頁26:初めてのボス戦とは
開け放たれた扉の向こうはそこそこの広さの空間だろうという予想はついた。なぜ曖昧な表現なのかと言うと、今までずっと明るかった洞窟内が急に薄暗くなったからだ。視界の大分奥に壁が辛うじて見える。地面と壁面が交差する部分の緩やかなカーブを追って見るに、恐らくは手前の安全地帯と同じ様に妙に整った半球状の空間なのだろう。最早天然洞窟なんて概念は皆無だ。
ボスが待ち構えているというだけでも緊張するのに、薄暗さで視界が悪いのは嫌な予感しかしなかった。
「縮小地図には
「
「え?」
「多分だけど、
「え!? 閉じ込められるんですか!?」
「バトルの間だけだと思うヨ。『ボスからは逃げられない』、それがお決まりだからネ。逆に勝てば出られるようになるハズ」
そういう物なのか。なんだか平行宇宙の地球と言うよりゲームの中の地球みたいに思えてきた。
…仮にそうであってもなくても大差は無いのだろうけれど。
「ミニマップの表示も扉が閉まる瞬間に集中してて。予想通りなら
「ええ!? そうなんですか!?」
圧倒的不利じゃないか。それとも本当に初級ダンジョンであるならばそこまでシビアでもないのか? いや油断は禁物だ。見立てを甘くして
「それじゃ…行こう」
彼の背中から緊張が伝わってくる。探索開始からここへ至るまでの
…なんだ私、偉そうに。
高くなっている自分の鼻を自分で叩き込み、彼の後に続いて空洞内に進入する。ゲームでの経験を踏まえてなのか一歩一歩が非常に
「来る!!」
「!!」
これがゲーマーの勘と言う奴なのだろうか、
「
縮小地図の範囲内には表示こそされている物の、肝心な
「数が多い!? 囲まれる前に包囲網の外まで下がろっ!」
「はい!」
少数であれば先程の様に背中合わせで対処出来るかもしれないが、まだ複数体を相手するのに不安がある彼にはこの数は荷が重い。それに確認出来ているのはまだ網膜の縮小地図の範囲内だけだ。ここがそれを優に超える広さの空間である以上はもっと出現していると考えられる。
たった今通り抜けたばかりの扉付近まで後退し、改めて場を観察する。
まだ姿は見えない。移動している様子も無い。
「上か!?」
彼の声に反射で天井付近に目を凝らすが敵影は見つからず。
「まさか、地面の下から───」
その考えに至った瞬間、正解と言わんばかりに地面のあちこちの土が盛り上がり始めた。
「……7、8、9……少なくても10匹以上いるってばヨ…」
声に
そして、土の下からこのダンジョンの支配者がその姿を現し───
「…んん?」
「わあ……」
モコモコと土の中から現れたのは、
「鳴き声と言い、あいつらどんだけ自分に無理重ねてるんだろうネ…」
「………」
丸い体を必死にくねらせて土から出ようとしている。短い脚のせいでうまくバランスが取れないのか、よちよち歩いては時々
「実は今がチャンスなんじゃね…?」
「…ん? ねえ、チョット…」
「……癒し動画録りたい……」
可愛いが過ぎるでしょう! 例え倒さなきゃならないとしても!!!
「ちょ!! バっ!? こんな時に何言っちゃってるのよぉぉぉぉぉ!!!??」
その絶叫を合図としたかの様に一斉に羽ばたく
「大きい声出すからですよ!!」
「オレのせいなの!?」
「他に誰がいるんですか!」
「テラ理不尽!!!」
近い位置にいた数匹が突撃して来る。相変わらず同時攻撃という
「落ち着いて確実に対処していきましょう」
「なんかナットクいかないけどイエス・みさ!!」
馴れ馴れしいです。
順序良く飛来するボールを次々と叩き落とす。周辺に次々と転がっていく
「へへっ、なんだただ数が多いだけジャン! 落ち着いてよく見ればこんなのもう楽勝ォ!」
む、悪い
このダンジョンが天然の洞窟ではなく『本により創られた
ならば
何種類か新種に遭遇するかと思ったけれど結局最奥に至るまで
これがもし本当に初級者の為の訓練を意図したダンジョンであった場合、ボスというのは『試験』なのでは───
「試験…?」
もう一匹を弾き飛ばす。数は半数ほどになっただろうか。このペースであれば難なく勝利出来るだろう。しかし───
「ゼェ…ゼェ…、あ、あと、半分くらい…?」
まずい、
「無理しないで私の後ろに!」
「チョー…余裕…っス♪」
汗だくの顔で笑顔のサムズアップ。それは彼なりの
しかし我々の状態など当然の事ながらお構いなしに再び飛来する
「…!?」
「(いけないっ!!)」
突きの姿勢から
そう、姿がブレて見えた気がしたのは高速で回転していた故の残像だったのだ。明らかに攻撃のパターンが違う! まずい!!
「
「いっけぇぇぇぇ!!!!」
振り向いた瞬間目に映ったのは、高速で回転する
耳障りな、記憶にずっと刻まれたまま消える事の無いであろうあの『鈍く砕かれる音』が、広大な空間に響き渡った。
(次頁/27へ続く)
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