうね?」
…周囲に明確な変化が無かったので無音の速足で戻り、本を確認してみる。
予想通りヘルプページに説明文が追加されていた。
《 創造者及び
また変な空白。意味があっての物だろうか。
「
「ええと、アイテム欄と言うか、持ち物をしまっておく場所? みたいな? 箱ティッシュ(しっとり触感)を呼び出した穴じゃなくて、本が出入りする時に開く方の穴って言えばいいのかナ? 分かりにくいケド」
ああ、シュウさんが拾った物を放り込んでいた穴か。何となく理解した。
そして───盗聴に使われているのは本ではなく、
本が収音装置であるならばあの距離で口にした音が拾える訳が無い。
「成程、
下調べが長くなってしまったが…本当に気になっていたのはあのメッセージだった。
《 全滅によるペナルティーが『 』に課されます。》
(次頁/29へ続く)
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