頁06:選択された歴史とは

       






「敵対…生物…?」

所謂いわゆる【魔物】だ【モンスター】だと呼ばれる奴等だ。この星はこれからRPGみたいな冒険の世界になっていく。ああ、RPGと言っても分からないか?」

「それくらいは分かります…!」


 私は歯をギリっと食いしばった。

 ロールプレイングゲーム。見た事もプレイした事も無いが、文字の通りであればプレイヤーが登場人物の人生ロール代行プレイして進んでいくという物だろう。その物語で自身を成長させる為に倒すのが恐らくは【魔物】とやらなのだろうか。

 しかしそれはあくまでも仮想世界の物語だ。嫌な言い方をするのであれば、

 でも彼が作ったという地球モドキは…人々は生み出された経緯こそ知るよしも無いだろうけれど、確かにはずだ…!


「…その生物は、人を襲うのですか」

「【敵対生物】ってくらいだからな。人も襲うだろうし、動物も多分一部は襲われるかもしれない」


 何かしらの変化があったのか、彼は今しがた出現させた本を確認しながら適当に答える。


「…襲われた場合、人々は生き残れるのですか」

「ふむ…、まだ序章の序章だから強い敵はほとんどいない様だな。『一部、星の歴史に修正がはいりました』ってシステムメッセージが何なのか確認したが、この星の人類の基本職業に『敵対生物との戦いで生計を立てる人々』というのがらしい。そういう奴等なら難なく倒せるんじゃないか?」


 


は───?」


 本から視線を外し、私の方を見て薄い笑みを浮かべながら───


「ああ、死ぬんじゃないか。女とか子供とか、男でも戦えない奴等は。でもそれは仕方の無い事だろう?」


 鳩尾みぞおちの辺りにもし何かがあるとして、それが握りつぶされた様な痛み。

 潰された何かからはじわじわとまた別の何かが流れていく。

 それはきっと、正常なモノではなかった。


「どう、して───?」

「このルートを選んだかって? それは選択肢の中にあったからから選んだに過ぎない。神から受けた指令は別に地球を複製しろという物じゃない。だったら自分が好きなゲームやテンプレ異世界ファンタジーに寄せた世界になった方が


 面白い?


「元の地球にならって同じ歴史を歩ませた所で俺達みたいな奴等が馬鹿みたいに無駄に死ぬ世界が出来るだけだ。そんなも薄い世界なんかより、いつ死んでもおかしくない世界で生きてる喜びを毎日感じている方が余程素晴らしい」


 三文役者の様な嘘臭い手振りを添えて壮大っぽいごとく。


「──ふざ…けるな」

「………あぁ?」


 何を言われたのか分からず、固まる彼。


「……ゲーム? 面白い? 生きる実感? そんなものの為に奪われる命があるって? 仕方ないって…アンタが生み出した人類だろう!! 命を何だと思ってんだ!!!」


 こんなに大きな声が出たんだな、私は。

 そういえばここまで激しく怒りをあらわにしたのはいつ振りだっただろうか。もしかしたら初めてかもしれない。

 彼は私を冷たい目で眺め、何かをさとったかの様に瞳を閉じ、息を吐いた。


「───あの~、何でキレてんの? 超ウケるんですけどw」


 まとう空気が変化する。構わずに続けた。


「アンタの趣味に付き合わされて殺される人がいるなんて黙っていられるか! 今すぐ取り消しなさい!」

「いや無理w 一度実行した選択肢は取り消せなんだわww」

「そんな…!」


 彼は手にした本を閉じ、背後に向かって投げ捨てる。落下する直前に本は消えてしまったが、その光景に驚くのは後回しだ。


「キミさ、何が不満なの? この星だってオレが頑張ったからこうして存在してんだヨ? オレが作ったモノをオレがどうこうしようが勝手じゃね?」

「それでもその星で生きてる人達はアンタの事なんて知らない。知らないけれどみんな必死に生きてるんでしょう? 死にたいと思いながら生まれてくる人間なんていない! 単に生きる実感を得る為だけに死と隣り合わせにある日常なんて、そんな世界…マトモじゃない!!」


 自らの声の余韻よいんの中、しばらくにらみ合う。


「ふ~ん、そっか。じゃあ仕方ないよネ」


 少し、困った様な表情で彼が呟いた。

 私はそれを理解してくれたものだと早合点した。そう、私は油断したのだ。


「んぐっ!?」


 全身が───足元の白い地面に吸い込まれる様に前のめりに叩きつけられる。

 すんでの所で顔面が激突するのは防いだが、私という体についているパーツというパーツが髪の毛一本に至るまで私を地中に引きり込もうと重さを課してくる。支える物の無かった眼鏡が先に落下しバウンドもせずに地面に張り付き、細い金属のフレームがゆがんだ。

 私を拘束しようとする髪を無造作に束ねて私の頭を吊り上げた彼が、にこやかにこちらを見ていた。




「生きる実感を得る為に死と隣り合わせにある日常はマトモじゃない、と。まあ確かに一理あるよね♪」





 ◇◆◇◆◇◆








   (頁01を経て、頁07へ続く)







         

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