メガネスーツ女子とジャガイモとトイレ問題
頁40:星の名とは
さて、カミサマ作業を始める前に共通の認識として持っておかなければならない事がある。
「
「…ナニソレ」
知らないのか。こういうどことなくファンタジー臭のする単語は知ってそうだと思ったんだけど。
「物凄く乱暴に説明すると、取るに足らない
「ああ!『風が吹くと
なんでそれなら分かるんですか。
「これから我々が行うこの星の事物の
「え、ドユコト??」
私は世界地図のページを開き、先程と同じ様に各地の気温を表示させる。
「まずはこれを見て下さい。世界の現在の気温を簡易的に表示してもらってます。どう思います?」
「むむ…?」
「ナルホド…これは…」
「お分かり頂けましたか」
「世界中めっちゃ快適な気温だネ」
「そうですね。馬鹿」
「ひどくね!?」
何となく分かっては貰えないと思っていた。私も慣れたものだ。
一から説明しなきゃダメか…と
「よく見て下さい。気候の極端な地域以外のあらゆる場所の気温が全て同じなんです。北半球も南半球も赤道上も全て」
「うおマジだ…、なにこれキモ…!」
本気で気付いてなかったのか。
「今は
「や…めっちゃ快適だけど…。え、
「自分で設定したんでしょう…」
「スンマセン、記憶に無いデス…」
予想してました。
「まあ春夏秋冬のいつからが
「え、じゃあ四季【
「そこで先程の『バタフライエフェクト』の話に戻ります」
「ほえ?」
シュウさんに変わってもらった方が話は早いのかもしれないけれど、これは
「この村の人達の
「どう、って…」
「うん、ダサいよね」
「……ええと、馬鹿」
「また!?」
ガビーンという音が飛び出しそうな顔でこちらを見る。
「デザインはともかくとして…機能性が良くないんです。服としての最低限の
「そういや服は認識出来てるよね。何でだろ」
「予想ですが…『人々は認識出来る』のと同じなのでは? 嫌な言い方をするのであれば、ミッション1において
本当ならば元の地球の様に歴史があって人々はその命を子々孫々へ繋いで来た、と思いたいけれど…【
「ナルホド…メガネは顔の一部ですってのと同じ」
「違います。外せますから」
スイっと眼鏡を外して見せた。
「あ、そのまま」
「嫌です」
「そんなぁぁぁぁ」
また掛ける。
どちらも私でしょうに。男性の感覚はよく分からない。
「とまあ、脱線してしまいましたが、つまりはこの星の人々は気候の変動に対して基本である衣服での調整能力が不足している可能性があります。暑い国には暑い国なりの、寒い国には寒い国なりの
「てコトは…
「そう、意味も分からずに凍死するでしょうね、大勢」
理解が追い付いた
「これはあくまでも一例にすぎませんし、意外に人々は死なないかもしれません。ですが希望的観測で試してみるにはあまりにもリスキーです。つまり、我々のミッションとは常に『そういう可能性』が隣にいる物だと
《【ペナルティー】の中に『世界人口の一定数以上の減少』などが含まれている可能性もあります。声に出さないのはもし現在のペナルティー一覧にこの条件が含まれていなかった場合、会話を聴かれて後からちょ…ちょ…【
《 【OK印の妙なキャラ】 》
《うざ。》
《;ω;》
「そういう訳で、【承諾】については可能な限り話し合って進める様にしましょう」
「了か──────待て」
「えっ?」
突如彼の雰囲気が変わる。シュウさんと入れ替わったのだろうか。
「理屈は分かった。だが、今の話の様にいずれ世界に気候やらなんやらが設定されていくのは決定項なのか?」
「…どういう意味でしょう」
シュウさんの真意は未だ図り切れずにいる。何に対して興味を抱くのか、何に対して怒りを感じるのか。表面的な事さえ私にはまだ分からない。
「自分で選んだ事だから後悔はしていないが、この星の連中は
確かに。
「あんたはこの星の人間を救いたいんだろう。いたずらに試練を与えるような真似をするのはあんたの言う正しさなのか?」
「そうですね…実は気付いていました」
ひろしさんの苦しみを何とかしようと選択したあの決断。
「死の定義を根付かせた直後、世界の人口が急激に減りました。世界が死を死として理解出来ていなかった、もしくは死という物が
でも。
『なあ、知ってるなら教えてくれ…、俺達はどっかおかしいのか…?』
「それでも、自分は正しいと? …
…?
脳内で
「…生き死には正しさなのでしょうか」
「何?」
言い訳にならない様に、私は私の中の素直な感情を必死に言葉に変換する。
「シュウさんが言ってた『世界が死体で埋まる』という冗談ですが、…え、あれ冗談ですよね? ともかくそれがもし本当に起きてしまった場合、確かに亡くなった人達は目を覚まさないだけで眠っている扱いになるのだと思います。でも…それは生きているのでしょうか? それとも死んでいるのでしょうか?」
「……」
無表情で私を見つめるシュウさん。
私は手にした【
「正しく生き、正しく死ぬ。その正しさとは正義ではありません。しかしこれだけははっきり言えます。人が人の
気が付けば全身にうっすらと汗をかいていた。言葉に対してそれだけの熱量を込めていたのだろうか。
「【
「…え? あ、いや、その、あの」
「いいんじゃないか」
「え……あ、ありがとうございます…」
肯定されるとは思わなかった。
「なあ、『二番目』を意味する言葉を知ってるだけ言ってくれないか」
「え? あ、はい、えっと…」
唐突にどうしたんだろうか。
「
「よくそんなにポンポン出て来るモンだな…
自分で聞いておきながら引くってどういう事だろうか。
「どうも。後は…
「ああ、それだ」
「?」
何なんだろうか。このやりとり、なんだか覚えがあるような。
「───OK、異存は無い」
「あの…」
「俺達にはもう帰る故郷は無い」
「え…?」
シュウさんが【
「もう
そうか。
「決められたんですね、やっと」
「…気の迷いだ」
「そういう事にしておきます」
「…フン、いい顔をする様になったじゃないか」
「
驚いた顔をすると、ククッと笑った。
「違いない」
この人の笑った顔、初めて見た。
開いたページの表面を指先でさらさらと
二人の声が同時に聴こえた気がした。
空が、大気が、地面が、大きく震える。
一瞬前よりも呼吸は深くなり、足は確かに大地を踏みしめ、
それはつまり、この宇宙にこの星が正式に誕生した事を証明していた。
《 世界設定/名称/世界:地球 (ツヴァイ・アス) が登録されました。世界設定の一部が修正されます。》
(次頁/41へ続く)
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