頁25:安全地帯とは
「あぶにゃい!!!!」
「うわびっくりした」
シュウさんの後に付いて通路の分岐まで戻って来た辺りでようやく
「あ…あれ…?」
「おはようございます。もう夜ですが」
「うっそマジで!?」
「嘘です」
「デスヨネー」
寝起きからテンション高いなこの人。ていうか『あぶにゃい』って…。直前まで鉄仮面のシュウさんだったのがいきなり表情豊かになって脳がおかしくなりそう。
「いやそうじゃないでしょ!
「ちょ、ま、落ち着…」
私の肩を
「
「落ち着けって言ってるでしょう。ぶっ飛ばしますよ」
「もうぶっ飛ばしてるからね!?」
あらやだ。
「
斜め45度で
すると戦闘中の記憶が蘇ったのだろうか、なんだか得意げな表情になってきた。イラァッ。
「いやァ…何て言うの? オレちゃんも自分に
止まらなさそうだったので引っ叩いた。さっきの逆側を。
「何で叩くのよォ!?」
「
「そんなにちっちゃく無いでしょぉぉぉ!?」
黙らせようと思ったんだけど逆効果だったかしら。
「
「だーーー! 分かったよ! 調子乗ってましたスンマセン!」
90度に腰を折って謝罪する。妙に慣れた感のあるキレだ。
「では引き続き緊張感を持って進みましょう」
面と向かって褒めすぎると油断しそうだから黙ってはいるけれど、まともな日常からしたらこんな異常とも言えるシーンで、しかも経験も無しにあれだけ立ち回れた事は素直にすごいと思っている。
才能という意味では実際に
「え、と…どっちに進む? 右?」
「右ならもう行きましたよ」
「えっ!? なんで? でも、オレ…。───あ」
ハッと何かに気付き、視線を泳がせる彼。
「あの…もしかもしてもしかもすると…」
どういうかもしだろうか。二回目。
「オレが起きるまでの間……その……」
「あなたが話してもいいと思ったら、その時に改めて伺います」
その言葉で何があったのかを何となく察したのだろうか。
「…ごめん」
「謝る事なんですか?」
「いや…、でも、ごめん。何となく」
どういう関係性なのかはまだ分からないが、ハッキリしているのは『
しかし確か解離性同一性障害は人格同士での記憶の共有は
彼の人生においていつぐらいからお互いを認識していたのかは分からないが、前世の地球ならばその特殊性ゆえに生き
「
「…!」
その言葉で、自分が気絶してる間にシュウさんが私とどの程度の会話をしたのか察した様だ。
「調子が狂うので
◇◆◇◆◇◆
分岐を左へと進んだ先。途中で何度か
「なんだか…ここは様子が違いますね。妙にぽっかりしていて居心地が良いと言うか…」
人工的な洞窟風ダンジョンだというフィルターを通してもこの部屋は更に整えられた間取りをしている。
休憩でもして下さいと言わんばかりに座るのにちょうど良さそうな石や焚火に使えそうな
「いよいよか…!」
「いよいよとは?」
「え? 『とうとう…』とか『ついに…』って意m」
「分かってます。そうではなくて『何がいよいよ』なんですか?」
いよいよが分からないと思われたのだろうか私は。屈辱だ。
「…ここは恐らく【安全地帯】なのヨ…。
確かに。明らかにこちらを視認していた様に見えたのに不自然に引き返していった。
「こういう場所が設置されているとしたらダンジョンの中間地点、もしくは…」
「最終目的地の手前、という事ですか? でもなぜわざわざ自分達の拠点に敵の為の
「それ以上いけない」
突然真顔で
「この世界で『なぜ?』なんてタブン
「むぅ…」
それは確かにそうだとは思うけれど…。と、いけない。さっき宝箱の件でもシュウさんに同じ事を指摘されたばかりじゃないか。
本によって支配されてるこの星では私の常識が通用する部分と通用しない部分がある。その通用しない部分を元の世界と同じ形に矯正しようとするのは私個人のエゴだ。
「初級のダンジョンだとそこまで深さはないハズだから、恐らくはこの先がボスの部屋で間違いないヨ」
ボス…。討伐目標である以上は雑魚敵と見なされている
私にはまだこの目に見えている世界をゲームの様に同一視する事は出来ないが、少なくとも理解する努力はするつもりだ。
「どうするみさティヴ? 一休みする?」
「私は大丈夫です。変に休んでしまうと逆に体が動かしにくくなるので。でももし
「や、オレもダイジョーブ。なんせ
自虐で爆笑出来るなんて器用だな。気絶は厳密には休息にはならないのだけれど…本人が不要と言うならば問題無いのだろうか。
「さ~て…鬼が出るか蛇が出るか、ってネ…!」
蛇はちょっと怖いけど頑張ればどうにか出来るかもしれない。鬼は…どうでしょうね…。
「ほんじゃ、行くヨ! ……よっこい……しょういちィ!!」
見た目以上に重いのか
…で、誰の名前ですかそれ…?
(次頁/26へ続く)
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