頁50:試される者とは
重そうな装飾で全身を包んでいるミニチュアお爺さんがスーッと宙に浮かぶ。
「ちょ、ちょ、じーさん、落ち着いて!」
『【
「ツヅリビトぉ…?」
成程、我々の事は知られているらしい。やはり
「お爺さん…、その…」
『
「…!」
この方もまた、生み出された自分の使命が押し付けられた物であると理解しているのか。
私は対峙する二者の間から離れた。
「ちょっとみさベリーさん!?」
「
恐らくは戦闘状態とみなされているから
「ナニソレこわい!!」
悲鳴を上げると彼は本を抱き締めてガードした。隙間だらけだけど。
彼に何か一言伝えようと思ったけれど多分今はどんな言葉も聞こえないだろう。
私はビビっている
「ユッシー大丈夫かよ…」
「分かりません。でもあのお爺さんの口振りからすると彼は試されているみたいですね」
「試されているって…強さトカ? でもアイツめっちゃ強いんでしょ?」
「お爺さんは『心が決める』と言っていました。それはつまり純粋な強さでは無く彼がどう考えて
「復讐の為じゃないの??」
「それは確かにそうなんですが…」
何て言えばいいのだろうか…。私自身も感情に
パリッ!っと辺りに静電気が走った様な音が響いた。実体を持たない空気の塊が辺りを押し退ける感覚が広がる。
「お…始まっちゃったヨ!」
「【本】をしっかり守ってて下さいね」
「イエス・マム!!」
「うるさい! 静かに!」
完全に迷惑な観客だった。
それは兎も角として…
しかし動きがあるものと思い込んでいた予想とは違い、相変わらず石像の様に動かない一人と一人。
「うっ…」
急に
「え…?」「アレ??」
何かされた様子も無いし、少なくとも両者の間で明確な動きは無かった
近付いても大丈夫なのかしら…? と迷った瞬間に
「ユッシー!!」
「ちょっと【本】が───!!」
地面に落とした衝撃もきっとダメージ判定に…! と惨劇を想像したが、地面に触れる直前に虚空へと消えていった。
つまり周辺が戦闘状態から解除されたという事だろう。
ホッと胸を
「ユッシー、どうした!? 大丈夫か!?」
『成程、その齢でありながらこれ程の技術、身のこなし…。星が産んだ異端児じゃの』
お爺さんが呆れた様な、感心した様な
「オイじーさん、ユッシーに何したんだよ!」
『慌てるでない【
「え、ナンだって??」
「
ああめんどくさいこの無音システム。
「ナルホド!」
「あの…それで、一体何がどうなってるんでしょうか?」
『なに、実際に戦えばおんしらにまで害が及びそうな予感がしたからの。頭の中で戦っておったまでよ』
「え…?」
お爺さんが自分の石帽子をチョンとつつく。頭の中で、とはどういう意味だろうか。
「マジか…! じーさんすげぇな!! ナニ、VRとか出来ちゃうワケ!? しかも一瞬で体験できちゃってるって事だろ!? だってオレ達見てたけど全然時間経たずに終わってたし!! やっべ、じーさんパネェ!!」
『お? おお?? ぶいあーる? よ、よく分からんがまあそういう事じゃな! どうじゃ凄いじゃろ
怒っていたと思えば急に尊敬の眼差し…本当に感情が忙しい人だな。お爺さんも乗せられてるし。
「つまり、現実では何も起きてませんでしたけれど、彼の脳内では戦っていたという事ですか?」
『うむ、その通り。中々の戦いであったぞ』
「嘘だ…!」
私の手を払い
「何一つ通用しなかったじゃないか…! 涼しい顔で全部受け流してさ…!」
言葉には強さが感じられるが、どう見ても無事だとは思えない疲労困憊ぶりだ。
脳内とは言えどれだけの激戦だったのだろうか。
「あんなに必死に訓練してきたのに…! この為だけに頑張ったのに…!! それでも
鉄仮面だと思っていた少年の目に、気付けば一筋の涙が。
彼の生き様は私には理解する事は出来ない。でもその涙が語っていた。13歳という幼さで心を閉ざし、復讐の為に生きる事を決意したその覚悟を。
目の前に立っていたのは、傷だらけの少年そのものであった。
「あの、お爺さん、彼は…その、本当に
駄目だ、我ながらここぞという時のフォローがひどい。
「え、じーさん、ユッシー失格なの!? そりゃオレちゃんも実際に戦った姿見てないケドさ、でも同じ
「ミサキ…シシバ…。あのさ、フォローしてくれるのは有難いけど、二人して僕の性格がアレだって思ってたんだね…」
「「 あ 」」
しまった、
『ふむ。【
自然と三人ともお爺さんの方に向き直る。
『
お爺さんがさも楽しそうに笑う。
私はその台詞を聞いた覚えが無かったので彼等の脳内での事なのだろうか。
「な…」
「なんだよそれぇぇ!!!」
ああ、この子、こんな大きな声出せるんだな。
私は彼の姿を
(次頁:51へ続く)
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